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飢えないだけじゃ生きられない(日・水・更新中)  作者: なるねこ


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103/103

103.結婚宣言場も稼働

――ライチはチョーコの体質的にかなり合ったらしい。

夜寝る前と朝起きてすぐの1日2回。オクティに視て貰いながらしっかり食べるようにしていたら、食事量も2人前くらいに落ち着き、気持ち悪さを感じることは全くといって良いほどなくなった。


よく効くようなので、ライチは普通のフルーツとしてではなく、つわりの酷い妊婦に食べさせるといい酒の実、として倉庫にも一気にではなく少しずつ卸すことにする。


数日慣らして様子を見たけど大丈夫そうだし。これなら街や商店街くらいなら歩き回ってもよさそうじゃない?と、もう少しお散歩を増やしたいとオクティに頼んだら、人混みを歩かせるのは心配。必ず獣人車を呼ぶことと短時間だけという条件であれば、商店街や街へはオクティが連れて行ってくれるということに。


折角なので10月の満月デーを選んで、オクティとルナとシアンを連れて商店街の屋台スペースへ飛び、そこから貸し獣人車を借りて回ることにする。ほぼすべて移動は車、時々降りてお店を覗くだけだけど、久しぶりに普通の街歩きが出来た。


『みなさま、10月21日は愛の日!赤やピンクのプレゼントを贈って大好きなあの人に想いを伝えてみませんか?』とナレーションが流れており、アクセサリーショップ、雑貨屋などピンク色と赤のものが沢山並んでいる。


食べ物もあるけど、想いが消えないようにということで形の残るものが人気。

特に平民でも気軽に買えるカラーで薔薇や七色花、果物などの絵が付いたメッセージカードのお店は人だかりが凄い。最初から『いつもありがとう』とか『ずっとあなたが好きでした』とか一筆入れてあるものもあり。それは店員さんがどのカードがどのコメントかを読んで教えてくれていたりする。

白地のカードやメッセージだけのものと絵具を知人と共同で買って自分で描いて贈る、というのも人気みたい。


ちゃんとした雑貨を買った場合はイベント用ラッピングとして赤とピンクの二色使いの華やかなリボンが用意されているけど、そちらは数量限定だそうで。貴族はその限定ラッピング狙いで早めに買って当日渡せるように準備しているようだった。


何か買ってみる?と言われるけど……我が家のイメージって黒とオレンジと金、黄色、茶色とかで。赤とかピンクはなにか違うかも……個人的には雑貨系ならオレンジ、緑、黄色辺りで揃えたいかな?


今回はお散歩がメインだから、わざわざ買わなくてもいいと伝えて、あちこち回らせて貰い。10月限定!とついたケーキセットがあるらしい、今回は紅茶専門店へと入る。


明らかに平民というお客さんは少ないけど、普通にすみっこじゃない席に座っていたし、皿が空のまま居座っているお客さんも居ない。平民と貴族間の差は注文している物の豪華さくらいで凄く平等そうな雰囲気になっていた。


今回も2人揃ってローブは着ていたし、最初から気付かれてはいなかったけれど。

席に案内された時に店員さんが少しそわそわしだして二度見され、小声でもしかしてオーナーですか?と囁かれたので黙って頷いたら、色々動いて頂けたおかげですっかり高位貴族の横暴は落ち着きましたとお礼を言われた。


どうやら『コロセオ家没落は商店街で横暴を働いていたアリア嬢が、店で会ったオーナーにまで気付かずにうっかり喧嘩を売ったせいで宰相家が動いたらしい』なんて噂が貴族間でもしっかり広まったため、普段横暴な態度を取っているような家の人が来ても、商店街ではおとなしいんだとか。


――なんか、見せしめにやりましたみたいな話になっちゃってる……?けど、スタッフたちが働きやすくなったというなら良いことだよ……ね?


良かったですとだけにっこり答えることにして。席についた。

このお店にもりんごとシナモンのケーキが……あっ!ミナにアップルパイのことまだ教えてないや。

今日はオーソドックスにというか、素直に限定品のルビーメロンのケーキと見た目も赤いレッドチェリーのフレーバーティーのセットにした。


うーん、向こうだったらこういう恋愛系イベントで赤やピンクだったらハート型が主流だと思うけど、こちらではやっぱり花、それも薔薇モチーフが多いみたい。

ただ形が複雑なので、技術的に難しいんだと思う。かなりの物がただの丸や四角や六角などになってしまっていて少しもったいないかも。


フレーバーティーもなんだか既に色々開発されているみたいで……凄い。

ケーキは本当に普通に美味しくて、トラブルもなかったし満足して店を出てまた獣人車に乗る。


「ねぇチョーコ、ハート形ってなに?」

「ん?えぇとね……心や愛とかを表す記号で、こういう形なんだけど」


車に乗ってすぐそんなことを聞かれたから、紙とマリアンたちにお揃いで買ってもらった橙インクの万年筆を取り出してハートを書いていく。動きを追加してドキドキとか、割れたハートで失恋とか。

単純な形で表現は多彩、秀逸な図形だよね。


「なるほど。記号は矢印みたいに実用的に使うものしか知らなかったけど、意思疎通に使う記号ってことか。他にはどういうのがあるの?」

「ハート形ほど便利に使えるのはちょっと思いつかないけど、輝いてるって意味の星形とか楽しいって意味の音符とか?しずく型も涙や水滴を表すからその一種ではあるかなぁ」


「楽器の音を書き記す記号なんていうのもあるんだ……ふぅん、面白そうだし、家に居るだけだとヒマならさ、絵を描いてる友達でも家に呼んで、お茶会しながらこの話もしてみたらどうだろう?」


「マリアンたちは今月末が結婚宣言だから準備で忙しいかもだし、サラは新婚でカリナだけ呼ぶのもなんだか呼びにくいし……ロレットとミーティアだけちょっと家にお茶飲みに来てって誘ったら来てくれるかなぁ?ちゃんとしたお茶会じゃなくて、天人さんのお招きみたいな簡単なの」


「来てくれると思うよ?――ん、あそこに居る水の魔力の二人組。この前サロンに迎えに行った時に見た覚えがある色の組み合わせだから、女の子の方がチョーコの友達じゃないか?」


指さされた方を見ると、ロレットとアッシュがカップルで歩いてた。2人とも背が高くて周りの人より頭が飛び出しているから車の上からだと特に見つけやすい。仲良さそうに寄り添ってパスタのレストランに入ろうとしているところ。


「あっ、ロレット。上手く行ってるみたいで良かった……うーん、今回はロレットとミーティアを呼ぼうかと思ったけど、お邪魔しちゃうかなぁ?」

「軍人は休みが少ないから、そんなに毎日デートは出来ないと思うよ。明日がだめでも都合のいい日を相談すればいいんだ。聞くだけ聞いてみたら?」


「そう、だね。帰ったらお手紙書いて聞いてみる!」

さっそく明日どうかな、と。ちょっとデザイン関係でおやつを食べながらお喋りがしたいから、改まったお茶会じゃなくて気軽に家に来てほしいというお招きをしたら、あっさり2人とも来てくれた。


午前中から集まって、本当にちょっとしたケーキとお茶を出すだけの形式を気にしない集まり。

お土産として2人が持ってきてくれたのは甘酒を使ったゼリーのお菓子とマスカット紅茶のインスタント粉。


マリアンとリリアンの誕生会の時点ではまだサラは妊娠してなくて、半月経つのにまだ出来ないのとプレッシャーが凄そうだったとか、チョーコのつわり対策で天人さんからライチを教えてもらった話をしたら、彼女たちの時には栄養剤だけじゃなくてそれも送ってあげたいわねと話したり。


一通り雑談をしてから本題。

ハートや星型や音符やしずく型、ついでに幸運を表す四つ葉のクローバーや怒りの青筋マークなどの図を描きながら話をしてみたところ。

ミーティアのテンションが急激に跳ね上がった。


何かを示す図というのは今のところ国旗、矢印、丸とバツに相当する印くらいしか使われていなかったらしくてインスピレーションが大いに刺激されたみたい。感情や気持ちを伝える図形というのは本当に革命的、特にこのハート型は可愛くて素晴らしいと大興奮。


そのテンションのまま、紙と絵の具を広げ、ピンクと赤のハートマークを飾った額縁を作って、結婚宣言の時に皆で描く絵を入れて飾れる額として2人にプレゼントしたいわ!となり、その場で額縁のデザインを開始。


3人で相談しながら一通りデザイン画を描いて色も塗ったところで。

「チョーコ、木工系の職人で知り合いはいる?」と言われ、最初に頭に思い浮かんだのは平民街にいた、キャンパスやイーゼルなどをただでくれた、見事なヒヨコ頭の彼だった。


私じゃなくてオクティの知り合いならいる、とオクティを呼んで額を作る話をして、知り合いのお絵描き道具譲ってくれたあの人に連絡が取りたいけどどうしたらいい?と聞いたら。


出来るかどうか本人に直接聞いてみようかと獣人車でお店まで。

あまり大人数で行くと平民街ではすぐに噂になるからと、オクティを含めた4人だけで訪ねてみることになった。


「はいはーい!いらっしゃいま、えっ、オクティ?……久しぶりに来たと思ったら、な、なにその後ろの……貴族の友達、いや、友達様ですか?」

気軽にドアを開けて出迎えたまま硬直した彼は、比較的シンプルなロレットやチョーコはまだしも、お呼ばれでちゃんとした貴族のお嬢様らしい格好のミーティアにだいぶ緊張しているっぽくてあわあわしている。


「あの、お久しぶりですチョーコです。キャンバスとかイーゼルとかありがとうございました、大事に使ってます」

「……あぁ、あの時の!今はオクティと結婚したんだよね?広場の宣言式、僕も見に行ったよ。カレーチキンとポップコーン、本当にただで配っててびっくりしたし。出し物も派手で凄かったよね、おめでとう」

「ありがとうございます」


「で、えーっと、ほかのお嬢様たちは、やっぱり貴族様……?」

チョーコだと気付いて少しだけ落ち着いたけれど、まだ恐る恐るといった感じでオクティに目を向ける。


「急に押しかけてすまないな。今日連れてきた彼女たちは貴族ではあるけどチョーコの絵描き仲間なんだ、安心してくれ。入っても良いか?」

「あ、あぁ、彼女の絵描き仲間、ね……わかった。えっと、どうぞ……おいでください?」


ロレットが踏み込んでまずぺこりと頭を下げる。

「私は冒険者組合長の娘のロレット。それほど緊張しなくていいよ。私も平民の出だし、こっちのミーティアとは幼馴染だからね。言葉遣いとかも全く気にしなくて構わないから」

「ミーティアです、急に押しかけてしまってすみません。木工の職人さんにわたくし達の思い付きを形にして頂きたくてお訪ねしただけなの。わたくし達のお友達へのプレゼントについて、ご相談に乗ってくださる?」

「あ、はいっ、おれ、えっと私はシュラフっていって、よろしくでございます!」


ギクシャクしながらアトリエへ案内し、古びた木の椅子を4つ持ってきて布でパタパタ払って並べて座れるようにしてくれたので。ロレットは最初から気にしないけど、ミーティアも抵抗なく座る。


そして紙に書いて色もつけた、額縁のデザイン画を広げ、額本体は白で赤のハートのものと、本体が薄ピンクで濃いピンクのハートが立体的に浮き彫りになっているデザインでそれぞれ。彫り方は同じ感じで色違いにしたいと絵を見せて話した。


イメージ画を見た途端に分かりやすく目を輝かせて、シュラフの緊張が吹き飛んだのが分かる。


「すっご!ちょっと待っててね!」と奥へダッシュで出て行ったと思うと、まだ彫っていないが組み合わせれば額のサイズになるだろう、斜めに両端を落とした長いのと短いのが2本ずつセットになっている木片を1組掴んで戻って来て。

そのままこういうふうにするってことだよね?と風を使い荒彫りから始めてデザイン画の1辺分を立体化していく。


「おぉー、凄い彫るの早いねっ!」

「まぁぁっ!素晴らしい腕だわ?!」

「私たちのイメージ通りだよ。私たちの他に2人参加するから5セット頼むとすると、どのくらい時間がかかるだろうか」

「あっ!実はもう式まで2週間しかないの、間に合う……?」


模様も大きくて全然複雑ではないし、定型サイズの小ぶりなキャンバスが入れられる額なら木材のキットの状態で揃ってるしデザインも定まってる。急がなくても1日で2つは出来るから彫るのは間に合うと。


「ただ……新しい木工用品のニスや塗料がね。まだ高い上に出回ってる量が凄く少なくてさ。僕らみたいな平民の職人にはなかなか回ってこないんだよ。僕だとそこを手に入れるのに時間がかかっちゃうと思う。白木の枠を彫る所まで金貨5枚で10個作るから、貴族御用達の職人に色付けだけ頼――」

「あ、じゃあちょっと待ってて!」

「「「?」」」


ちょっとオクティと一緒に外に出る。ニスの蔓の状態のものと豆乳の白い実とオコメの赤い実を丸のまま袋にザラザラ出し。戻ってそのままこれを使って!実の方は中身も食べていいから!と袋ごと渡したら、またひくっと息を飲んで硬直してしまった。


ロレット達もこの場で出てきたことには流石に驚いたけれど、用意が出来ること自体には納得していて。

「それはチョーコがダンジョンで取ってきたもの?……本当に提供して貰っていいのかい?」

「素材はお願いしていいのなら制作費はわたくし達とサラとカリナの4人で頭割り……少しチョーコに甘えすぎではないかしら」


「お祝いなんだし、使っちゃおうよ?他の費用を頭割り……むしろ私は素材だけでいいのかな。金貨5枚なら5人で分けた方がいいんじゃない?」

とこちらで話し合っている間に彼は落ち着いてきたみたいで慌てて割り込んできた。


「いやいやいやっ、釣り合うどころか、普通にこれだけ買おうと思ったら大変だよ?!これだけあったら余るだろうし、なんかおまけの食べ物までついてて僕の方が貰いすぎかも。本当にこれ全部良いの?4人で頭割りなら色塗りの技術料まで含めて金貨4枚でどうかな?」


1人金貨1枚なら予算的にも丁度いいわねと話がついた。


まず1セット試しで作ったらオクティの所へ届けに行くからチェックしてというので、サラとカリナにも伝えておこうねと話して今日は解散。


――その日の夜、早速出来上がってきた額の1組は、ピンクと赤のハートがとても躍動的に立体で表現されて非常に可愛いし、マリアンとリリアンが確かに好きそう!と思える仕上がりだった。

思った以上にニスは良い色と艶が出ていて耐久性も見た目もバッチリだし。紙の絵を挟んで裏板を付けるのではなく、キャンパスをそのまま嵌め込んで後ろを止めるタイプなので手軽。


メイドさんにほかの4人へすぐ見せに行って貰い、それを5人からの結婚祝いにすると決まった。


きっと。これなら喜んでもらえると思う!


額が仕上がってきたのは式の1週間前くらいで、宣言式で使うのなら段取りのために本人にも知らせた方がいいし一旦7人全員集まろうと連絡を入れた際。


まずサラの懐妊が発覚したという返答があった。

つわりが始まるのは宣言式よりあとだろうから参加も出来る。無事に妊娠出来てホッとしているということで、今回の集まりは大事をとって外出せず、サラの家へご招待させて貰ってもいいかと言われて了承。


お土産にライチを持っていく。まだつわりは始まっていないらしいけど、半月めが近くなったら毎日少しずつ、つわりがきたら多めに食べるようにと伝えておくことに。


貴族の子って沢山食べて対処は……出来そうにないもんね。

マリアンたちはマイクとリックが納品分から確保するだろうし、今本人たちに渡さなくてもいいか。


サラの新居は軍人の妻帯者が住む区画だそうで、貴族街からは遠くて転送所がある北門に近い。パリィの実家も同じ区画にあるらしい。

建物の大きさは魔塔の役員宅と変わらないけど、使用人用の部屋が別宅に分かれてたから母屋の中は単純に倍の広さ。

貴族の感覚だと夫婦の暮らしでもそのくらいの広さが普通なのか……


旦那さんは挨拶だけしたらサラを1階の客間までエスコートしてすぐに去っていくけど、動き回ったり重いものは持つなとか、あれこれ何度も念を押してから出て行った。


「大事にされてるんだね?」

というと「「チョーコが気にしなさすぎ!」」と一斉につっこまれる。


つわり前の2週間はぶつけたりしなくても流れやすい時期で、この時期の流産は母体への影響も軽くて死ぬようなことはないけど、妊娠し直せる身体になるまでひと月以上かかる。


3ヶ月以上妊娠報告がないとチクチク言われる、はおとなしくしてないで流してしまうこともあるだろうから一度くらいは何も言わない。ということから3ヶ月が区切りになっているみたい。

そんな『あるある』な初期流産に警戒するのは当たり前、と口々に言われてしまった。


平民だといちいち魔眼で定期的に調べるなんてこともしないから、つわり前に発覚すること自体が珍しいんだし、ここまで全力で警戒しなくてもとは思うけど。

皆は貴族だからね。


ここではとても言えないけど、大変になる前にお休みの挨拶とか済ませておこうと思って、あっちこっち行ってたわぁ……

でも徒歩や獣人車じゃなく、テレポートで直接飛び回ってたから、負担はきっと少なかったはず。


プレゼントの額はしっかりと梱包した状態でマリアンとリリアンに結婚祝いとして渡し、当日はあまりゆっくり話せないから先にお祝いを言ったり、サラは座らせたままカリナが準備をして少しだけお茶を皆で飲む。


前に話題にしていた『色布を使った平服』の解禁については貴族間でもかなり意見が割れているようなのだけれど。最終的には『レースやスカーフ、一部の差し色として使う分には自由にしていい。ただ全体の地布を染めたカラードレスはこれまで通りフォーマルとするべきだ』と決まったそう。


大量にドレスを買い直せる裕福な家ばかりではないし、嫁や娘の服を全て作り直さなくてはなんてことになったら大変。色布ベースのドレスが当たり前なんて風潮にしたらまずいというのが理由だそう、なるほど。


既成のドレスの染め直しは一度リボンやレースや色石を全部外してから染めて縫い直す工程を挟むので、染め直しと新品を縫う労力はあまり変わらないらしい。


新しくドレスを仕立てるよりは色布のスカーフとかフリルや小物をお揃いで作るくらいの方が良さそうね、と話が決まった。あまり妊娠初期のサラを連れ回すのも良くないしね?


話も普段よりかなり短めで、すぐに解散となった。


***


もちろん無事に、月末のマリアンとリリアンの結婚宣言式にはお揃いティアラもつけて出席。


結婚式場の初公開をこの2組の式からにしたおかげで注目度も高くて、水上劇場などに来ているお客さんたちがついでに式場の様子をチラチラと覗き見ていこうとしていたりする。


マリアンたちは帝国の門前から式場前まで飾りのついたオープンカーではるばると来て、終わったら商店街のホテルへ泊まってハネムーンを過ごしてから帰ることになっているらしい。


下見の時と違って床一面に深い青紫色の絨毯が敷かれ、石の床でも滑りにくく、純白のテーブルクロスを掛けた丸テーブルが20も並べられていたりと幾つか視察と違うところは見られるけれど、神聖で幻想的な雰囲気はそのままだし。

テーブルクロスや各椅子の背に飾られている花々などは全て落ち着いたピンクと赤で揃えられていて、厳かというよりシックで可愛らしい雰囲気に整えられていた。


2組とも女性の髪色が赤で男性がピンク。ローブは全員伝統のものを着ているけど、リリアンとマイクのペアは中の服の布の色がピンク、マリアンとリックはベースが赤くネクタイやフリルなどの飾りの方だけがピンクと変化を付けてペアを見分けられるようにしてある。

子供の頃からずっとそうするつもりだったというだけあって、色違いでも刺繍などは充分に豪華絢爛だった。


テーブルは6人席で、チョーコ夫妻、ロレットと彼氏、ミーティアと父親が1卓、サラとマシュー、カリナと彼氏、サラ達の両親の総務部長夫妻が1卓で分けられていた。宰相さんと冒険者組合長は忙しかったそうで、呼べなかったみたい。


ミーティアの父親はなんというかとても地味な、無口で厳格そうな真面目な人という感じだったけれど、ミーティアのことは確かに溺愛しているようで、いつもお世話になっていると伺っていますと重ね重ねお礼を言われ、これからも末永く仲良くしてやって欲しいと頼まれたので、商会紋のことやオリジナルグッズでお世話になってます、こちらこそお願いしますと返しておいた。


2組同時ということだけれど親族と友人が全部一緒なので招かれるお客さんは1組分だし会場的には特に問題なさそう。全員お客さんは会場中の丸テーブルに着席して全員が揃ったところで商会組合長が通信石を持って前に立つ。


両組のプロフィールや家のこと。娘のマリアンとリリアンのことだけでなく、マイクとリックの両親のことも紹介。そちらはいわゆる国土交通省的な、城勤めで土木建築関連の取りまとめをやっている役人、各国を繋ぐ街道づくりが始まってからは大忙しで、自ら現場監督として動き回っていることもあるらしい。


元々親同士の仲が良く、息子たちが商人になりたがっているという話を聞いて、2人はかなり小さい頃に組合長の所へ弟子入りをすることになり。

よく家にも来ていたために同年代のマリアンたちと会う機会も多く、仲良くいつも4人で遊んで育った流れから今があるという。


紹介された男性も奥さんらしい女性を伴って出てきて挨拶。

息子たちは本当に小さい頃、異国を商売しながら旅して回るキャラバンの物語が大好きで、商人になると言い出したのはそれがきっかけだったといい。商会組合長の下で商売関係の勉強をさせて貰ってますます商売が好きになっていた。

それが今では卸売り業として他の国々どころか、天人に小人に魚人、魔人や不死族まで巻き込んだ商いを手掛けるようになり、こんな素敵な奥さんを迎える日も来て。もう息子たちの子供の頃からの夢は全て叶ったと言えるのではないかと思っていると話す。


そして急にチョーコの名前が出てきて顔を上げたが、こちらにはあまり視線を向けないようにしてくれていた。

以前、チョーコが火の大陸へ大量に木を売りに行こうと思って訪れた街道建築の伐採現場で監督として立ってた男性、この人だったらしい。


あの日、現場へチョーコが天人と竜人を連れて現れた時に初めて彼らの力の偉大さを目の当たりにした。今、帝国にこの豊かさがもたらされているのは、他の人族たちとの友好的な交易によるものと確信しているという。

息子達にはこれからも是非帝国を代表する商人として、各人族たちとの友好的な繋がりを守っていってもらいたい。


息子たちを商会へ紹介してくれた商会組合長にも感謝しているが、コンヴィニ商会のオーナーには特に、本当に感謝している、今後とも息子たちをよろしくと言ったあとで、最後だけ顔をしっかりこちらに向けて頭を下げ、戻っていった。


紹介が終わり、友人一同からの贈り物としてまず新婦側、この日の姿を書き残しますとチョーコ達が呼ばれて前へ。

2組が舞台に並び、こちらはドレスの上から長いゴム手袋とゆったりしたスモッグのようなドレスカバーを前から被らされ。画材とキャンバスが用意されて2組をそれぞれに描く。


お客さんからは5人の描いているキャンパスが後ろから全部見えるので、思いっきり公開写生会で恥ずかしいけど、絵はかなりポピュラーな貴族のたしなみの1つらしく皆当たり前のように披露している。

普段から描くのが好きなロレットとミーティアだけでなく、サラやカリナも普通にかなり上手くて驚いた。


サラや私は全身像で見たまま写生するけど、カリナはバストアップで表情をつけて描き、ミーティアはもっとアップで周囲に花を散らしていたりとイラストらしく。ロレットは2組それぞれをダンスをしているように動きを付けて描いていたりと見学している側からも意外とバリエーションがありそう。


今日はカラーを使っているのでロレットも筆書きで万年筆より線は太めだけれど、タッチはいつものような感じで凄い書き込み。


書き上げた絵をスタッフに渡し、風で乾かしてニスで仕上げてから、特注の額に入れた10枚全部を会場に飾りつけて貰っている間に、チョーコ達はドレスカバーなどを外し一旦控室で汚れや崩れ等ないか身支度をして席へ。


席に戻る頃を見計らって新郎友人からの出し物として鈴の伴奏が付いた男性グループのコーラスがあり。


マイクとリックのお祝いに商会長のロイドさんと副会長のバロックさんが居るのは理解出来るけど。ユガまで来てる?と不思議に思ったら、まだ子供だからかめちゃくちゃ良く伸びるし通る綺麗なボーイソプラノで。最高音パートを1人で担当して歌い上げていた。


今までそんな訓練一度もしたことはないだろうし、元々の才能があったんだと思う。カリナやサラが特に絶賛していてスタンディングオベーションしそうになったほど。


そして、マイクとリックがそれぞれ大輪の赤とピンクのバラをブーケにしたものを持ってきてリリアンとマリアンに捧げ、2組同時に結婚宣言をしてから、誓いのキス。

普通はここで挨拶をしてもう終わりだけど。


新郎新婦から幸せのおすそ分けがなされますとのナレーションと共に。

白く塗ったスポンジの上にルビーメロンやレッドチェリーのような赤い果物と、ピンクに染めたクリームが飾られたケーキ、シャンパンボトルが数本乗ったワゴンを従者が押していくのに合わせて2組が席を巡り、切り分けられたケーキの皿とシャンパングラスを配りながらお祝いの言葉を貰ってお礼の言葉を返していく。


そして『ブーケ()()()』と称して、リリアンはカリナに、マリアンはロレットに、それぞれ手に持ったブーケを手渡した。

「次の幸せはあなたのものよ」と言われて2人ともちょっとうるっときている。


ナレーションで花嫁からブーケを贈られた女性が次の幸せな花嫁になれますようにという願いが込められていると説明が入って、再び拍手が起きた。


一緒に配られているのはヌーヴォーシャンパン・ロゼという、商会組合でヌーヴォーワインからオリジナル配合した綺麗なピンク色に見えるシャンパン。

ボトルも完全に組合で人間の職人が作ったクリスタルボトルにゴム加工した木製の栓。

ただクリスタルボトルはガスの内圧には耐えられないみたいで、風の石は注ぐ直前で後入れしていた。


チェリーや洋ナシのような複数のフルーツの香りが感じられるから赤っぽさはレッドチェリーなのかな?風味のバランスもかなりいい感じで純粋に美味しい。


皆がゆっくりケーキとシャンパンを楽しんでいる間に2組がテーブルを回り終えて、前で改めて来賓への感謝と挨拶を終え、退場していった。

会場の人たちはゆっくり食べながら卓の人と歓談して、食べ終わった人から順番に出ていくので、私達もゆっくり人混みがはけるのを待つ。


ミーティアたちは宣言式のあとは長居しないのがマナーと、食べたらすぐに撤収していき。

ロレット達も元々食べるのが早いので早めに撤収準備。


「チョーコ、人が多いからぶつかると怖いし、俺たちは出口が空くまで待とう?」

「あ、ロレットごめん。私たちはゆっくり待ってから出るから、また遊んでね」

「そうか。では私たちも先に失礼するよ。また何か面白そうな話があればいつでも呼んでほしい」

「うん、またね!」


出ていく皆をのんびりと眺めながら待つ。新しい試みを色々取り入れた式はかなり皆の興味を引いたようで、自分たちの娘の式もあれを、とかあちらこちらから声が聞こえていた。


「――今日は、いい式だったな?」

「うん。幸せそうだったし……いっぱい色々工夫したんだなって感じがしたね」


客がほとんど帰ってそろそろ動いても良いかなと思う頃になって。商会組合長と現場監督をしていた2人の父親たちが「今日は来てくれてありがとう」と声を掛けに近くへ来た。

「いえこちらこそ、お招きありがとうございました」


「これは宰相も連名なんだけどね、君に。我々からの色々な感謝の気持ちとして受け取って欲しいんだ」

目の前に置かれたのはきっちりと封緘を押された片手で持てるくらいの木箱。


「アスラのもっと向こうの新しい分地で見つかった、作物と思われる落ちものなんだよ。良いものだといいのだけどね」

「落ちもの?……私が個人的に貰っちゃって良いんですか?」


「宰相直々に動いているから問題ないよ。不死族にも確認して、薬や毒になる薬効成分は感じないとの判定だったから、おそらくアズキのようにただの作物のはずだ。

それに、育ったものをコンヴィニ商会で取り扱ってくれれば最終的に我々も恩恵を受けられるわけだからね。危険のないものに限っては、落ちものの作物は君に渡すのが最善というわけさ」

と笑って頷かれた。

「ありがとうございます!」


――帰りの車内で我慢しきれず箱を開けてみると。

何だかとてもつやつやした真っ黒く小さめの玉ねぎ型のものが、青いクッションの上に1つだけ鎮座している。


なぁに、これ??

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