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13.家族にご挨拶

 

 それから少しして、セレーナたちは三人で屋敷へと足を踏み入れた。


 セレーナと同じ碧い髪をした穏やかな顔つきと父と、クロードと同じ漆黒の髪を束ねた美しい母に出迎えられ、セレーナたちは応接間のソファへと腰を下ろした。


「あれ? そういえば兄様はどちらに?」


 ローテーブルを中心に、四人がけのソファが二つある。

 その片方のソファにセレーナとフィクスが、向かいのソファに父と母が腰を下ろしたところ、入室する直前まで姿があったはずのクロードが居ないことに、疑問の声を上げたのはセレーナだった。


「クロードなら、二階の自室に行かせたわ。セレーナのこととなると、あの子は周りが見えなくなるから……。この場に居たら話が進まないかと思って。なんだかマスコットを持ってニヤニヤしていたけれど、まあ、これはいつものことね」

「お母様、そのことなのですが……」


 セレーナはそこまで話して、一旦口を閉ざした。


(つい先程、既に兄様は暴走し、フィクス様に決闘を挑んだ。けれど、フィクス様の交渉により、兄様は私とフィクス様が婚約することをお認めになった。兄様が持っていたマスコットは、その際に得たもの……だと、両親に伝えるべき、よね)


 しかし、フィクスが許しているのならば、諸々を伝えることは、両親に余計な心労をかけてしまうだけかもしれない。 


 そんなふうに考えたセレーナが、隣りに座るフィクスをちらりと見る。

 すると、フィクスは直ぐに気付いて、人差し指をセレーナの唇にぴたりとくっつけた。


「セレーナがなにを悩んでるかは大体分かったけど、しー……で、良いよ」

「……っ」


 アーモンドのような瞳を楽しそうに細めたフィクスに、セレーナは息を呑む。


(わざわざ唇を指で押さえずとも、口頭だけで良いのでは!?)


 そう思ったセレーナだったが、今の状態で唇を開けるほど考えなしではなかったので、きゅっと唇を横に結んだ。


「な、なんと……。殿下とセレーナは、もうそんなに仲が良いのだね……」

「ほ、本当ですわね……! 私たちは席を外した方が良いかしらね!?」


 両親の前でいちゃついている姿(厳密にはフィクスは誂っているだけなのだろうが)を見られるなんて、もはや拷問に近い。


 真っ赤な顔をしたセレーナが、フィクスを睨みながら「んー!! んーー!!」と文句を訴える。


 フィクスは「はは」と楽しそうに笑い声を上げてセレーナの唇から手を離し、しれっとセレーナの両親に視線を移した。


「さて、改めて婚約の挨拶をさせていただきますね──」


(……っ、いや、目的は挨拶だけれど! よくここまでしれっと進められるものね……!)


 自身とは違い、余裕そうな様を見せるフィクスに、セレーナはある意味尊敬した。



 それから、ひとしきり婚約についての挨拶が終わった直後のこと。

 両親は互いに目を見合わせる。そして、二人はほぼ同時に深く頭を下げた。


「セレーナ! 私がウェリンドット侯爵家が反王派であることを知らないせいで、迷惑をかけてすまない!」

「セレーナ!あんな酷い人との婚約を進めようとして、本当にごめんなさい!」

「……! お父様……お母様……」


 父は顔つきこそ穏やかだが、その実は剣のことしか頭がない脳筋だ。

 貴族たちの動向などに一切興味がないので、知らないのも無理はなかった。


 母はタイミングよくウェリンドット侯爵家から縁談があったことで、娘がこれで幸せになれると浮足立っていたのだろう。

 これまで数々の縁談を断ってきたのはセレーナなので、娘を思っての行動をした母を、責める気なんて毛頭なかった。


 セレーナは少し申し訳無さそうに眉尻を下げて、話し始める。


「二人とも、頭を上げてください。今回の件は、当人である私に警戒心が足らなかったことも問題の一つです。それに、結果的にフィクス様と王女殿下が窮地から救ってくださいました。それに、有り難いことに騎士の仕事を続けても良いともフィクス様に言っていただきました」


 そう言って隣のフィクスに微笑みかければ、フィクスはコクリと頷いた。


「……! 本当か、セレーナ! それは良かったな……!」

「良かったわね……! セレーナ! 殿下には、どれほど感謝すればいいか……っ」

「……いえ。私は愛するセレーナを悲しませたくないだけですから」


 愛するという単語に一瞬体がピクリと反応してしまったセレーナだったが、仮初の婚約者の演技であることは分かっているので、内心で感謝した。


(フィクス様……。本当に素晴らしい演技力です……。ありがとうございます)


 笑顔で喜ぶ父に、涙を流して安堵の表情を見せる母。

 特に母は、結婚適齢期を過ぎたセレーナが一日でも早く殿方と婚約し、幸せになることを望んでいたので、自分が想像する以上に喜んでいるに違いない。


(フィクス様のためになれればと思って、仮初の婚約者になりたいと提案したつもりだったのだけれど、なんだか私のほうが得をしている気がする……)


 一つ目は、フィクスの婚約者になったため、もうこれで母から口酸っぱく縁談の話をされないこと。

 二つ目は、フィクスの婚約者であるうちは、騎士の仕事を続けられるということ。


(婚約者になったからにはいずれ結婚の話も出てくるのだろうけれど、そこに関しては大きな問題はないはず。フィクス様は元々あまり結婚をするつもりがなかったわけだし、早く入籍をするようにとの話が出ても、うまく躱すでしょう)


 フィクスは口が上手いため、そこに懸念はない。

 そもそも、セレーナと比べ物にならないほどの大量の縁談を断ってきたフィクスがようやく婚約したのだ。この機を逃してはなるまいと、周りも慎重な動きにならざるを得ないはず。


(その間に、フィクス様がどなたかを好きになるか、結婚に対して前向きになってくださると良いけれど)


 その日が来るまで、フィクスのために、仮初の婚約者に努めを果たさねば──。


「──セレーナ?」

「……! あ……。フィクス様、申し訳ありません。その、少し考え事をしておりました」


 自分の世界に入っていたところ、顔を覗き込むようにして、フィクスに名前を呼ばれたセレーナは、軽く頭を下げた。

 気を引き締めた後、「なんのお話でしたでしょうか?」と申し訳無さそうにフィクスに問いかける。


「ん? 今ご両親にね、私とセレーナの馴れ初めを聞きたいと言われてね」

「…………。はい?」

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