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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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14.義理の祖父

オクティとチョーコはふたりとも、今日は白いローブを着て街に出た。

周りを見ると頭までフードを被った格好の人は本当に見当たらなくて、大体の人から目で追われるので、自然とオクティの背に隠れるようにくっついてしまう。


手を繋いで貰いながら辿り着いた商会組合の建物は。平屋か高くても二階建ての建物が多い中、そこだけ三階建てで石レンガも部分使いされたオシャレな建築であり、色々な人が行き交っていて賑わいがある。


受付でアイディア登録したいものが幾つかあって相談したいということを話すと、責任者として呼ばれた鮮やかな赤い髪をひっつめに結んでいる、荷物運びとかで肉体労働凄いんだろうなって感じの体格のいいオジサンが目の前に来た。目の色は暗めの赤なので、魔力はそれほど強くないのかも。


白いローブで顔も半分隠した不審者を、更に背中に隠すように連れた、フードまで被っていても顔は見せている黒髪で薄い金目の青年のふたり組を見て、一瞬不審そうな眼をしたが、すぐにニッと笑みを向け「奥で話そう」と個室に通された。


なんだか立派な執務室にも見える。大きなソファーの置かれたその部屋は防音で、よほど大声を出さなければ外には聞こえないそうだ。

「俺はライガ・マクレガー。商会組合長をやってる、よろしくな」と先に挨拶され。「坊主の方は有名人だよな、冒険者組合の期待のホープ、魔塔出身のオクトエイドで間違いないか?」

オクティが頷くとチョーコを見て「仕事の話をしてきたんだろ?俺がここで見聞きした情報を外で言いふらしたり、嬢ちゃんの正体を知って脅しに使うような屑じゃないってことは信じてくれ。顔も見せられねぇ相手は俺も信用出来ない」

と流れるように言ってから先に席に着いて、2人にも向かいに座るよう手で示す。


そこまで言うならと、素直にフードを取って席に着き、目を合わせる。

「チョーコです、この国の外から来ました。オクティは私の命の恩人なので、一緒に行動してます」

「おっ!他の国から来た奴は初めてだ。アイディア登録したいんだって聞いたぞ?これは期待してもいいんだろうなぁ?」


机に用意された水差しからコップに水を入れて2人の前に置いてくれたので、相手が商人なら多分、珍しいものを見せるのが早いかなと思って、緑茶と紅茶のインスタント粉をアイテムボックスから取り出し、出してもらった水のコップにそれぞれ作ってずいっとライガさんの前に置く。


「私の国で飲まれていた飲み物で、こっちが緑茶、こっちが紅茶です」

「どれどれ……」


飲み比べて、ほうっと声が漏れる。俄然がぜんやる気が増した顏になった。

「うまい!アイディア登録したいってのはこれか!納得だ、こいつは間違いなく人気が出るだろうな」

「これもですけど、他にもいくつかあってですね。アイディア登録がどういうものかを聞いてから登録したいと思ってるんですけど」

「なんだと、他にもあるのか?登録について詳しく知ってからっていうのは当然だな」


色々と説明してくれた。

アイディア1つにつき銀のインゴットを1つ登録料で支払い、それを売りたい側は商会に販売価格を登録した上で、一年分先払いか後払いかを選ぶ。先払いは前年度の販売数報告から計算してその価格で売った場合の年間売り上げ予定の5%、もし実際の売り上げが多くても少なくても追加払いは不要。後払いは実際の売り上げの10%、登録者にはその8割が入るという。


初年度だけは後払いで以降は先払いのお店が多いらしい。ちなみに割引販売はしても問題ないが、定価を安く申請しておいて高く売ると罰金。罰金は半分が登録者への支払いに上乗せされる。


また、販売ではなく自分で作って家庭や知り合いだけで消費しているだけなら使用料は払われないので、作り方が一般家庭に広がった後は販売が減るものもあると理解しておいて欲しいとか。作り方が簡単すぎるものだと登録はするが公開せずに、商会が製造まで一手にやることもできて。商会任せだと後払いで3%固定だとか。


銀のインゴットというのが価値どのくらいかわからないので、「1登録ごとに銀1個だって?」とオクティを振り返ってみたら、ごそごそポケットから財布っぽい巾着袋を引っ張り出し中を見る。


「銀は5個しかないから金で良い?」

金色の塊を選び出して机の上にコトコト並べていく。ちょっと細長いチョコレート菓子みたいな長方形の金板が10枚くらい並んだ。


「おいおい、それ一つで10件登録できるってのに、いったい幾つ出すつもりだ?」

「チョーコはたまに予定より色々思いつくことがあるから、多めに出しただけ。チョーコの好きなだけ登録していいよ」

「えーとじゃあ現物を出せるものはお見せするので、お皿とコップをいくつかと。現物を用意出来ないものは絵を描くので、書くもの下さい」


塩、砂糖、黒砂糖、黒蜜、紅茶、緑茶、葛湯、飲み物についてはインスタント粉も3種、わらび餅。

ここまでは現物を並べて見せる。

そして焚火の上に置かれた取っ手や串をひっかけられる縁がついた焼き網、周囲に刺したバーベキュー串や焼き網に乗せられる小さいもの、バネ付きのトング、火の上に翳して焼いたりするための蓋つきのフライパンや煮込み鍋、燻製機などの絵を思いつくままどんどん描いていく。


スプーン、フォーク、かまどや鍋や水切り籠、燻煙機や蒸し器などなど、既に似たものがあるので登録できないと言われたものは結構たくさんあった。用途は違うが工芸や鍛冶関連で似た道具を使っているらしい。


一通り絵の解説をしながら、妖精肉のバーベキュー、焼肉、串焼きについても説明する。

「妖精の肉か。亜人たちはバリバリ食うから毒ではないと思ってるんだが……つまみ食いして死ぬほど吐いたって話ばっかり聞くぞ?」


「死んですぐに血が瘴気化を始めるので、そのままだと人間には毒なんです。絞めてすぐ血抜きをして、内臓と骨を取り除いて、肉は火が通りやすいように切り分けて、中までしっかり火を通してください。火の魔力は浄化作用があるので、新鮮な肉でちゃんと火が通っていれば大丈夫です」


そして肉そのままでは美味しくないが、焼いた肉には塩を掛けると凄くおいしいと力説。

オクティも参加して、一度食べさせて貰ったことがあるけど、本当に美味しいといい、組合長は特にバーベキューに興味をそそられた顔でそわそわし始めた。


――バンッ!といきなり戸が開き、「おい組合長!」と低い声で怒鳴りながら部屋に誰かが飛び込んで来た。


ヒュっと息を飲む。


鮮やかな緑の髪に、そこそこ明るいオレンジの目、魔塔のローブとはデザインが全く違うが、漂白したような完全な白にロイヤルブルーの糸で高貴そうな刺繍を施したローブを着ている、中年くらいの目つきがすごくきつい、スラッとした男性だった。


「貴様ぁ、あの書類は今日の昼までだと言っただろう!いつまで待たせ……む、客か?」

バッチリ目が合う、フードも外したままだ。しかも目が()()()る!やばーい、この人高位貴族の魔眼もちじゃん?!


彼はそのまま部屋に入ってきて、後ろ手に扉をキッチリ閉めた。そして扉の前から動かずにそのまま、オクティとチョーコと組合長を順番に見てから、オクティに視線を向ける。


「おい。貴様にパートナーが見つかったという報告は魔塔から受けていないぞ。どういうことだ?」

オクティが言葉に詰まったが、組合長が先に声を上げる。


「ジュラール!今は取引中だぞ、割り込むのは駄目だろう。あの書類は……遅れてすまん。もう目は通してあるんだ。この打ち合わせの後ですぐサインするつもりだった」

()()と呼べ組合長!いいから今すぐサインして持ってこい、ここで受け取る。――そこに並んでいるものは何だ?」

机に並ぶお茶などと、紙に書いて並べられた焼き網などの絵の数々。


「その子たちが登録に持ち込んだものだ。言っとくが幾らあんたの立場が上だからって、権利を取り上げるような真似はさせないからな?」

「下らん。そこの実験体は将来利益を生むというから我が家門に加えたのだぞ?実際に利益をもたらすようになった暁には、それなりの見返りを出してやると『制約』まで交わしたと組合長にも話しただろう。俺にはこいつの事業内容を知る権利がある!」


組合長は頭を抱えた後、少々申し訳なさそうに2人に頭を下げた。

こいつの(ガラテアマンダ)家とは実家が隣同士で俺とは幼馴染なんだ。昔から真面目で嘘や不正が大嫌いな奴だから信用はしていい。書類を書いてくる間、少し説明してやってくれるか」


小さく頷くと、入口とは別のドアから出て行った。扉が閉まったのを確認。宰相さんは椅子に座ろうとはせず、立ったまま腕を組んで上から威圧するように見つめてきた。


「最初に言っておくぞ。『俺は、落ちものの存在を()()()()ではなく、()()()()報告する義務がある』その娘の()()についてだけは言及するな。――さて、それ以外全てだ、報告しろ」


初手でそこを言われては仕方ない。オクティと一度目を合わせて頷き合う。

チョーコと名乗り。ダンジョンの中で魔獣に食われかけていたところをオクティに救われて保護されたことは正直に話した。

脳内に情報が刻まれているとは言いづらいので、全く知らない素材でも『現物があれば』ある程度の使い方が分かる能力を持っていると説明。これらはそうして作り方を調べて作った食べ物であると説明して、試食もして貰う。


バーベキューの説明をしながら、色々な素材を手にする機会が増えればさらに新しいものを作れるので、自由にあちこち動き回ったり、新しい素材が見つかった時に何でも触らせて貰えるような立場が欲しい。でも現状だと魔塔に見つかり次第、研究対象として捕まりそうなので、オクティに匿って貰っていた。


今のところ周りには、近くの森を通りがかって全滅した旅の冒険者チームの生き残りで、これらは他の国の技術だと説明しています。ということまで話した。


ひとつ頷いて、オクティとチョーコをゆっくりと見比べる彼の表情は、むっすりとしてなにも読めない。

「望みは金か、地位か、その男か?」


「あのっオクティは物じゃないので、報酬扱いされても困ります!私の望みは新しい素材にたくさん触れて、色々なものを作って、豊かに暮らすことです。別に偉くなりたいとは思わないので、魔塔に捕まって実験体扱いされたり、制約で奴隷みたいに働かされたりしなくて済むくらいの身分保障が欲しいです」


「我が家門の名で、そいつの婚約者という立場を用意してやろうかと思ったが。その男は要らんと?」

「ほ、ほぇぇっ?!ちっ、違います、要らないわけじゃないんです。人質みたいにされたらいやだなってだけで!」


「なにやら俺の孫が他国の冒険者を匿っていると聞きつけて直接確認しにいったら、使えそうなやつだったので、魔塔に取られる前に俺が保護することに決めた。ついでに孫とも相性が良さそうだったので婚約者として宛がってやる。それで良いだろう」

「え、と……私を保護して宰相さんに何か得があるんですか?」


「利ならあるぞ。お前が発見した商品の権利は全て我が家門の名で登録し、勿論利用料の支払先もこちらにするからな!お前は我が家が独占利用することにしたわけだ。孫を婚約者として宛がったのは逃がさんためよ。――まぁそれで家門が儲かったのなら見合った報酬は出さねばならんのだが。あの小娘が押し付けてきた『制約』のせいでな。あぁ忌々しい」

ものすごく悪人のように笑って、オクティが出していた金を無造作に掴んでオクティに押し付ける。

「な、なるほど……」


「ふん。俺は魔塔が嫌いだからな、こちらで用意した嫁の子供まで提供する義務などない。実験用の子が欲しいのならば自分で相手を用意しろと言っておくから。お前は直接魔塔に関わるな、いいな?」

「はい、あの、ありがとうございます!」


見計らったようにドアが開いて、組合長が戻ってきた。

「ったく……あー、聞こえなかった聞こえなかった!だから若いやつの権利を奪うようなことすんなっつったのによー」

「黙っとれよ。契約内容はあとでうちの文官を一人送るからそいつと詰めて貰うとして。このわらび餅とやらと、緑茶、紅茶、白砂糖は作り方を習得次第すぐ屋敷へ届けてくれ。特にわらび餅は多めにだ!」


言うだけ言って気が済んだように、組合長が持ってきた書類を受け取ると、さよならも言わずにさっさと帰っていってしまった。


「あいつは全く。まぁ……よかったな?」と組合長が言って、2人で頷く。


登録する商品の製法は、魔力の分量が分かるオクティが詳しく説明し、木の粉から砂糖を作る『抽出』も使い方を説明する。魔力操作のそれほど得意でない私でも出来るくらいなので、各属性の協力プレイは必要だけど問題なく習得できそうでよかった。


ついでに、鍋を使った塩ゆでと燻製についても説明し始めると、やっぱり増えたとオクティが笑う。

組合長は期待にか、すっかり顔がにやけている。


「嬢ちゃんに、新しい素材を調べて貰えば新しいものを作れるようになるんだろ?もっと色んなものが手に入るようになれば、新しい味の食事が選べるようになったりするかもしれないんだな……」


やっぱりさっきの会話聞こえてたじゃん、と思いつつ、そうですねと頷いた。

「私も、もっといろんな土地へ新しいものを探しに行きたいんですけどね。水の地域とか新しい所へ行けば、手に入る植物や妖精の種類も変わるし、落ちもの由来の植物の種とか、まったく見たことないものだってあるはずなんです」


「若い奴の中には、たまに外へのロマンを抱いて遠征しようってやつもいるんだよ。素人が数人集まっただけじゃあ実際外に旅に出るのは難しいだろう?だが……軍備の増強に力を入れ始めてからもう結構経ったし、そろそろ本格的に外の開拓がはじまるといいな?」


「そうなってくれたら、私も嬉しいです!」

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