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ごはんがないってマジですか?!  作者: なるねこ


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28/160

28.意外と脳筋

思うままに書いていただけですが、300位以内にランクインしたと報告が付いていてちょっとびっくりしました。

書きたいものを書いておりますので、評価、感想等はご自由にどうぞ。

ここ最近の習慣のおかげでだいぶ早く目が覚めた。

今日は何かを待つ必要もないし、日がしっかり昇って葛湯も飲んだらさっさと出発することに。


オレンジの木の生えていたところに飛んで、軽く周囲の魔獣を倒してみると。吹き流しのような旗のような、木の先に生成りの布を付けたものが地面に転がっていた。

オクティが近寄って触ってみると、布の部分に黒いインクで、細い三日月の中に五芒星が嵌っているような模様が描いてある。


「帝国の紋がついてる。遠征隊が残したものだろうな」

「へー帝国の印ってこんな感じなのね。遠征隊が立てたならまだ新しいものだと思うけど、倒れちゃってるね?固定が甘かったとかかな」

「根元に齧った跡があるから、妖精にやられたみたいだ」

「あぁ木の棒だと食べられちゃうのね。鉄とか金属の棒で全部用意するのは大変そ――あ。ゴムは動物性だから妖精は食べないし、味も匂いも無いから亜人もよほど飢えてないと食べないって。使い方の1つとして説明に追加しておこうかな」


とりあえず、大鍋一杯あるゴム液を出して倒れた旗の棒にペタペタ塗って乾かし、オクティに刺し直しておいて貰う。


「確か遠征隊はここからもっと上流へ向かったんだよね」


そこから聞いていた岩の隙間があるところまではそう遠くなかった。

確かに少し上り坂になった先に、坂の上だけ岩がむき出しの岩場になっており、その一部に縦の割れ目があって、水はそこから出ているように見える。


岩場の上まで登ってみると、しばらく平らに続いた岩場の向こうは再び緩やかに下り坂、そして遠くに森の切れ目が見えるので、向こうにも何かあるかもしれない。


「ん……?」

登った向こう側を眺めていたら、隣のオクティが真横を見て何か不思議そうなのでそっちを向くけど、今立っているところが岩場、オクティが見ている右の方は普通に土が覆っているただの森で何も無いと思う。


「オクティ、どうしたの?そっちに何かあった?」

「よく見ないと魔眼でも誤魔化されるくらい強力な認識阻害の結界が張られてる。こっちからは森に見えてるけど、多分入ったら違う何かがあると思う」


「オクティがダンジョンで休む時とかにいつも入り口に張ってた、外から見るとただの通路に見えるっていうやつ?」

「うん、サイズが桁違いだけどそれで合ってる。帝国の街の空を覆ってるやつよりかは小さいけど、1つの結界としては初めて見る大きさだ。……見た目を変えるだけで、通り抜けたら燃えるとかそういう効果はなさそうだけど、どうする?」


「折角だからちょっとだけ見てみたい!」

「じゃあ俺の後ろにくっついてて」

素直に斜め後ろに立ってくっつきながら一緒に進む。


「うわびっくりした、結界二重になってる……あぁ、中のは瘴気や魔獣を外へ追い出す、か」

「人工的に安全地帯を作れるってこと?凄いじゃない」

「本当だな、本格的な街を作るには狭いけど、遠征の中継キャンプとか宿場町くらいなら作り放題だ」

足が止まったが、再び数歩歩くと景色が突然変わった。


木々が大きく開けて湖がそこには広がっており、地面は岩場で奥から手前に向かって細い川が流れ、岩の隙間から下へと落ちていっている。

「わぁ……湖だ!」


湖は澄んでいて、水底は岩の灰色一色に見える。水草とかサカナとか、海では見えていた色がない。ただ逆に水の色は不自然な白でなく、記憶にあるようなやや青みのある自然な湖の色だ。

そして、湖の中央付近に広めの浮島のように陸から隔離された陸地があり、その陸地にのみ、チョーコは見覚えのある濃い緑一色の『草』がみっしり生えているのが見えた。


「草がある、あれなんだろう……」

「行ってみるか」


湖の岸まで歩いてきたが、水の中からは反応がない。よく澄んだ水の中には、水底の周囲にちょうど人が楽に出入り出来そうな大きさの、綺麗に四角く開いた穴がけっこうたくさんあるので、何かが住んでいそうではあるのだけど。


「えと、すいません。おじゃましまーす」

なんとなく一応声をかけてから、オクティに抱えて貰って島へ移動、端ギリギリまで生えていて降りると踏んでしまいそうなので、浮いたまま近くで見せて貰う。


まだ青いが『小麦』だった。オレンジと同じで熟した種を撒いて魔獣の核で埋めておいたら育つようだ。

「きゃー!小麦あったー!」

「そんなに嬉しいものなのか?」

「うん!これは出来れば早めに欲しいと思ってたの!まだ緑色だけど、これが育って種が出来たら、それを使って……!」


「――人間達よ。それは我々にとって大切なものだ。持って行かれてしまっては困る」

いつの間にか水色の長い髪をした男性が水から頭を出してこちらを見ていた。

家っぽいと思っていた洞窟の中からも、何人か覗いている気配がある。


オクティは警戒したように少し飛ぶ高度を手が届かないくらいの高さに上げて、周囲を見る。

「見た感じ一番魔力が強いのがこの人に見えるな……村長とか?」

「あっ、住処にお邪魔してごめんなさい。えぇと、勝手に持って行くつもりはないんですけど……何か欲しいものとか手伝えることとかがあったら、それと交換してくれませんか?」


「確かに私がここの長をしている。たった2人でここまで気楽に辿り着いた様子を見るに、実力は確かなようだが……どこまで話して良いものか」


この村の長らしい男性の魚人もやっぱり見た目はかなり美しくて、水色の髪と素晴らしく綺麗な青い目だけど。どことなく覇気がないというか、疲れているというか。魔力が足りてない感じがする。


「えぇと……私たち、つい最近この近くで3人の亜成体の女の子たちが魔力枯渇でおなかをすかせた状態で見つかったって話を聞いて調べに来たらここを見つけたんです。何か困ってはいるんですよね?」


「あの子たちに会ったのか?実は見ての通り、ここ数年、新しい水草が生えなくなってしまったのだ。とうとう食い尽くしてしまってからは、落ちもののその草が熟すのを待って食いつないでいる状態で、魔力を大量に必要とする子供たちは育てきれないと判断して海に向かわせた。大人は魔力さえ尽きねば死にはしないが……もう既に、海まで繋ぐ川を作る程度の力も出せなくてな」


「あ……魔獣や瘴気を追い出す結界を張ってから、魔獣狩りを止めちゃってました?」

「確かにそうだ、それは必要なことなのか?」

「瘴気を魔獣が吸って、核に新しい魔力が溜まって、それを倒して水の中に撒くと新しい水草が生えるので、必要です」

「なんと……長や長老たちの訓練の強要はただの脳筋ではなかったのか」


色々最初から詳しく話を聞かせて貰う。


海には深海に大きなダンジョンがいくつかあり、そのダンジョン周辺がそれぞれ魚人の国で。彼らは『西の海』と呼ばれるところの出身らしい。魚人には両足まで人型の森を歩くもの(エルフ種)と尾だけ魚型の歌い誘うもの(ローレライ種)の二種がいる。


魚人は争いを嫌う性格のものが多く、水の属性を持つ種族が相手なら魚人族の子を産める能力と、魅了を使い、亜人ともあまり戦うことなく上手く付き合っているくらい戦いを避ける穏やかな種族なのだが。

何故だか年長者にはすごい脳筋思考が多くて、ダンジョンを守ることと魔獣を倒すことは我々の使命!みたいにいつも言っているらしく。


エルフ種は地上に出て湖を作って住んだり、ローレライ種は別の深海の国を目指して浅瀬を渡ったり、一度は国を離れて長く武者修行の旅をしないと一人前と認められなかったり、深海ダンジョンの最下層まで到達できないものはもう一度厳しい修行を課されるとか。


特に地上へ上がる者たちは、魔獣との戦いだけは避けるな、毎日しっかり戦って核を取ってこい、とビシバシ厳しく指導されるらしい。


ちなみに湖はそういう武者修行で地上に出てきた魚人の集団が作る地形、川はそこから生まれる地形なので、川の水が枯れていないなら、上流には必ず魚人が住む湖が隠れているそうな。


修行に出る際、切り札として海の力を籠めた『海の石』という結晶を1グループに1つ渡され。

それを使えば30年程度、魔獣を退ける結界を張ることが出来るという。陸上戦が苦手な魚人族でも安全な拠点を確保出来るし。ローレライ種は他の国に行った時に資金としてこれを渡せばスムーズに助けて貰える。


修行なのでなるべく使わずに過ごして帰ってくることを推奨されるし、魚人的にもお高いものなので。彼らも最初は使わず岩の滑り台を登ってすぐくらいの平地に、川というか細長い池を作って奥へ伸ばしながら暮らしていたらしい。


その時点ではかなり上手くいっていたのだけど、滑り台で海へ直帰できるところに数年住んだ程度では武者修行として認められないし、徐々に数が増えて川暮らしでは狭くなってきたし、ちゃんと広めの岩場を見つけて湖を作ろうと数日奥地へ進んだらここを発見。


丁度いい広さの高台の岩場、陸地なのに生えている珍しい草、水草とは違うけど、熟したものは同じように食べられる。気に入って湖にしたはいいものの、この辺りの魔獣の湧きは下流の比ではなくて。百近くまで増えていた仲間も50人近くに減り、ひと月も経たずに石を使うことになってしまった。


ただ使ってしまえば安全この上なく。陸の亜人は泳げないので家に入れば襲ってこないし快適。亜人に襲われないから繁殖もそれ以上は控えられ、今いる稚魚だけ育てて平穏無事に終えよう。

……と思ってたら、いつのまにか水草の数が激減していた。どうやら新しいのが生えてきていないと判明。


海の石は消耗品で一度使うと動かせないため何とかここで粘ろうと思ってたけど、本当に食料が尽きたし一旦諦めて帰るか、でも既に帰るための川を新たには作れないほど力が出なくなっていて、これはまずいかも、となっていたらしい。


ここは現在60人ほどいるけど、ある程度川幅がないと一気には降りられないし、細い川を作って1人ずつ下りるのでは陸からの攻撃から逃げられないので、下流まで何人生き残れるか……


「川を作らなくてもエルフ種の人たちは歩けるんですよね?陸路でも下流の川幅がある所まで頑張れば行けるんじゃ……」

「あの3人と同じ歳の子にローレライ種が居るんだ。成体まで育っていないと水の外ではうまく息が出来ない。あと数年耐えられれば抱えて移動も出来るようになるが、今すぐには難しい」


長が顔を向けた穴から、確かに濃い綺麗な青の魚の尾をした白髪の女の子が2人顔を覗かせていて、すまなそうに目を伏せた。


さすがに陸を歩けない子まで干上がった川に沿って海へいけとは追い出せなかったらしい。


「あの子達にも悪いことをしたと思ってはいるんだ……人間に見つかったということだが、まともに生かしては貰えているのだろうか?」


「皇帝……えっと人間の国の長ですね、その人が水属性で、3人とも愛妾にするって囲っちゃいました」

「なんと?!大出世じゃないか!良かった」

「え、そんな喜びます?まだ若すぎる子に見えましたけど……」


「よその群れでそこの長のハーレムの一員に入れて貰えるのは、なかなかない待遇だと思うが?若いといっても人型が取れて魔法も扱えるようになって、もう十分卵も産める身体だしな」

「そう、なんですね?」


魚人は群れの長のみ男でも女でもハーレムを作り、それ以外は特定のパートナーというものは作らないらしい。

1人だけ満足させれば、不特定多数や亜人の相手をしなくてもいいし、ちゃんと食べさせて貰えていて、しかも気に入られているなら何の問題があるんだ?と。


なるほど。あの子たちが長の妾と聞いて喜んでたというのはそういうことか。

元々そういう常識で生きてたのなら大丈夫かも。


「……そういえば、水草が無いなら木を切ってくるとか、無理ですか?」

「木?周りに生えているあれか?」


見た感じ、湖に近い所には老木しかなさそうだし、ほとんど枯れかけているように弱って見える。それはそうか、木の成長にも核が必要なのだから。


「人間はあれの中身を食べるんです」

丸太を割った状態で何個か入ってるので、若木や老木を出して解説をしていると、池の鯉よろしく60人ほどだという魚人たちが島の周囲に一斉に集まり始めたのでちょっとビビりつつ。

若木の中の粉の塊を皆にあげて分け合って貰う。


そして老木の中の石も成分としてはほぼ一緒という話をして何個か見せたら、長が水を使って石を粉にまで粉砕したものを配る。老木も充分食料になりそう、だいぶ食糧難に光明が見えたと礼を言われた。


丸々一本分持ってたのをほぼ分けてしまったが、喜んでくれたのでよし。


やっぱり全員美人が多い上に服は着ていなくて目のやりどころに困るけど。

男性は魚と同じように普段は体内にしまわれているっぽいし、女性は魚と言うにはちゃんと胸があるというかむしろかなりグラマーな人が多いわりに、上手に髪で隠していて、意外と大丈夫。


でももし貿易をすることになったら、水着みたいなものを流行らせた方が良いかもしれない。


食べ物を渡したので、砕いた核を小麦に撒かせて貰い、収穫出来るようになったら譲ってくれるという約束はして貰えた。

流石に成長がすごい早まると言っても熟すまで数日はかかるので、結界内の湖の近くにテレポートの目印を付けさせて貰う。


島から移動したついでに老木を何本かとるのを手伝い、中の白い所は彼らに渡して材木部分を薪にし、焚火を作って。

若木の粉とかは水だけじゃなく火の魔力も加えたら美味しくなる。水草も柔らかい粒粒になって美味しいという話をしながら実演してみせる。

凄く興味は持ったけど、それは頑として受け取ってくれなかった。


「ありがたいが、今は贅沢を覚えている場合ではないから遠慮しておこう。魚人は水の魔力しか使えないので自力では作れない。人間はそういうものが作れるのか、羨ましいな」


食料問題に回復の兆しが見えたお陰でちょっと雰囲気は明るくなったが、流石に年単位で枯渇していた土地全体の魔力の減少は深刻で。じゃあ核を取ってきますハイ回復したとすぐにはならないし、本人たちも保有量がカツカツなのでちょっと食べたくらいでは全然足りてない。


今の時点で生の木の粉や硬い水草の粒の食事に耐えられなくなったら目も当てられない。確かにそれはそう。

うーん、せっかく小麦も分けてくれることになったし、他にもなにか取引できたらな……


「――あ。交易の時の通訳」

「チョーコ、またなにか思いついたの?」


「んっとね。テレパシーが使える魚人さんたちはともかく、遠征を続けてたら今後他の種族とも会う事ってあるじゃない?いくら武力より平和交渉を先にする努力をしようよって呼びかけても、会話が出来なかったら交易なんてできないと思うの」

「うん」

「でも、毎回全部の遠征に私が付いてくとか無理でしょ?魚人さんたちにも、火を使った食料とかを報酬にあちこち通訳としてついてって貰ったり、頼めないかな?って」


聞いていた魚人の長が渋い顔で首を傾げた。

「我々を陸地の遠征に連れていくと?確かに陸上生活も多少は対応できるが……まず魔獣狩りをしながら旅が出来る身体になるまで魔力を蓄えるには暫くかかるぞ?」

また無茶を言い出したなこの人間と言いたげな顔で、困惑されているのは分かる。


「回復が必要なら、一旦、全員海へ送り届けて回復して貰ったりしたら、いけます?」

「いやそれはまあ、海に戻れるのならな?他のエルフ種も沢山いるし我々も回復するし、話は早いが」

「じゃあ皆さん全員を海へ連れていけたら、そういう必要が出てきた時に通訳をしてもらえませんか?」


長は言っている意味が分からない様子で、チラリと助けを求めるように隣のオクティの顔を見た。


「チョーコは人間だけど、ちょっと特殊な適正持ちでいろいろな魔法が使えるんだ。テレパシーも使えてるだろ?」

「……本当だな。いろいろな魔法、まさか天人のようにテレポートでも使えると言うのか?」


あ、テレポートって天人っていう種族が使う魔法なんだという言葉は飲み込んだ。


「はい、使えます。悪目立ちしたくないので、あまり使えることは広めたくないんですけど、海にも行けるので、通訳として協力して貰えるなら全員送りますよ」


長は周囲の仲間たちとゆっくり目を合わせてから、こちらを向いて頷く。


「正直この上なくありがたい申し出だし、チョーコといったか、あなたは他の人間達に武力支配ではなく友好的な交易をするよう働きかけているという。その考えは我々魚人にも受け入れやすいものだ。所属している国も、長が魚人の娘をハーレムに入れるほどなら、人間の中では偏見が薄いかもしれん」


「ああいえ、私がそうなったらいいなと思ってるだけで、まだまだ偏見が無い国ですよとはとても言えませんけど……」

「他種族との会話に困らぬ我々が例外で、大抵の種族は同胞としか付き合いはしないし、偏見を持っているのも人間だけではないさ。

そのように働きかけようとする考えを持った人間がいると知れたことが良かった。海の仲間にもそう伝えよう。我々を連れて行ってもらえるだろうか?」


「わかりました、じゃあ全員、手を繋いで繋がってください。

あ、オクティは私に。海に飛ぶから最初からちょっとだけ飛んでてくれると嬉しいかな」


「わかった」と後ろから抱き着いてちょっとだけ足を浮かす。


皆がひとかたまりになったのを確認しつつ長の腕を掴ませて貰う。太くはないけどかなり筋肉質らしくしっかり硬い感触。緊張はしていそうなものの他の魚人たちへの心配の方が大きいみたいで、こちらより仲間の様子を見てばかりいる。


60人まとめてはやったことないけど、感覚的にまだ全然余裕で出来る範囲だとは分かった。


「いいですか、これから海まで飛びます。ちょっと足元が悪くなるかもしれないので、ローレライの人は転ばないようにしてくださいね」


亜成体の子達は近くの大人にしっかりしがみついて頷いている。


目を閉じて集中、海に着けた目印の座標を選び。一番水際に近いところから、もっと海に近く……海上、少しだけ上めに目標をずらす。


「――ちょうど高い波とか来てたりしませんように『テレポート』」


ぐぅっと魔力を使ってお腹が空いた瞬間、急に掴んでいた長の腕が重くなって手を放す。


ドボンダバンバシャンと大きな音や、ルーッ?!と驚く悲鳴がすぐ下からするのと同時に、オクティにバッグハグ状態からお姫様抱っこになるようにぐいっと抱き直された。


目を開けるとぴったりイメージ通り、海面から30センチくらいのところに飛んでいる私たちの前で、海面に浮かびながら目を丸くする魚人たちがいた。


おぉ本当に海だ!とあちこちから声が聞こえ、富栄養状態なくらい魔力過多な水はよく身体に染みるようで、水が美味しいと言っている人もいる。水を全身で吸って元気を取り戻し始めた人々はルルルルッと機嫌良さそうに歌いながらすごい勢いで泳ぎまわり始め。


呆然としていた長がこちらを見た。

「ありがとう、チョーコ殿。では約束通り海の仲間に会って通訳の件を話そうと思う。それから、もし海にあるもので欲しいものがあるなら礼を用意しようと思うが、何か希望はあるか?」


「よろしくお願いしますっ。うーん……そもそも海の素材にどんなものがあるか知らなくて。川にあるような水草と妖精たちしか見たことが無いので、他にどんなものがあるのか、なるべくいろんな種類の素材を見てみたいです」

「わかった。ゆっくり待っていてくれ」


ぺこりと頭を下げて、魚人たちは一塊になって海の深い方へと潜っていった。

「俺たちはこっちで待ってようか」

オクティは砂浜のある方へ飛んで、砂場と岩場の境にある小さな崖の所へ行って、岩陰の日陰になっている所へ、チョーコを抱っこしたまま座る。


「な、なになに?」

完全に膝抱っこのままで下ろしてくれないので顔を見ると、悪戯っぽい笑顔を浮かべられた。


「流石にこれだけの人数を一気に飛ばしたから、魔力切れそうなんじゃないかなって」

「お城で1人でプールの水をいっぱいにした時ほどじゃないよ?」


「いや、ただの口実なんだけどね」

ぐい、と引き寄せられて唇が重なる。


「んう?!」

彼の目が笑うようにちょっと細まって、深く口づけられた。

いつぞやのお返しと言いたげに甘い熱が吹き込まれてきて、空腹だった身体の中がみるみる満ちていくのが分かる。


「――おなかいっぱいになった?」

「うぅ、なった……けどさ」

「ちゃんと人目に付かないようにしたんだけど、いやだった?」

「そういうわけじゃなくて、いきなりこんな」


ぎゅーっと抱きしめてくる。

「チョーコが美形の男の腕に掴まって目を閉じてるとこ見たから」

「いやいやいや、あれは――!」


「知ってるのとどう感じるかは別。掴んだ腕とかまじまじと見てたし、綺麗だって思ってただろ」

「魚人さんたちが綺麗なのはただの事実っていうか……もう」


嫉妬を隠さないのは嫌じゃないというか、むしろ嬉しい。ぎゅーっと抱き返したら落ち着いたみたいでオクティの腕の力がちょっと緩む。しばらく抱きしめ合っていたら、吹き込まれた熱も馴染んできた。

やっぱり、こうしてくっついた後は、お互いの持つ魔力が普段より増しているのを感じる。


「うん、しっかり回復したみたいだね」

「ありがとう。ねぇオクティ。折角海に来たんだし、少し海上を飛んで色々見てみたくない?」

「いいよ、行こうか」


身体を軽く払って砂など落としてから、再び海の上へ飛んで、海面に近い高さで見て回る。

相変わらず違和感のある白黒なのは変わらないけど、この世界の海の水はやたらと透き通っていて、昼間である今は遠くまでよく見えた。


サカナっぽいものも色々居るし、人型のサイズも凶悪そうな全身トゲ鱗のある半魚人や魚人は下半身が魚っぽいのと足っぽいのが居るし。

そして若干気色が悪いと言ってしまいたくなる、ゴブリンが頭にすっぽり肌色のタコを被っているような生き物も居る。あれも一応身体部分が人型だけど、亜人?人族?


と思って見ていたら、そのたこ足が凄い勢いでやや離れた所に居た人魚を襲おうとし、素早く逃げられていた。

そうか、海のゴブリンはタコ頭なのか……そのまま『海ゴブリン』とか『蛸人』と呼ばれるっぽい。


「――なんだあれ」


オクティの声でパッと彼が見ている方に目を向けると、海底部分に海(・)溝(・)があって黒く見えているのかなと思っていた、長くそれなりに幅もある黒い影が、真っすぐこちらに向けて動(・)い(・)て(・)い(・)る(・)ことに気付く。


「え。地形かと思ってたのに、動いてる……?しかもこっち向かってるよねあれ」


傍ってほど近くではないけど、周囲に魚人たちが居るのに全部無視して、迷いなく真っすぐこちらに突っ込んできていると思う。


「ちょっとあのサイズは見たことないけど、尻尾側の下の方にかなりデカい魔力の塊が見えるし、多分育ちまくった魔獣、だと思う」

「えぇっと……飛びついてきたりしてきたら、倒せるかな?」


「俺が水面より上に固定して捕まえるから、チョーコが風の刃とかで切れるか?」

みるみるうちに水面に押し寄せる水が波として湧き出してくるのに合わせて、高度を上げる。


「わかった!飛びついてきたらオクティが捕まえて、私が切っちゃえばいいんだよね――って?!」


サメみたいに水面から飛び出してくるのを予想していたら、背びれかアンコウの提灯みたいなものか、黒い細長いものだけが背面からいきなり伸びてきてこちらを突き刺し巻き取ってこようとしてくる。


オクティがすいすいと避けつつ、珍しく声を出した。

「周囲の水よ、魔獣を打ち上げろ!」


ごわ、と水面が派手に動いて、下から空へ大きな噴水のように波が吹きあがり、魔獣の身体が水面から飛び出すほど跳ねた。全身が見えるのに合わせて力を籠める。


「風の刃よ、あの魔獣のみを切り裂け!」


輪切りのイメージをしていた通り、大きな海苔巻きみたいな塊に切り分けられた内、1つを残して他の塊がバサッと霧散する。


残った1つをオクティが風で捕まえ、落下を防ぐ。


「核を残して燃やせ火よっ!」


水の上で空中に火の玉が出来、黒い塊が溶けるようにしゅるしゅる小さくなっていき。ほどなくしてバスケットボールのようなサイズの赤黒い塊が空中に残った。


その塊がすいっと近くへ引き寄せられてきたところで、塊の下の方に白いというか、貝殻の内側を磨いたような、虹色の光が浮かぶ白い石が突き刺さっているのが見え。


「ん?なにこれ」


と、気になって引き抜いて――

周囲が眩しい光に包まれて何も見えなくなった。

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