表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かりそめの恋

作者: おもち

もう、認めなよ。私のことが好きだって・・・。


あらすじ:終電を逃してしまった、沙織と香奈は、仕方なくホテルに泊まることに。そんな二人のホテルでの一部始終。


香奈:恋愛対象は一応男性。天真爛漫な性格。

沙織:恋愛対象は女性。

 「……わぁ!結構きれいなホテルじゃない!!」

 沙織は、室内を見渡して、感嘆した。

 沙織のあとから部屋へと足を踏み入れた香奈もビジネスホテルらしからぬ室内の様子に驚きを隠せないようだった。

 

 「見てぇ!このベッドもふかふか!」

 そう言って、ショルダーバッグを備え付けのデスクの上に乱暴に放り投げると、よそ行きのワンピースのままベッドにダイブする香奈の様子を見て、沙織は苦笑した。

 

 「はぁ、でも二人して終電逃しちゃうなんて、私達けっこう酔ってるのかなぁ。」

 ベッドに仰向けに寝転んで、天井をぼんやりと見つめながら、香奈はそうつぶやいた。

 

 「いや、私はともかく、香奈はかなり酔ってるでしょ。でもさぁ、正直言ってベッドが1つだけっていうのは……。」

 沙織は香奈の寝転んでいる横に、静かに腰を下ろすと、ため息交じりにそうぼやいた。

 

 「いいじゃん!別に男女で泊まってるわけじゃないんだし、くっついて一緒に寝ようよぉ!」

 そう言って、沙織の座っている方へと寝返りを打った香奈に、沙織が腰をかがめて顔を近づける。

 

 「私、恋愛対象女性なんですけど……?」

 

 香奈はその言葉に、ふわっと微笑んだ。

 「いいよぉ。」

 そう言って香奈は沙織の背中に手を回した。

 

 「……香奈。もしかしなくても結構酔ってるでしょ。」

 香奈を手で押しのけると、沙織はベッドからゆるゆると立ち上がった。

 「お風呂入ろっと。」

 そう言ってバスルームへと歩みを進める。

 バスルームにある大きな鏡には、酒のせいか頬が少し紅潮している自分の顔が映されていた。

 「ひどい顔……。」

 沙織は深い溜め息をつくと、ユニットバスのカーテンを引いた。

 


 ――※――

 「あぁー、もう!」

 シャワーの音がかすかに聞こえるベッドの上で、香奈は思わず声を上げた。

 「あとちょっとだったのに……。」

 そう言いながら、香奈はベッドから勢いよく立ち上がると、備え付けの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。

 ペットボトルのキャップを外し、喉を鳴らしながら水を飲むと、プハッと大きく息をついた。

 おもむろにデスクへと向かうと、ショルダーバッグからスマートフォンを取り出す。

 香奈が電源ボタンを押す。

 ロック画面にはカメラに向かってにこやかに笑う沙織が映っていた。

 

 さっきの沙織の表情。

 やっぱり、まだ私のことが好きなのだろうか。

 どうしたら、親友以上の関係になれるのか……。

 「どうしよっかな〜。」

 

 「どうするってなにが?」

 

 空に放った独り言に対して、唐突な背後からの返答に、香奈は思わずうわっと声を上げた。

 振り返るとそこには、バスタオルを肩にかけ、バスローブに身を包んだ沙織が立っていた。

 

 沙織、もう上がったの……。

 口の中でそうつぶやく。

 

 沙織の濡れた髪からこぼれた雫が1滴、床に落ちた。

 

 「あー、びっくりした!髪ちゃんと拭いてよね。」

 

 「あぁ、ごめんごめん。それより、香奈は今日シャワー浴びないの?」

 沙織はそう言って髪をパサパサと拭いている。

 

 酒のせいだろうか。

 沙織のその姿は大人っぽく優美だった。

 モテるだろうなぁ。

 沙織の姿をぼぉっと眺めながらそんな事を考えていた。

 いかんいかん、何を考えているんだ。

 「そうだね、私も入ろっかな!」

 香奈は自分の気持ちをかき消すように明るくサオリに言うと、バスルームへと向かうのだった。

 


 ――※――

 「はぁー。いいお湯だった!」

 香奈はそう言ってバスルームの扉を開けた。

 

 「香奈。人のこと言えないよ?」

 なんのこと?と首を傾げるカナに、サオリは、髪、と言葉を続けた。

 「こっち来て。髪乾かしたげる。」

 自分は髪を乾かし終えた沙織はそう言うと、ベッドに腰を下ろした。

 

 「えぇ。どうしたの、珍しいね。」

 香奈は、冷蔵庫から水を取り出すと、沙織の足元の床に腰掛けた。

 床にペットボトルを置くと、沙織の足に体重を預ける。

 

 室内には、ドライヤーのゴォという音が響いていた。

 

 沙織はどう思っているんだろ。

 昔から、沙織の手は香奈の手よりも大きくて、とても暖かかった。

 温かなドライヤーの風と柔らかく髪に触れる沙織の手に、香奈はうっとりと目を閉じた。

 

 「ねぇ、香奈?」

 

 んー?

 香奈はそう言って、沙織の方へと顔を上げた。

 

 「香奈はさ、好きな人とかいるの?」

 

 沙織の口から発せられた、予想だにしなかったその質問に、香奈はへっ?と素っ頓狂な声を出した。

 

 しかし沙織の瞳はまっすぐに香奈を捉えていた。

 

 まさか、沙織の方からそんな話を切り出すなんて……!

 願ってもないことだった。

 「うん。いるよー。」

 口角が上がりそうになるのを必死に抑えながら、香奈は事もなげにそう言うと、再び前へと体勢を戻した。

 心臓がドッドッと脈を打つ。

 

 沙織の手が一瞬止まる。

 「そうなんだ。」

 沙織はそう言うと、再び髪を乾かすことに専念した。

 

 再び訪れるドライヤーの音だけが響く空間。

 

 「……聞かないの?」

 

 「え?なに?聞こえなかった。」

 沙織は、ドライヤーのスイッチを切って、沙織の顔を覗き込んだ。

 

 「誰が好きなのか、聞かないの?」

 そう言って沙織の瞳を見つめる香奈に、沙織の目が一瞬泳ぐ。


 「そんなに聞いてほしいのー?しょうがないな。」

 そう言った沙織の顔は、もういつも通りの沙織だった。

 「誰が好きなの?」

 そう言うと沙織は、前向いて、とドライヤーのスイッチをオンに傾けた。

 

 再び暖かい風がカナの髪にあたる。

 

 「……沙織。」

 

 「え?なぁに?聞き取れなかった。」

 そう言うと、沙織は声を聞き取ろうと腰をかがめた。

 

 おもむろに沙織の手に握られているドライヤーへと手を伸ばすと、沙織の右手をそっと握り、電源ボタンをOFFにスライドさせた。


 突然訪れた静寂。

 

 「私の好きな人は、沙織。」

 

 その言葉が、重厚な空気を揺らした。

 

 香奈の瞳は、沙織をまっすぐとらえている。

 

 一瞬、沙織の瞳が揺れた。

 明らかに動揺した沙織のその表情。

 

 ――昔から、沙織とはいつも一緒だった。

 そんな日常が突然崩れ去ったのは、大学1年のときだった。

『私、彼女できた。』

 久しぶりに会った彼女の口から発せられたのは予想だにしなかった言葉だった。

 彼女とはバイト先で出会ったらしい。

 もともと沙織の恋愛対象が女性であろうことは薄々感づいていた。

 しかしまさか、私の知らない女性と付き合うなんて思っても見なかった。

 だって……、沙織は私のことが好きだと思っていたから。

 うぬぼれなんかではない。

 私は、自分に好意を抱く人は、目を見るとわかる。

 

 「……香奈。冗談でも私にそんなこと言っちゃだめだよ。勘違いしちゃう。」

 そう言ってふわっと微笑む沙織の表情(かお)は、こころなしか悲しみを(たた)えていた。

 

 ほら。

 やっぱり、私のこと好きな目だ。

 

 「香奈、ほんとに酔っ払いすぎ。はい、もう乾いたんじゃない?」

 そう言って沙織はコンセントプラグを引き抜くと、ベッドから立ち上がった。

 

 「うわっ。」

 

 唐突に香奈に腕を引っ張られて、沙織は香奈の方へと倒れ込んだ。

 

 「酔ってるよ。だから良いでしょ?」

 香奈はそう言うと、華奢な腕を沙織の背中へと回し、自分の方へと引き寄せた。

 

 時計の秒針だけが鳴り響く室内で、二人は唇を重ねた。

 

 沙織の目が大きく見開かれる。


 あぁ。

 私が大事に温めてきた気持ちを、あなたは土足で踏み荒らしていく。

 こんなのもう……。

 沙織は諦めたように目を閉じた。

 

 

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ