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39.目の前に居たのは

 

 どれくらい眠っていたのだろう。分からない。

 けれどたった今、まるで深海から浮かび上がってくるような、そんな感覚があった。


 過去にないほど瞼が重たい。朧気な意識の中でも頭、肩、手首に太腿には痛みが走り、起き上がるのが億劫だ。


「セレーナ! セレーナ……!!」


(誰か……呼んでる)


 聞き覚えのある声。けれど、いつもこんなに切羽詰まったような声色だっただろうか。

 そう、いつもはもっと、どこか意地悪で、人を誂うような……。


(けれど、とても優しい声)


 確か、そうだった。そしてセレーナは、そんな彼の声が大好きだった。


(……聞きたい、な)


 そう思ったら、痛みがふと軽くなって、セレーナは腕を動かすことができた。

 そっと腕を上に伸ばし、降りてこようとする瞼に逆らって目を開く。


 目の前に居る美しい碧い瞳の彼の名を、そっと呼んだ。


「フィクス、さま……」

「セレーナ……! 良かった……! 目を覚ましてくれて、本当に良かった……!」


 フィクスはセレーナの手を両手で握り締めて、今にも泣き出しそうな表情を見せる。


 ああ、心配をかけてしまったんだな……。


 早くフィクスを安心させてあげたい。セレーナはできる限りの笑顔を浮かべた。


「もう、大丈夫、です……」


 セレーナがそう伝えたら、フィクスは僅かに唇を震わせながら、「うん」と小さな声で応える。


 何故だかそんなフィクスを見て、セレーナは涙が零れた。



 その後、セレーナが目覚めてからのフィクスの行動は速かった。


 感動に浸っていたのはほんの少しで、フィクスは直ぐ様セレーナの体を心配して王宮医を呼んでくれた。


 王宮医からの説明では、デビットから受けた傷に致命傷になるようなものはなかったらしい。

 ただ、あまりに血を流し過ぎたため、意識を失うに至ったそうだった。いつ目覚めるかは王宮医にも予想できなかったようだ。


 これからの療養については、一ヶ月ほど安静にしていれば大丈夫とのこと。

 体に後遺症が残るようなことはなく、傷もほとんど見えなくなるだろうとのことだった。体力を戻せば、また騎士として復帰できるだろうと言われた時は、ホッと胸を撫で下ろした。


 王宮医がお大事にと部屋を出て行くと、ちょうどそのタイミングで、セレーナが目覚めたことをセレーナの家族やキャロルなどの近しい人物に伝達するようフィクスが部下に指示した。

 フィクスの計らいにより、現在はクロードだけでなく両親も一時的に城に部屋を与えてもらっているらしく、おそらく一時間もしないうちに来るだろうとのこと。


 この頃には目覚めてから約一時間ほど経っており、セレーナの意識は完全にはっきりしていた。

 支えがあれば上半身を起こせるほどになっていたので、フィクスが食事の手配をしてくれた。


 王宮医からの話では、なんと二日間も眠り続けていたらしいので、怪我の痛みと同じくらい空腹がとんでもなかった。用意されたスープは、涙が出るほど美味しかった。


「……ご馳走様でした。えっと、フィクス様、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません……。それと、助けてくださって、ありがとうございました」 


 セレーナは空になった皿とスプーンをベッドサイドテーブルに置いてから、フィクスに頭を下げる。

 サイドテーブルと反対側に置いた椅子に腰掛けているフィクスは、ゆっくりと首を横に振った。


「ううん。俺は王宮医のところに連れて行っただけだから」

「いえ、王宮医様のもとに運んでくださったことだけではなく……」


 一時は死ぬと思ったのに、こんなふうに話せるなんて、まるで夢みたいだ。


 この穏やかな時間を堪能していたいものの、セレーナは今、王宮医の話による自分の体の状況しか理解できていないので、フィクスに質問することにした。


「何故、あの地下室に助けに来てくださったんですか……?」


 助けに来てくれた時のフィクスの様子から察するに、偶然あの地下室に来たという感じはしなかった。


 意図的に助けに来てくれたとして、何故あの場所が分かったのだろう? そもそも、何故セレーナが何者かに連れ去られていると分かったのだろう?


「ああ、そうだね。それじゃあまず、順を追って話そうか。まず、セレーナになにかあったのかもしれないと気付いたのは、御前試合の準決勝が始まる直前だよ。セレーナは棄権をしたはずなのに、通常通り試合が行われる流れになっていたからおかしいと思ったんだ」

「……! なるほど、そういうことですか」


 準決勝は二試合あり、セレーナが先に試合を行い、その後にフィクスの試合が行われる予定だった。


 だが、セレーナは左手首の怪我が原因で棄権をするつもりだったので、セレーナの対戦相手は不戦勝になり、速やかにフィクスたちの試合が行われるはずだ。


 それなのに、御前試合の運営はセレーナの棄権を認知しておらず、会場にセレーナが現れないことに観客たちは騒然としていたようだ。


「真面目なセレーナが、棄権の旨を伝え忘れるなんてことあるはずがない。つまり、伝えられない状況にセレーナはいるんじゃないかと考えて、俺は直ぐに捜しに行った」

「ま、待ってください……! 私が現れなければ、遅かれ早かれ不戦敗になるはずです。その次はフィクス様の試合ですよね?」

「そうだね。……けど、御前試合なんかより、セレーナのことが心配だったから」

「……っ」


 つまり、フィクスは試合を放り出して、セレーナを捜しにきてくれたのだ。

 セレーナが危険な目に遭っている確証なんてないのに。


「で、セレーナがどこに居るかまでは分からなかったから、とりあえず地上に向かったんだ」


 フィクスは当たり前のように話すけれど、何一つ当たり前なんかじゃない。

 優しすぎるフィクスにセレーナは胸が熱くなる中、引き続き彼の話に耳を傾けた。


「それから救護テントの付近を捜した。けど姿がなかったから、次は会場の裏側の方を捜しに行ったんだけど……。そうしたら、地面に血痕があって」

「……おそらく、あの男に頭を殴られた時のものだと思います」

「うん。初めは誰の血痕なのか分からなかったけど、()()を見つけた時に、セレーナの血痕なのかもしれないと思った」

「これ……?」


 フィクスは一旦立ち上がると、ズボンのポケットに手を入れてなにかを取り出す。

 そして、もう一度腰を下ろしてから、その手をセレーナの方へと差し出した。


「……これだよ。俺がセレーナにあげたネックレスが落ちてたんだ」

「……!」


 フィクスはセレーナにネックレスを手渡す。

 セレーナは愛おしそうにそのネックレスを握り締めると、そんな彼女の手をフィクスは優しく包み込んだ。


「セレーナの棄権連絡が届いていないこと。血痕と同じ場所にネックレスが落ちていたことから、セレーナがなにか危険な目に遭っていると確信を持った俺は、地下に続く血痕を追った。そして、血痕が消えた場所にある扉を開けたら、セレーナとあの男が居たんだ。……これで、疑問は解けたかい?」


 フィクスの問いかけに、セレーナは何度も頷いた。


(まさか、無くしたと思っていたネックレスのおかげで、フィクス様が助けに来てくれたなんて……)


 驚きで上手く声が出せないでいると、フィクスは次に、デビットのことを話し始めた。


「デビット・ウェリンドットはあの後騎士たちに拘束されて、牢屋に戻された。二度と脱獄ができないよう、厳重に拘束具をつけられて、見張りも強化してね。……脱獄の上に逆恨みでセレーナを傷付けただけでも罪は相当重いけど、デビット本人が俺の命も狙っていたことと、セレーナを殺したらキャロルを連れ去ろうと考えていたと自白したらしいから、おそらく死刑は免れないだろうね」

「…………それは、致し方ありませんね」


 キャロルを連れ去ろうとしていたとは驚きだ。

 だが、確かにデビットはキャロルのことを盲目的に愛しているように見えたので、おかしな話ではないかとセレーナは納得した。


「フィクス様、詳しく話していただいてありがとうございました」

「いや、構わないよ。……けど、俺からも一つ質問して良い?」


 はて、質問とはなんだろう。これと言って思いあたることがなかったセレーナだったが、「もちろんです」と返事をした。


 すると、フィクスは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、窺うように問いかけた。


「セレーナが意識を失う直前に言った言葉、覚えてる?」

「…………あ」


 その問いかけを耳にした瞬間、セレーナはこれからフィクスがなんの話をしようとしているのか、分かってしまった。


「──俺のこと、好きって本当?」

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