まさか……ゲームのヒロインじゃ無い?
ロッテは鏡台の前に私を座らせると、手馴れた手つきで髪の毛を梳かして行く。
「あの……ロッテ、お願いがあるの」
恐らくハーフアップにして、アップにした部分をお団子にしようとしているのだろう。
記憶が戻る前のソフィアが、皇太子殿下に可愛いと言われて以来、お気に入りの髪型だ。
ロッテが髪の毛を梳かす手を止めず
「何でしょう、お嬢様」
と答え、ハーフアップにしょうとした所で
「私ね、これからは髪型をアップにしたいと思っているの」
そう言うと、ロッテは手を止めて
「よろしいのですか? クリフォード殿下がいつもの髪型に似合うからと下さったこの簪と合わせて、ハーフアップになさっていらっしゃいましたが……」
私の瞳の色のガラスが散りばめられた、しだれ桜のような簪を見せた。
クリフォード殿下
この乙女ゲーム「きみの光が世界を救う」
略してキミセカの世界で、この国の第一王子だ。
公爵令嬢のレミリア様という婚約者がいるのに、伯爵令嬢のソフィアとレミリアを無視して付き合っている最低男だ。
待て待て待て!
ゲームの世界では、プレゼントとかしなかった筈だ。
「えっと……クリフォード殿下って」
「ソフィア様とお付き合いなされていらっしゃいすよね? 悪役令嬢から奪ってやったと、あんなに喜んでいらしたでは無いですか」
ロッテの言葉で、私は背中に冷たい汗が流れた。
キミセカは大人気ゲームだったが、その後に発売された、悪役令嬢のざまぁ展開漫画がヒットしたのを思い出した。
異世界転生者が女の武器でクリフォード王子を落とし、ハーレムモードを作ったものの、悪役令嬢に覆されて断罪されてしまう話だ。
もしかしたら、そっち!!
まさかの、ざまぁ展開をされてしまう側に転生するなんて。
私の顔色がどんどん悪くなるのを見て
「どうなさいました?」
と、ロッテが心配してくれている。
「とにかく、髪の毛はアップにして!」
鬼気迫る私にロッテは押されて頷くと、ポニーテールにした髪の毛を三つ編みして、毛先にリボンを結くと、くるんと2つ折りにしてポニーテールの根元にリボンで纏めた。
お団子とかで良いのに、可愛らしい髪型にしてしまうロッテの神技に感動していると
「いかがでしょうか? お嬢様」
と、ロッテが手鏡を持って来て確認を求めた。
魔法学校の制服のリボンと同じ色のリボンで、清潔感もあり可愛くもある髪型に
「いつもありがとう、ロッテ。でも、明日からはシンプルな纏めヘアーで良いわ」
と言うと、ロッテがショックを受けた顔をした。