3 掟
「舞浜女子高等学校」。この高校は、外壁が水色に染められていた。何でも、空と海の青をイメージしているらしい。
そんな「舞浜高校」の4階、1年C組が京香のクラスである。そんなクラスに入ると一人の女子高生が近づいて来た。
「おはよー、京ちゃん」
「ああ、桃」
幼女の様な、あどけない顔と身長の、まるで小学生かと思う程の女子高生。ボブカットの似合う桃、本名・桃野・桃が笑い掛けていた。
京香の子供の時からの仲で付き合いは古い。親友の一人であった。
「今日は日直だったんだろ?大変だったな。他に手伝う事はあるか?」
「大丈夫。でも、京ちゃんと一緒に通学したかったな」
声も幼い。でも、彼女は人懐っこい顔と声で、情報を集めるのが得意なのだ。だから、今も右手にはスマホが握られているし、情報を集めている。
「何かニュースか?」
「後で教えるね」
京香は何かあるなと感じていた。
桃に入る情報は確かなものから不確かなものまであるが、その情報量はもの凄く。一般人の友達から、アンダーグラウンドの友達からも入る。だから、「紅」として一緒に入った頃から、総長の、ゆかり先輩からは重宝されて、親衛隊に入れられていた。
まあ、半年前に「紅」は解散したが。
それでも、やっぱり夜の世界が気になる。昔の血が騒ぐのだ。
「桃、今日は授業が午前で終わりだから、帰りに木葉さんの所に行くぞ」
「何か占って貰うの?」
「いや、色々と教えてくれるらしい。あの・・・半年前の事を」
最後は小声で言う京香に桃は頷いていた。危険性を感じているのは、桃に入ったニュースのせいか?
「京ちゃん、休憩時間に話しがあるの」
「何かあるのか?」
「うん、ちょっと気になる事が」
「やっぱり、夜の世界に何かあるんだな?」
更に小声になっていた。
「京ちゃん、変な事を考えちゃダメだからね。総長との約束でしょ?」
不安がる桃の頭を撫でる京香は笑っていた。
「大丈夫だよ。私達は普通の女子高生なんだから。普通の女子高生・・・しているんだからな」
語尾に元気が無かったのは、桃には分かっていた。そう、京香が夜の世界を恋しがっている事に。でも、桃は余計な事は言わない。
「うん、京ちゃん」
桃が微笑んだ。
京香はそんな彼女から離れて、自分の席に着いた。それから遅れて生徒が入って来た。
すると、三人のギャルが近づいて来た。でも、三人は京香と桃の友達だ。
「おはよー、京香」
「よう、遅かったな」
「京香が早いんだって」
「そうそう。少し遅くても文句言われる高校じゃないからさ」
「あたし達、朝からポテトを食ってきたよ」
三人はケラケラ笑う。でも、それが、何時もの光景なのだ。
「ねえ、それより京香。あたし達でチーム創らない?」
「そうそう、京香を中心にさ」
「良いと思わない?」
三人は楽しそうだが・・・京香は首を横に振っていた。
「やめときな。無理に夜の世界に行く必要はないんだから」
そう、京香は悲しげに笑った。
「でも、夏休みになったら単車に乗りたいじゃん」
「そう。なんか楽しそう」
「化粧とか、族仕様でさ」
「・・・・・・」
京香は何かを考えるように押し黙った。
「ねえ、京香も「紅」の時代に化粧ぐらいしていたんでしょ?」
「いや、口紅だけだ」
「何で?レディースって化粧をするんでしょ?」
「掟なんだ。「紅」は口紅の意味で・・」
京香は暗い表情になった。
「実は、「紅」が口紅をする時はケンカや集会の時のみ。そして、化粧をする時は仲間が結婚するか仲間が死んだ時にする事になっていた。そして、私は・・一度だけ化粧をしたことがある。追悼集会の時に一度だけ」
『・・・・・・』
「それが、チームなんだ」
「ごめん。あたし達、変な事言っちゃったね」
三人は京香に謝っていた。だが、知らなかった事として京香は許した。
「いや、いいんだ。でも、掟を作らないとチームが変な事になるって意味」
「京香のチーム半年前に解散したから、そろそろ良いかなって思ったんだ」
「気にしなくていいよ。まあ、今度単車で流そうぜ」
「さすが京ちゃん!」
桃が日直の仕事を終えたのか近づいて来た。でも、なんか嬉しそうだ。
そこで、皆は笑った。
意味は無い。でも、それが天下無敵の女子高生なのだ。
「じゃあ、何時行こうか?」
「そうだな。来週か?桃もそれでいいか?」
「うん、いいよ」
『んじゃ、それで決定!』
三人は言って席に戻って行った。
「京ちゃん、無理しないでね」
「分かっているよ、桃」
微笑んだ京香の表情に、桃は納得して席に戻って行った。
⚪
休憩時間に京香と桃は屋上に来ていた。今は誰も居ない。
「桃、何があった?」
「確信は無いの。でも・・・「白夜連合」の事は憶えているよね?」
「ああ。忘れる訳がない」
そう、忘れようが無いんだ。と、言っても、京香も桃にもあの半年前の戦争の事は把握出来ないでいた。
むしろ、知らない事が多かった。
京香は、あの日の事を思い出していた・・・。