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17.キャロル様とダンスレッスン

 

 家族に挨拶を済ませてから、一週間後の午後のこと。 


 王女宮内にあるダンスホールで、セレーナは片膝を床につき、日に焼けたことがないような白い肌をした、キャロルの手を取った。その手に顔を寄せ、口付けをするふりをしてから、セレーナは顔を上げる。


 すると、そんなセレーナたちを部屋の端から眺めているキャロル付きの侍女たちは興奮気味に鼻息を荒くした。


「キャロル様。僭越ながら、本日のダンスレッスンの相手は私が勤めさせていただきます。よろしいでしょうか?」 

「さ、最高よぉぉ! セレーナ……! カッコ良すぎるわぁぁ!」

「「「なんと絵になるお二人でしょう……!!」」」


 キャロルと侍女たちの黄色い声は、割りといつものことだ。


(なにに対してそんなに喜んでいるのかは分からないけれど、王女殿下はもちろん、侍女殿たちもお元気そうでなにより)


 セレーナは立ち上がると、爽やかな笑顔を浮かべてから、キャロルの腰を抱き、軽やかなステップを踏み始めた。


「ふふ、セレーナとこうやって踊るのは、少し久しぶりね!」

「はい。相変わらずキャロル様が踊るお姿は、花の妖精のように可愛らしいですね」

「セレーナ好きぃ……!」


 男性役としてキャロルのダンスレッスンに付き合うのは、これで何度目になるだろうか。


(……厳密に言えば、キャロル様は既にダンスレッスン自体は完璧に終えられていて、公務や社交の息抜きに、こうやって私と踊りたいと仰っているのだけれど)


 最初は男性パートが上手く踊れなかったセレーナだったが、持ち前の運動能力の高さから、直ぐに会得することができた。今や、女性パートよりも上手く踊れるかもしれない。


(……キャロル様と時折こんなふうに踊るようになって、もう四年か……。確か、護衛騎士に選ばれた頃は、周りからのやっかみが多かったっけ)


 騎士にとって、王族の護衛を任せられることは大変名誉のことだ。

 とはいえ、騎士になり立てで抜擢されるなどそうあることではないし、この国では女性騎士の数は少ない。男性の騎士たちから、セレーナは冷たい目で見られることはもちろん、すれ違いざまにわざと肩をぶつけられたり、聞こえるように悪口を言われたりすることもあった。


(ま、鍛錬を共にしたり、根気強く話したりすることで、今はなんだかんだ皆に認めてもらえたし、仲良くやれているから、今となっては思い出話だけれど)


「ねぇ、セレーナ」


 その時、キャロルに名前を呼ばれたセレーナは、「はい」と返事をした。


「なんでしょう、キャロル様」

「セレーナは、フィクスお兄様の婚約者になったじゃない? 住む場所も、周りの対応も変わったと思うのだけれど、なにか不安や不満はない!? もしあるのなら、私がどうにかしてあげるからね……!?」

「なんてお優しい……。ありがとうございます。しかし、大きな問題はありませんから、ご心配は無用です」


 心配してくれているキャロルにジーンと胸が熱くなる中で、セレーナはそう返す。


 キャロルの言う通り住む場所は変わったが、メイドのリッチェルのおかげで、全く不便はない。

 どころか、第三王子宮に勤めるメイドたちも皆優しく、真面目に働いているので、快適過ぎるくらいだ。


 フィクスの婚約者になったことで騎士仲間たちから質問攻めにあったり、多少よそよそしい態度をされたりすることもあるが、不満と呼ぶほどのことでもない。


 なによりフィクスは第三王子としての公務と騎士としての仕事を兼任しているので、とても忙しく、婚約者になったからと言って、常に顔を合わせるわけではなかった。

 可能な限り朝食か夕食のどちらかは共に摂っているくらいだ。甘い言葉を言われることには、動揺してしまうことはあるものの、婚約する前と大きくは変わらなかった。


「ふふ、それなら良かった! 私ね、セレーナがフィクスお兄様の婚約者になってくれたこと、ちょっぴり悔しいけれど、嬉しいの! だってね、セレーナはこれまで通り護衛騎士を続けられて、傍に居られるんだもの! 」


 くるりとターンをして、満面の笑みを浮かべながらキャロルは言う。

 国を傾けられそうなほどの美しいそんな笑みに、セレーナも微笑み返した。


「はい。私も、キャロル様の護衛を続けられて、本当に嬉しいです。貴方様が許してくださる限り、ずっとお傍におります」

「きゃ〜! 皆聞いた!? 聞いたわよねーー!?」


 首をぐるんと回して顔だけを振り向き、キャロルは侍女たちとキャッキャと言葉を交わす。


 ダンスホールには和気藹々とした空気が流れた。


 ……の、だが、セレーナには一つだけ懸念があったため、彼女の瞳には、ほんのすこし影が落ちた。


(それにしても、あの件はどうしましょうか)


 それは、フィクスと共に家族へ挨拶へ行った際、あまりにフィクスとクロードが一階に降りてこないものだから、念のためにセレーナが様子を見に行った時のことだ。

 扉をノックしようとしていたセレーナは、扉の向こう側から聞こえてくる言葉に、目を見開いた。


 ──『ようやく分かったことがある。……彼女を好きになって、もう六年。俺はわりと、長期戦が得意みたいだから』


 それは、今までのフィクスからは聞いたことがないほどの、愛おしさが剥き出しになったような声だった。


(まさか、フィクス様に好きな方が居たなんて──。それも、あの言い方から察するに、六年間もずっと片思いをしているとは……)


 フィクスに想い人が居るという事実。また、その想いの長さ。声から伝わる真摯な恋心。


 それらを知ったセレーナは、その時あまりに驚いて、咄嗟にクロードの部屋から離れた。

 フィクスやクロードとは別に両親のもとに戻った際は、両親からなにかあったのか聞かれたが、そこは適当に誤魔化すことで事なきを得た。


(…………好きな相手が居るのに、私の提案を受け入れた……その理由とは……)


 けれど、セレーナは一週間、その理由ばかりを考えていて、頭がスッキリしなかった。


(もしや相手は既婚者で、叶わぬ恋だとか? いっそのこと聞いてみようか。 ……けれど、偶然とはいえ、私は盗み聞きをしてしまったわけだし……。フィクス様がもし、兄様以外に聞かれたくなくてあの場で話していたのだとしたら、知らないふりをする方が良いのかもしれない)


 頭を悩ませるセレーナだったが、「ねぇ! セレーナ」と鈴が転がるような可憐な声でキャロルに話しかけられ、ハッと意識をキャロルに戻した。


「三日後のパーティーには、フィクスお兄様の婚約者としてセレーナも出るのよね? ふふっ! 騎士服のセレーナも素敵だけれど、ドレスを着たセレーナを見られるなんて、とっても楽しみだわ!」

「……! パーティー……。すっかり、忘れておりました……」


 ──一難去る前に、また一難。


 大勢の貴族たちの前で、フィクスの婚約者として上手く振る舞わなければならないセレーナは、「頑張らなければ……」とポツリと呟いた。

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