コミカライズ連載開始記念SS
アプリPalcyにて、コミカライズの連載が開始されました……! とっても素敵に描いていただいてます!
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「キャロル様、フィクス様を癒す良い方法をご存じありませんか?」
フィクスと結婚してから数ヶ月後、セレーナは意を決し、護衛対象であり義妹となったキャロルに問いかけた。
「セレーナが私にそんなこと聞いてくるなんて珍しいわね。どうしたの? 一体」
「実は最近、公務と騎士の任務によりフィクス様が大変激務でして……。いつも笑顔ではいらっしゃるのですが、時折疲弊した顔をしているようなので、妻としてどうにか癒やしてさしあげられないものかと」
「なるほどねぇ」
キャロルは口元に手を持っていくと、キュルンとした丸い目をすっと細める。
その目は、兄を心配してやまず思案している、というよりは何かしら良からぬことを考えているように見えた。
「あの、キャロル様。大変失礼ですが何をお考えで……?」
「ふふ、決まってるじゃない。お兄様を癒す方法を考えてるのよ? いつも私を頼ってくれないセレーナが頼ってくれたんだもの」
「! そ、そうでしたか! 大変失礼しました」
しかし、どうやらそれは勘違いだったらしい。
罪悪感に駆られたセレーナが「うう」と胸を痛めている一方で、キャロルの形のいい唇が弧を描いた。
「思いついたわ。ハグ、なんていいんじゃない? 確か何かの本で、ハグにはストレスを軽減したり、癒し効果があると書いてあったもの」
「本当ですか!?」
興奮して問いかけるセレーナに、キャロルは誰もが見惚れるような美しい笑みを浮かべる。
「ええ。でも、もしかしたら力加減を間違ってしまうこともあるかもしれないわ。だから、練習しておいたほうがいいんじゃないかしら?」
「さすがキャロル様です! 何をするにも練習は欠かせないと私も思います」
良かれと思ってフィクスにハグをして、痛みを与えてしまっては意味がない。癒すどころか逆効果だ。
(しかし、どう練習するべきだ?)
セレーナが真剣に考えていると、目の前にいるキャロルがおいで、というようにバッと両手を開いたのが視界に入った。
「ふふ、セレーナどうぞ」
「はい?」
「私が練習台になってあげるって言ってるの。名案でしょう?」
「し、しかし! キャロル様は大変華奢でいらっしゃいますし、もし私が力加減を間違えて傷付けてしまったら」
さあっと全身の血が引いていく。
そんなセレーナの手を、キャロルは真っ白な手で包み込んだ。
「セレーナに護衛についてもらって数年。これまで何度も接触はあったけれど、貴方が力加減を失敗して私を傷付けたことがあったかしら?」
「い、いえ。それはありませんが……」
「でしょう? セレーナはね、何があっても護衛対象である私を傷付けたりしないわ? だから安心してハグをしてちょうだい? ほら、私の気が変わらないうちに早く」
「キャロル様……」
なんてお優しい方なんだろう。
セレーナは込み上げてきそうになる涙をぐっと堪え、一礼する。
「キャロル様、失礼いたします!」
そして、セレーナがキャロルに腕を伸ばした瞬間、何故か背後から伸びてきた腕にぐいっと引き寄せられ、後ろから抱き締められていた。
「セレーナ、一体何してるの?」
「フィクス様、何故ここに!? 今のはその、キャロル様の許可を得てハグを、ですね」
「チェッ……もう少しだったのに……」
(チ、チェッ……? いや、あのキャロル様がまさか……今のはきっと聞き間違いないだ。うん、そうに違いない)
セレーナが動揺する一方で、フィクスはそんな妻の肩に顔を埋めながら薄っすらと目を細めた。
「ハグ……? キャロル……セレーナに何か変なことを吹き込んだ?」
「いやだわ、失礼ですこと。私はただ、セレーナがお兄様を癒したいというからハグを提案してあげて、力加減を間違える恐れがあるから、私で練習してからの方が良いんじゃない? と言っただけですわよ?」
「……お前の欲望が手に取るように分かるよ。ほんと、油断も隙もない」
フィクスはため息をつくと、セレーナを腕の中から解放する。
そして優しく微笑み、セレーナの美しい青い髪をさらりと撫でた。
「俺を癒そうとしてくれてありがとう。でも、俺はセレーナが傍にいるだけで癒されるし、もし何かしてくれるなら、俺が一番がいいな。夫なんだし」
「! も、申し訳ありません! フィクス様のお気持ちも考えず……」
「謝る必要はないよ。でも、せっかくだから今日の夜たっぷりハグして癒やしてくれる? セレーナの温もりを感じたら仕事の疲れが吹っ飛びそうだ」
「そういうことでしたら、もちろんです」
それからフィクスは、「ハグは俺が一番ね。というより俺にしかダメだからね」とセレーナに言い残し、その場を離れた。
フィクスの言いつけをしっかり守るセレーナを真面目で素敵とキャロルは思う一方で、せっかくのチャンスを逃したことを悔やむのだった。
読了ありがとうございました!
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