13.食品開発
朝、早速緑茶や紅茶、後でインクも作ってみようと若木や老木を輪切りにしたものを取り出す。
竹と材木をそれぞれ粉末に……粉末?
「また困ってるな?どうした」
「これをそれぞれ粉末にしてから、昨日みたいに粉に水と火の魔力を同じように加えるらしいの」
「粉にするなら入れ物がいるな、とりあえずこれでいいか」
縦に割れた竹を追加で出して、両側の節が残るようにお皿にしたものを2つ。
そこへ、適当に切り分けた竹と木をそれぞれ置いて手のひらを向けたら、サァッと粉状に崩れた。
「おぉ、こんなに細かく出来るんだ、すごーい」
「風なら飛び散らないように気を付けるだけだ。水でも出来るが、俺は風の方がやりやすいかな」
微粉末というのだろうか、鼻息でも飛びそうな細かさなので、自分で出来る自信がちょっとない。
「んー……私がやる時は飛び散っても良い所で試してみる」
作りたい時はオクティに頼んじゃおうと思った。
コップを4つ用意して、それぞれ両方作って味見をする。仕組みは分からないけど香りが本当に緑茶や紅茶っぽくて、思った以上に美味しい。煮出した後の粉が残るかと思ったのに、どういうわけか溶けきっていて、何も残ってない不思議。
お茶は全くおなかに溜まらなくてスルスル飲めちゃう。
自分で作ると甘味はないけど、やっぱりオクティが作るとふんわり甘いし、白砂糖を入れても美味しいし、濃さも変えられるし。あっためても冷やしてもおいしいなー♪
調子に乗ってぱかぱか飲んでたら、なんだか酔っぱらったみたいにテンションが上がって来た。
「あーふわふわするー、たのしー!」
「おいチョーコ、白砂糖を俺が言ったより多く入れただろう。魔力酔いしてるからもう飲むのやめろ?それ以上飲んだら暴走するぞ」
「ほえ?はぁい」
コップをオクティに取られたし、テンション上がったしお絵描きだ!
置いてあった老木の方の粉の残りを取った。
「粉よー火で炭の粉になれー!えっとそしたら……水と風よ、炭の粉に少しずつ混ざれー!」
黒い粉がくるくる回ってすぐに、それっぽいインクになって竹皿に浅く溜まる。
「できたあ。んー、落書きしてもいい布とぉ、なにか棒欲しい」
「お、おぅ。酔ってても加減は出来ててよかった。木の棒はまぁ、これを使えば良いとして……布は倉庫だから使えそうなものを選ぼうな?」
手を繋がれて、倉庫へ移動。
『使えないもの、使わないものは全部とりあえず倉庫に入れている』
とは聞いていたけど。実際中に入って見たら、本当に何でも詰め込まれていた。
入口付近にあった板で簡単に蓋をした木箱に、今使わなかったり破れたり古くなった服が適当に入れられていて、白いローブや、ダンジョンで両袖が破れたシャツもそこに放り込んであった。サイズが小さくても綺麗なものは再利用できるかもしれないので、白いローブと破れているものだけ回収。
周囲には古びているが大小さまざまな桶やたらいが多数、比較的シンプルなシングルベッドが二つ、彫刻の施されたクローゼットやチェスト、食器棚らしく表面の開き戸が透かし彫りで中まで見えるようになっている棚のなかに、足の付いたカップが何種類かと木の皿もあまり大きくなくて豪華な飾り彫りの装飾がされたものが何種類か。
木彫りのそれほど大きくはない彫像たちは、生き生きと空を飛ぶモモンガや、地面から顔を出すキャリオンクロウラーとしか見えない凶悪な口のついたミミズ、威嚇する犬獣人など、かなりリアリティ満載に彫り上げられており。楕円形の額縁を付けた内側を彫り上げたレリーフは立体的な幾何学模様で、シダ植物が渦巻いているような芸術的なものだった。
そして大小の壺。蓋はあったりなかったり、鉄製でサビてしまっているものなどもあるが、おそらく銀っぽいちょっとくすんでいるだけで磨けば光りそうなもののなかに、しっかりした蓋つきの同じサイズのビーズ入れがたくさん並んでいるのを発見。絵具が作れるようになったらこういうのに入れたいなぁ。
それよりはもう少し大きい、両手で包めるくらいの蓋つきの木製の入れ物も6つ並んでいて、表面のレリーフが炎、炎と水、水、水と風、風、風と炎という連続したモチーフに見えてとても素敵。
これはサイズ的に砂糖や塩などを入れる壺に凄く良さそうだし、綺麗なのでこのセットも回収。
そして家具の合間に置かれた、木工用の彫刻刀などが綺麗に並べて納められたそれ自体芸術品のような四角いトランクや、作業台に使えるような重厚な傷だらけの机。
ここに住んでた人はきっと、木工が趣味だったんだろうなぁ、あの木彫りの彫像たちは家主の作品なんだと思う。
「よーし、とにかく試し書きがしたーい!」
リビングに戻って、机の上にシャツの背中を広げ、木の棒をインクに付け、布の上に滑らせてみると、多少にじみはするけど意外とちゃんと描ける!
頭がチョココロネでジャージを着たデフォルメキャラクターを描いた下に☆ChocoPanna☆と書き添えてみた。
「へー、上手いもんだな。ここに書いてある模様が「私」って書いてあるように感じるんだが、どういうことだ?」
インクに魔力が含まれているせいなのか、言葉より精度は低いが翻訳が働くようだ。一文字だけとか、うおぉぉ!みたいな台詞を書いても、それは意味が伝わってこないらしい。試しにオクティにペンを持たせて文字を書いて貰ったが、確かに文字っぽいとしか分からなかった。自分の名前だけは書けると言うので書いて貰ったら、『オクトエイド・ガラテアマンダ』と読めて混乱。
「ガラテアマンダ……宰相家?」
「え、そんなことまで分かるのか?」
改めてテレパシーの自動翻訳機能に注目。文字で翻訳を切るように意識すると外国の文字にしか見えないし、言葉で翻訳を切ると、急に異国語に聞こえるし、相手にも日本語そのままに聞こえる。完全に切り替え型で二重音声には出来なかった。本名だけで相手の素性が分かってしまうとしたら、ちょっと気を付けた方が良いのかもしれない。
「オクティって宰相家なのに……実験体なの?」
んっとな、と説明をしてくれた。
魔力の高い人間を作るのは皇帝直々に命じた国家事業として皇帝本人を始めとして側近たちもほぼ強制参加だったらしい。国中の人間のうち、魔力の高い順に上から選んで男女と属性だけでペアが作られ、魔塔で研究するための子供をプライベートとは全く別に作らせて魔塔で実験体として引き取るというところから始まったそうだ。
ちなみに皇帝は水の属性、宰相さんは風の属性の家系らしい。
宰相さんはもう奥さんも息子も居て、家族を実験に参加させないという条件で参加したそう。
魔塔の所長は当時15で成人したばかりの皇帝の妹がつき、彼女が宰相さんと組んで皇妹と同じ水属性のオクティの母親を生んだ。つまりオクティは皇妹と宰相の孫ってこと。国で一番魔力が高く生まれただけあって血筋がサラブレットだ。
本来、魔塔の研究対象になった子供は親が誰でも単純に魔塔所属の実験体でしかないはずで、実際オクティが生まれるまでは母親も苗字なんて無かったらしいんだけど。
黒髪かつ2位と大きく差をつけた高魔力な子供を産んだことで、所長の皇妹が将来オクティは何か凄い功績をあげるんじゃないかと期待して、自分との血縁を強調しておきたいと思ったらしい。
ただ母親とオクティを皇族に組み入れるのは色々面倒で、代わりに所長は母親とオクティを連れて宰相の奥さんに会い、婚外子として宰相と皇妹の子と孫であると宰相家側での認知を強要。
なんか、パートナー以外との子供については、パートナー側の許可さえあれば良いらしいんだけど。宰相さんには本当に相談も何も一切なしの、奥さんへの突撃交渉だったそう。
奥さん側は当然いい気分ではなくても、皇妹である所長のごり押しには逆らえなかったし。認知は了承。
ただ内容は、あくまでオクティとその母が宰相さんと皇妹との血の繋がりがあることを認知するだけ。継承権も遺産も正妻の子のみに権利があるとするし、彼女の主張通りオクティが将来功績をあげて宰相家に寄与したならそれに応じて報酬も手配するが、母やオクティが名誉や財産に傷をつけるようなことがあれば直ちに関係を破棄して賠償を請求するという、まぁ至極当たり障りのないものにしたらしい。
無断でそんな『制約』を宰相家に強要したと後で知った宰相さんは怒り心頭だったものの、制約自体は成立してしまったし。内容的に奥さんや子供の権利を侵害するものではなかったから渋々黙った。
そんなわけで、宰相さんは所長と母親に対しては15年経った今でもガン無視を貫いており、オクティに対してだけは『制約』があるので、何らかの功績をあげるか、逆に大きな問題を起こさないかと遠巻きに様子を見ている状態らしい。
オクティの方も宰相家の名前を使って何かあったら面倒くさいに決まってると分かってるので、今まで家名を名乗ったことは無いし、宰相さんは魔塔にも来ないしお貴族様だから街で会うこともないし。このことを知ってるのは宰相さんや魔塔の所長の周囲数人だけらしい。
なるほどねーと喋りながらふと気付いたら、右手の袖が絵に擦れてたみたいで、べったり真っ黒になっていた。
「うわっ?!ご、ごめん。パジャマ汚しちゃった」
「ん?あぁ大丈夫みたいだよ。このインクは水で簡単に落ちるって見える」
水場に連れて行って袖に水をかけてくれる。
見た目は真っ黒なインクだから、簡単にと言ったって多少は頑張らないと落ちないイメージだったんだけど、砂に書いた文字に水を掛けるくらいあっさり流れ落ちて行くのを見てびっくり。
消しちゃうのかとちょっと残念そうに見られつつも、擦れちゃってたし、さっき書いてそろそろ乾いた絵も持ってきて水を掛けてみたら、乾いて取れにくいなんてこともお構いなしに一発で真っ白。
えぇー。これ、今のお絵描きはただの落書きだからいいけど、もし書類の束にコップの水でも零したら文字の跡すら残らないんじゃ?
あ。そういえば。精霊の皮を煮たものを加えるとインクが定着しやすくなるってあったけど、あれ膠のことだよね。レシピ情報があるってことは、多分そこまで加工して使ってると思うんだけど。
「ねぇ?お城とかで使うインクは妖精の皮を入れて加工して使ってるはずなんだけど。肉も食べないのに妖精の皮だけわざわざ取って来てるってことかな?」
「インクがどうこうって話は知らないけど、軍部は亜人をたくさん使役してるから、森の掃討作戦のついでに妖精を取ってきて食べさせてるはずだ。インク作りに使う程度の皮なら、そこから分けて貰えるんじゃないか?」
「なるほど?!育ててはないけど妖精自体を扱うルートはあるんだ!」
これは、妖精焼肉に近付ける気がする!あと膠があるってことはゼリーだって作れる!
軍の方で扱いがあるなら、焼肉用の焼き網とトング、それか切った肉をバーベキュー串に刺す方が簡単かな?あと大きめのお皿は出回ってなさそうだし、塩を入れて配る壺とか、フォークやスプーンもどこかで作って貰ったりして、実際に試してみたいなぁ。
「あーうー、リスクがあるのは分かってるけど、誰か信用できる人に色々作って貰えないかな」
「他の妖精も、焼けば食べられるのか。うーん、俺もまた食べたいけど……」
「なんとか信用できる人に焼肉に使う道具を作ってもらって軍の人に食べて貰って、一回食べさせて美味しいってなったら、絶対今度から亜人の餌の他に食べる用で余分にとってこようってなると思うの」
「あー……リスクはあるけど。商会組合に直接行ってアイディア登録が出来ればなんとかなるかも」
商会組合でアイディア登録、まぁ特許みたいな、作りたい人が一年間それを自由に作って売る許可を買うというかたちで使用料が発案者に還元されるシステムがあるらしい。
発案者のところに直接押しかけて、いーじゃんおしえてよー!とただで習おうとするような人を避けるためと言えば、発案者を非公開にすることも出来そうだし、確かにそれは良いかも。
「じゃあ登録するものを何にするか決めようか、焼き肉に使う道具だけじゃなくお茶とかも纏めて登録するとして、今作れそうなものは他にないかな」
「うーん、あんかけ料理は野菜とかが無いとまだ作れそうにないし……あっ、あれなら出来るかも」
さっき倉庫で見たのを思い出して、金属の口の広い鉢とか水が入れられる小さめの桶とかを持ってきて洗う。金属の鉢に多めの木の粉を入れて、水を全体に充分浸る程度に入れ、ゆっくり加熱しながら木の棒でよーく混ぜる。
桶に水を溜めて、硬めのクリーム状に煮えたものをひと口サイズに丸めて水に放り込む。
スプーンなど何もなかったが、オクティが空中で器用に丸めてくれた。
冷やして固まったそれは水から掬い上げると半透明のもちぷるな塊に。黒砂糖を溶かしたものを掛けて味見してみると、立派なわらび餅が出来ていた。
「おぉ……俺これ好きだ。むちむちしてて美味い」
「んーっ、これは成功!わらび餅おいしーい」
「他のも水を飛ばしたら何か出来たりするのかな」
オクティが緑茶、紅茶、葛湯をそれぞれ用意して、水の魔力だけを打ち消して乾燥させてみると、緑と赤茶と白い粉の塊が出来上がった。
水を注ぐだけのインスタント粉。これはかなり便利かもしれない。
葛湯の粉をかなり濃いめに溶いて一度加熱し直してから水で冷やすとわらび餅を作ることも出来た。
一日そうやってあれこれ試していたので、商会組合には明日行くことにしてその日は終わった。




