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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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26.めろめろ?

制約完了。


うん。やっぱり人間だとか亜人だとかじゃなくて、話し合いが出来るかどうかだよ。色んな種族と仲良く出来たら、色んなものが手に入るようになる。豊かな生活への第一歩、すばらしいよね!

私は元々そういう考えだから、これが制約の効果なのかどうなのかは全然わからないのだけど、どうなんだろう?と思いながら皇帝の方を見る。


さっきまでちょっとニヤニヤしていた皇帝は、なにやら急にハッと焦ったような顔をして、隣の宰相さんに声をかけていた。


「あの魚奴隷――いや、魚人の娘たちを急ぎ連れてきてあの娘にせよ、必要なものは希望通り揃えてやれ」

「は?……はっ、直ちに」


ちょっと理解出来ないという顔をした宰相さんからの視線が一瞬突き刺さったが、一瞬だけだった。すぐに周囲の人へ急げ、と指示を送っている。


元々宰相さんが私に見せるつもりで準備はしていたんだろう、扉のすぐ外に控えてはいたみたいで。合図をするとすぐにこちらへ向かってガラガラと、文字通り台車を押すような音がしてきた。


『痛い、クルシイ』『お水ぅ』『助けて、お水ぅ』

ルル、ル、ルルルルと、コオロギが鳴くような澄んだ高い音が響くのに混ざって、死にそうな声が聞こえてくる。


運ばれてきたのは文字通り人が入れそうなサイズの木箱の下に小さめの車輪が付いた台車で。声はその木箱の中から聞こえてきていた。

シングルベッドの半分くらいか、表面には浮彫で流麗な模様が施された頑丈そうな箱の中に、裸の女の子たちが3人も折り重なって呻いている。


お水、お水、と死にそうな声で呟いているので、「この箱の中に満ちよ水」と急いで水を出したら、こちらに気付いたみたいで視線がこっちを向いた。


真っ白な、皇帝とよく似た色の髪を足まで伸ばし、それが身体をどうにか隠している。目が本当にびっくりするほど澄んだ薄いサファイア色だけど、今は弱り切っているのかどんより曇りがち。顔立ちは皆すごく目がぱっちりして可愛らしい顔立ちだし、手や足は人と同じ指がちゃんとあって、多少水かきが人間より広めな程度。耳がひれ型で尖っているところと、背中や手足や顔の周囲などに、虹色に光るかなり薄く細かいうろこが生えているところが人間じゃないと分かる部分か。


かなりしっかりした作りの台車らしく、水って結構重いはずだけど、すれすれまで入れても一切漏れずびくともしてない。


「大丈夫、どうしたの?」


『痛い、おなか、すいた』『背中、痛い、痛い』『水草、たべたい』

「ごめんね、この辺りに水草は生えてないから、代わりの食べ物を持ってきて貰うから待ってて」


先程皇帝が「必要なものは揃えろ」と言ったからだろう。さっきローブを持ってきてくれた人と同じ格好のメイドさんたちが3人ほど待機している。


「すいません。えーと、わらび餅なら食べられると思うので……かなりお腹空いてそうだから、あるだけいっぱい持ってきてあげて下さい。それから身体を伸ばして寝転がれるくらいの、水を入れられるたらいとか、水盤とか何か大きな入れ物ありますか?水浴び場の排水口を何かで塞ぐとかでも良いので。とにかくなるべく広くて、水を沢山貯めておける場所が欲しいです。あとその貯めた水場に砕いて撒くので、魔獣の核も集めて下さい」


すぐに2人別々の方向へ早足で出て行った。


「あと、何でこんな状態になったのか説明できる人が居たらちょっとどうしてこうなったか教えてくれませんか」というと、残ったメイドさんが静かに話してくれる。


昨日オレンジを取って帰ってきたという遠征隊が、川の出どころを探そうと上流まで行くと、岩の隙間みたいなところからちょろちょろ流れ出していて、その岩の近くにこの3人が行き倒れていたのを見つけたらしい。最初は3人共まだ元気にテレパシーで話せて、食べないで殺さないで何でもすると命乞いをしていたそうだ。人間は人族を食べたりしないと説明したら落ち着いて、付いて来るかと聞いたら素直に同行を受け入れたので連れ帰ったらしい。


弱ってるから焼肉を食べさせようとしたけど肉類は凄く嫌がって一口も食べず、水草は一つしか取れなかったので上げられなかったが、代わりに周囲の木から粉を取ったものと水を食べた。既にフラフラで陸を歩くのはきつかったので、毛布に包んで担いで連れ帰り。宰相さんが検品するために城に送られたところで皇帝がこの3人に目を付け。殺されたくないなら余の妾になればいいと言ってそのまま連れて行こうとしたらしい。


流石に見た目が若いし言葉も幼いので心配したメイドが、準備をするからと身体を水で拭くついでに色々説明したのだけど。

どうやらその時点では、あの人が人間の国の長で、妾というのは交尾相手だとちゃんとメイドたちの説明を聞いた上で、長の妾になる!と喜んで受け入れていたらしいのだ。


でも、さっそく昨夜寝所に連れ込んでみたら、ぎゃーぎゃー痛がって泣き叫ぶばかり。朝になる頃にはテレパシーでの会話すら出来ない状態になってしまったので。興ざめした皇帝はどこかへ持って行けと台車に乗せて部屋から追い出し。


朝、登城した宰相はすぐ回収してチョーコを急いで呼ぶように伝えたのだが。

チョーコが来るというのを聞いた皇帝が今度はそっちに興味を示して、魚人の台車を外に出せと命じ、まずは自分が会うぞと言い出しここで待っていたと。


なるほど、だいたいわかった。


髪の色が同じとか近い色なのは魔力の相性も良さそうって判断する傾向あるらしいし。なにより顔が可愛いから気に入られちゃったのね……黒髪は守備範囲外で本当に良かったと思う。


話を聞いている間にあれこれ準備が整ったといって、移動を促されたのでついていく。

水満載のカートも、メイドさんと同じローブの男性が、重いだろうに頑張って零さないよう上手に運んで付いてきてくれた。


『たくさん水を貯められる構造になっている水場』というと、貴賓用のゲストルームの浴室らしくて、渡り廊下で繋がった、離れに建てられたコテージのようになっている広い部屋へ。


ちらっと見たらメイドさんたちだけじゃなくって、皇帝が後ろからついて来てる!皇帝が来てるからか、その後ろに宰相さんと秘書さんもついて来ちゃってる。


ゲストルームの浴室……浴室?これはもう屋内プールって言うんじゃないかな。温泉旅館で当館自慢の広い露天風呂ですって言ったらこのくらいのもあるかしらって思うくらい広々とした浴槽があった。建国の際に将来他国と交流するかもということで大きく設計されたけど、その量の水を用意するには城勤めの水属性の人たち総動員の騒ぎなので、最近は掃除だけして使われていなかった場所だそう。


水を貯められるようにキッチリ作られている石の栓をはめ込んで貰ってから。「この器一杯に満ちよ水」と唱えてドバドバ水を入れていくが。入れても入れてもいっぱいにならない。


流石に途中で小腹が空いてきたので、ちょいちょいわらび餅をつまみ食いさせて頂きつつ、ドバドバドバ……

ドバドバドバ……


ようやく一杯になった所で、持ってきて貰った魔物の核を砕いて水の中に撒いて貰う。

脳内情報によれば、水が満ちた場所に撒いた魔石は水に染まって、水の魔力を発生させるようになるらしいんだよね。木じゃなくて水草が生えるし、そこから妖精が生まれた場合は水の妖精が出てくる。


水草は草なだけに生えるのも早いし、自分で食べられるくらいに育つまではわらび餅でも食べて耐えて貰えばいいだろう。


ふいー。一息ついて、魚人ちゃんたちの入れ物の中を見る。


目はぱっちり開いたがまだ弱ってるらしい。目が合ったらすぐ、3人とも箱からひょこひょこひょこっと並んで顔を出し、クルクルと甘えるように鳴いた。


『おなかすいた』

「あ、お腹空いてるよね。ごめんごめん」


わらび餅の入れ物を持ったら……皇帝がめっちゃこっち見てる。目が合い、わらび餅の入れ物を見、魚人ちゃんたちとわらび餅を見比べている。


「……あの。ご自分でこの子たちにご飯あげてみますか?優しくしたら懐いてくれるかもしれませんよ」

「うむ」


なんとなく威厳を保とうとしている顔をしつつも、素直にいそいそと前に出てきた。


……よし。仲よくしようって気があるんなら協力しようじゃないか。はいこれ持ってこっち来てくださいねと、皇帝の左手に入れ物を持たせて魚人ちゃんたちの前に連れてくる。


「はい、これを1つずつ手で摘まんで、直接口に入れて食べさせてあげてください」

『ごはん!』


食べ物と聞いて期待した様子で目をキラキラさせた彼女たちは、良い子で順番を待って、差し出される順に口を開ける。


『なにこれ、すごくおいひい!』『やわらかくてあまーい!』『もっとちょーだい』


食べる時に指までチューチュー吸ったり、他の子が食べてる時に皇帝の手に唇や頬を擦り付けたり、早く次をくれとすぐに甘え始める。

妾や交尾の話自体には忌避感ゼロだったようだし、甘えん坊らしい。


よく見ると、彼女たちの背中がボロッボロだった。背に生えていただろう鱗があちこち掻き毟ったように剥がされて、ところどころに血も滲んでいる。


……これ、寝所に引っ張り込んだって、普通の乾いたベッドの上でやらかしたんじゃないかなぁ?

幾ら人っぽくても魚人だもの、肌が乾いてるところに布で鱗が剥がれるほどゴシゴシ擦られればそりゃあ痛いでしょうよ。


「あのですね。この子たちの背中を見て貰ったら分かりますが、本来は水の中で生活する人族なので、身体が乾燥した状態で布で強くこすられたりすると、こんな風に鱗が剥がれて怪我をしてしまうんです。可愛がる時は水の中でとか、ちゃんと相手に合わせて工夫してあげてくださいね」


「む。――痛がって泣いていたのはそれだったのか」

うんうん、と魚人ちゃんたちが同意しているように頷いて。ルルルルっと明るく鳴いた。


「……すまん」

おぉ、謝った。


皇帝はどこか腑に落ちた顏で、3人にたくさん食べさせながら、時々肩や背中も撫でたりしている。


ごはんは多めに用意して貰ったので沢山あったはずだけど、それぞれが余裕で4、5人前くらいの量をぺろりと食べ尽くした辺りで、既に彼女たちの背中から傷らしきものはすっかり見えなくなっていた。流石に無い鱗が再生するにはしばらくかかるみたいだが、皮膚はもう傷もないし痛くないそうだ。


「人間のオサ!ごはんいっぱい」「やさしい、すき!」「広い部屋、泳いでいい?」

魚人たちはたっぷり食べて魔力が回復したのか、すっかり色々治って落ち着いたのか、3人そろって急にペラペラ喋り出した。


「許す、好きに泳ぐがいい」

「うれしい!」「この水、おいしい」「げんきでる」


プールに入る時に飲んだか吸収したか、3人入ったら溢れるどころか逆に水位が減っている。

台車の方に残った水も零れそうだったのが半分以下だったので、残ってた水はそのまままとめてプールに入れてしまう。


ちょっと脳内で調べると。どうやらかなり深刻な魔力枯渇だったからグイグイ吸収していただけで。今は力が満ちたし、ここからは吸収も落ち着くようだ。完全に成熟すると自分で食べて水を生産できるようになるけど、まだ亜成体のうちは毎日普通の風呂桶一杯分くらいは消費するらしい。落ち着いてそれか、水道のない世界で魚人飼うのは大変そうだ。


「ここ、すき」「ずっと住む」「にんげんのオサ、いっしょ!」

「よいよい、これからは余に尽くすのだぞ。懐いてくればなかなか可愛いものではないか」

皇帝はすっかり機嫌よく、手を翳して彼女たちが甘えてくるのを眺めてデレデレになっていた。


……ん。魚人ちゃんたち、魔力が回復したからめちゃくちゃ『魅了』を放ち始めてる気がするんだけど、大丈夫?……あれは無意識で出ちゃうやつだから、止めようと意識しないと止まらないんだよね。

止めるように言い聞かせ――いや?嫌いな相手を強制的に好きにさせたり、惚れた相手を言いなりに操るような洗脳効果はないし単純に性的魅力を強く感じるだけだもんね。愛妾としてはアリか、そういうことにしとこう!うん。


「この子たちが弱ってたのは治ったみたいです。あとは水が減ってきたら足して、底の魔獣の核を砕いた土が無くなったらまた撒いてください。見ての通り、魚人は美人が多いですが水の魔力をたくさん使うので、もしこの先で魚人の国を見つけたとしても、好き勝手に連れ帰るのは止めた方がいいですね」

「うむ、余への献上品ならば別のものにせよ。ときに、こやつらは繁殖するのか?」


「えーと。――水の魔力属性を持つ種族なら誰とでも繁殖が可能。海、湖など水の地域で繁殖した子供は必ず魚人種として、それ以外の地域で繁殖する場合、妊娠率が大幅に下がるが、必ず相手の種族の子供が生まれ、魔力は高くなりやすい。だそうです」

「おぉ、悪くないぞ。やはり余の妾としてふさわしい」


「魚人ちゃんたち、いい?人間は、顔を水につけたままだと息が出来なくて苦しくなるから。水の中で遊ぶ時、絶対に頭だけは水の外に出しておかないとだめ。わかった?」


「「「わかった!頭はみずのそとーっ!」」」


水の中で一緒に遊ぶ、という言葉に惹かれたみたいで、3人が皇帝を誘い始めたので。従者やメイドの数人だけを残して帰って良いと皇帝が言い。ようやく帰れることに……


部屋を出たあとにメイドさんがローブを持ってきてくれたので着替えている間に、宰相さんと秘書さん3人が揃って一緒に着いて来た。


宰相さんはちょっと肩の荷が下りた顏になっている。

私も巻き込まれた側ではあるけど、既に”皇族の命令は絶対”の制約を受けた上で、あの皇帝が相手じゃ色々苦労もあるんだろうねぇ。


「……ご苦労だった。水の中に魔獣の核を撒いていたのは一体なんだ?」


「あれは海みたいな、水の地域の環境に少しでも近付けるためですね。水を貯めた状態で撒いた魔獣の核は、水の地域に生える水草に育つので、自然な形で水の魔力が増えるんです。――あ、水草も木みたいに食べられますし、育つと水の妖精が生まれます」


「ほう」

「水から出して運ぶとすぐダメになるので、現地で焼いたり風で乾燥させたり加工してからじゃないと運べませんけど。ヒレがあって泳ぐサカナと丸い緑のウニは焼いて食べられます。白くて平たいクラゲっていうのは食べられませんが、ゴムという素材がとれます」


「オレンジのように国内で育てる設備も作るべきだな。素材の詳細はのちほど聞かせて貰う。――いや、商会組合の組合長を呼び出して直接報告してくれ」

「あ。分かりました!特にゴムは便利だと思うので、生産できるといいですね」


「また新しい商品が増えそうだな」

「いろんな職人の人に触って貰えば便利な道具も沢山増えるはずだし。街で流通してくれたら私もお金出すだけで手に入れられるようになるし、嬉しいです」


城の敷地内ではそんな話をしながら歩き。何故か獣人車に乗らずに徒歩で少し歩いて宰相さんのお屋敷の方へそのまま誘導されていく。


「あ、あれ?帰るんじゃ……」

秘書さんたちは3人とも揃ってにこーっと微笑むだけだ。


「そう警戒するな。俺の妻が最近出回っている新しい商品の数々を見てから、発案者に会ってみたいと言っていてな」

「ぅえっ?!いやその、別に私本人は見て面白いようなものじゃないですよ」


「俺の直系は男ばかりだから、孫娘と茶を飲みたいそうだ」

「んんっ、マゴムスメ?!」


「我が家の庇護を与えて孫の嫁とするのだから、義理の孫娘で間違いない。何か問題があるか」

「あぁー、なるほど?え、なんでいきなりご実家にご挨拶っ?」


「むしろ妻は魔塔関係を自分の子孫と思っておらんから、お前の方を孫娘として家に入れるつもりでいるぞ。養祖母に会うと思え」

「孫嫁じゃなくて養孫っ?!」


お爺ちゃんに続いてお婆ちゃんも出来るのか……どんな人だろう。

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