2-2 私の態度が高圧的で偉そうなのも、まあ事実
25/11/16
前章の2-1章について、話の都合もあり11/13に前回投稿文からまるまる差し替えを行っております。
まだそちらを読んでいない場合話が繋がらないので、まずは先にそちらを読んでいただけたらと思います。
(変更前は、アルマと研究室で話をする内容でした。今は全く別のものに置き換わってます)
2025/11/16
前章の2-1章について、話の都合もあり11/13に前回投稿文からまるまる差し替えを行っております。
まだそちらを読んでいない場合話が繋がらないので、まずは先にそちらを読んでいただけたらと思います。
(変更前は、アルマと研究室で話をする内容でした。今は「2-1 あの高飛車な<カウント>のやつか?」に置き換わってます)
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正直なところ、最初の感想は「やっべ。やらかした」であった。
迂闊に暴言をぶっ放して、早数秒。音という音はどこかへ逃げ出し、辺りには静寂が満ちている。空気が凍りついたというのは比喩だが、体感温度は間違いなく下がった。冷え込んだと言ってもいい。それほどまでに劇的な変化が目の前にあった。
何を言われたのかと(ついでにムジカも何を言ったのかと)、全員が呆然とした数秒。それを経て――ちらと肩越しに後ろを見やれば、セシリアが目を見開いている。唖然と口をパクパクさせて何かを言おうとしているが、あまりもの衝撃に言葉にならない。そんな様子だ。
と。
「……ムジカ・リマーセナリー」
「――ぶふっ」
その声は、ちょうど同じタイミングで聞こえた。二人分の声だ。明らかに敵意や殺意を含んだ声と――これまた明らかに、吹き出しただろうという声。
改めて向き直れば、声をあげたのは女に侍っていた三人のうちの二人だ。
無表情の女は反応なし。表情を変えたのは敵意を向けてきていた女と、楽しげにこちらを見ていた女――ただしその反応は対極的。敵意を向けてきていた女は更に目を吊り上げこちらを睨んでいるが、楽しげにしていた女は笑いをこらえて肩を震わせている。
というか、何か変なツボに入ったらしい。堪えきれずに腹を抱えて笑い出した。
「ぶ、ふふ、あははははっ! ま、マジかよ……ヴィ、ヴィル本人を目の前にた、タカビー、タカビーってよ! 気持ちはわかるが、だ、だからって普通言わねえだろっ、ぶっふふ――」
「わかるな。笑うなっ!!」
そんな女に、生真面目そうなもう一人が一喝するが。
その怒気をキッとこちらに向けると、怨念たっぷりに囁いてくる。
「……今の発言はどういう意味か、お聞かせ願っても?」
「いや、まあ。すまん。つい口が滑ったとしか」
「口が滑って、アールヴヘイムの次期後継者を侮辱したと……?」
(そういやアルマのやつ、そんなこと言ってたっけか?)
もはやうろ覚えだが、彼女とのファーストコンタクトの際にアルマがそう言っていた気がする。<カウント>級ノブリス〝シルフ〟と遭遇した時のことだ。色々あったせいで完全に記憶からすっ飛んでいたが、確か……アールヴヘイムのご継嗣様とかなんとか。それはすなわち、この空で最も偉い一族の出自ということだ。
浮島アールヴヘイムの管理者の血族。立場で言うなら、最も近いのはレティシアだろう。ただしレティシアは既に管理者を継いでいるため、立場や地位という意味では一段落ちる。
そういう点では目の前の女はとっても偉い人間の身内、まだその程度の扱いになる。仮に彼女を侮辱しても、罰する法は――それが著しく名誉を棄損するものでない限り――ない。現代において、〝貴族〟とは身分ではなく役割だからだ。
だが、たくさんの人間から敬われる人間を罵倒すれば、その反動は当然敵意となって返ってくるわけで。
(流石にやらかしたな……頭寝てんなこれ? それとも調子悪いだけか?)
こんなことを言っても仕方ないのだが、今回だけは本当に悪気はなかった。下男と言われてカチンときた記憶は確かにあったが、普段なら流石にこんな迂闊はしない。
やらかしたのは朝早かったせいか、あるいは最近のケガだのなんだのでまだ本調子ではないからか。どちらにしてもかなりしくじった。しょうもなさすぎるしくじりだが、知らなかったと言えば通用するだろうか。
とりあえず降参を示すために、両手でも上げようか――そんなことを考えていたら、背後からむんずと首根っこを掴まれた。
セシリアだ。顔面を真っ青にして、慌てながらうまく回らぬ舌で〝お姉さま〟たちに言う。
「あ、あの、失礼……本当に、おバカが失礼しました。少し、失礼させていただきます」
「あ、おい――」
そして抗弁する暇もなく、後ろに引きずられる。
外へ出る扉の傍ギリギリまで連れていかれると、セシリアはその場でささやき声で――ただし必死の表情で、支離滅裂にムジカを非難する。
「ねえあなた。なんなの。本当になんなのあなた。脊髄反射で生きてるのあなた。誰彼構わずケンカを売るのはやめてって私、言ったわよね!? どうしていきなり悪口が飛び出るのよ!? しかもお姉さま相手に!! 偉い人と会うって言ったでしょう? なのになんで!?」
「いや、だからうっかりだって。あちらさんも言ってたけど、俺は顔知らなかったし……流石に今のは、ちょっとマズかったなとは思ったけど」
「ちょっと!? ちょっとってどういうこと!? どう考えてもちょっとどころじゃないでしょう!? 何を考えてるのあなた!? ねえ!?」
「何も考えてなかったって言ったらどうする?」
「おバカ!!」
それこそシンプルに罵倒されて、ムジカは微妙な表情をした。
そのままこちらの首を絞めかねないセシリアから目を離して、ムジカはちらとデスクのほうを見やった。こちらに敵意を向けてきた女は変わらずこちらを睨んでいるし、楽しげな女は腹を抱えて笑っている。無表情女は……どうでもよさそうに外を見ていたが。
そして、最後。三人の主である〝お姉さま〟だが。
「ふ、ふふ、ふふふ……!」
「……?」
予想外のことだが、彼女は笑っていた。
その事実に全員がぎょっと――ムジカはきょとんと――彼女を見やるが。
口元を隠して笑う彼女は、本当に楽しそうにひとしきり笑った後、こう口にした。
「いいえ、いいのよ。年下の男の子の跳ねっ返りというだけでしょう? セシリアも、気にしないでちょうだい。その程度で目くじらを立てたりはしないわ……以前、そう言われるだけのことを彼に言ったのは事実。私の態度が高圧的で偉そうなのも、まあ事実」
ただし、偉そうではなく偉いのだけれどね、と。
上位者の立場からその女は微笑んでみせる。
そして、警告も忘れなかった。
「いいわ、あなたの迂闊さを見逃してあげる。ただし……次はないわよ? 私ではなくこの子たちが、という意味でね」
「あー……御令嬢と皆様の寛大な御心に、感謝を申し上げます」
前からも後ろからも圧を感じて、ムジカにできたのは改めて降参を示すことだけだ。完全に今更だが、態度を目上や客用のものに修正して言う。
が、女はこれも微笑んで否定した。
「あなた、傭兵でしょう? 私たちにへりくだらずとも結構。敬語も敬称もいらないわ。あなたはノーブルではない。なら私も、あなたにそれを期待しない」
「……オーライ。なら、普通に話させてもらう……けど、一応は謝罪しておく。本気で悪気はなかった」
「ええ、許しましょう」
「……悪気がないのに悪口が飛び出るのはどうなのよ、あなた」
これは背後のセシリアからの、怨念めいたささやき声だが。
そんなこちらをくすくすと笑ってから、女――確か、ヴィルヘルミナだったか――は配下たちに言う。
「これがラウル傭兵団よ。敵ではないけれど、私たちにおもねりもしない……そんな相手、ここでは新鮮よね?」
「ヴィルヘルミナ様。御戯れが過ぎます。そのような態度では、この男が付け上がります――」
「いいんでないの、付け上がるようなら付け上がらせておけば。そっちのほうが、叩き潰すとき楽しいだろ――」
「アムっ!!」
と、生真面目女に怒鳴られたアムとやらがこちらを見た。笑っていた女だ。相変わらずその瞳は笑みの形に歪んでいるが……目が合うと、更にニヤリと表情を歪める。その眼はこう言っているようだ――お前もそうは思わねえか?
どうも好戦的な性格らしい。気は合うかもしれないが、ムジカは殊勝な態度を崩さないでおいた。
そんなこちらにアムとやらは一瞬つまらなそうな反応を見せたが――
その辺りで、ヴィルヘルミナが立ち上がった。
「ええ、結構。では、改めて名乗らせていただくわ――私はアールヴヘイムの次期後継者。浮島アールヴヘイムの管理者の一族にして〝アールヴ〟の一人、ヴィルヘルミナ・アールヴヘイム。以後、お見知りおきを」
「……アールヴ?」
浮島の名とは別に名乗られたその称号を、きょとんとムジカは繰り返した。
と、セシリアが小さな声でこっそり補足してくる。
「簡単に言ってしまえば、名誉称号よ。アールヴヘイムで、<カウント>以上のノブリスを乗機とするノーブルに与えられる――もちろん、家格だけじゃない。実力を認められて、初めて〝アールヴ〟を名乗ることが許されるの。あの耳飾りはその証よ」
(つまり、正真正銘の実力者ってことか)
独自の風習というのはどの浮島にもある。これもそれだろう。その辺りはすんなりと飲み込んだ。断片的にだが、スバルトアルヴでの彼女の戦闘を見た記憶もある。実力についても疑う気はない。
問題は、そんな相手が何故ラウル傭兵団に用があるのかということだが……呼び出し相手が彼女となれば、接点は一つしかない。
「それで、あなたを呼び出した用件だけれど……ラウル講師とは約束を結ばせていただいたのだけれど、答えていただけていなくてね。だから、あなたとお話しさせていただくことにしたの」
用件はやはりそれのようだ。ラウルがした約束というのは知らないが……
そうして告げてきたヴィルヘルミナが、次に挟んだ沈黙は五秒ほど。
観察するように――あるいは獲物を捉えたように目を細め、彼女はそれを呟いた。
「――あの日、あなたがノブリス〝スバルトアルヴ〟を起動して、見たもの。それを、教えてくださらない?」
2-2章更新です。
また明日11/17日ですが、書籍版ノブリス・レプリカ2巻の発売日となっております。
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