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この母あってこの娘あり

作者: おもながゆりこ

小学校四年生だった私のある日の出来事。




学校から帰ると、玄関は持っていた鍵で開けられたのですが、チェーンがかかっていてドアが開きません。


チャイムを何度も鳴らしましたが、いるはずの母が来てくれません。


昼寝をしているんだろうと思い、何とか起こそうと何度もチャイムを鳴らしたり、おーいと叫んだりしましたが、母は起きません。


当時、携帯電話など持っておらず、本当に困りました。




仕方なく、庭へまわりこみ、二階にある父母の寝室の窓をめがけて何か投げようと思いましたが、


石なんて投げて窓が割れたら後で怒られそうだし、どうしたものかとほとほと困りました。


そこで少しでも身軽にする為にランドセルを下ろし、上着も脱ぎ、


エアコンの室外機やら、色々なものを踏み台にしたり、つかまったり、


十歳の私は必死の形相で二階へよじ登りました。


落ちて怪我をするのでは無いかと本当に怖かったし、まるで私が泥棒みたいです。


窓から見ると、やはり母はベッドでグースカ昼寝をしています。


落ちるまいと足をふんばりながら、懸命に窓をドンドン叩き、母を呼び、やっと起こしました。


母は寝ぼけ眼のまま窓をカラカラと開け、今にも落ちそうになっている私にこう言いました。




お帰り。




お帰りじゃないだろう!


この状況見て、どうしてそんな呑気な事が言えんだよ!


早く私を助け上げてくれよ。




母は私をひっぱり上げ、部屋に入れてくれましたが


物凄い勢いで怒る私を尻目に、再び寝てしまいました。


これでよく寝られるなと別の意味で感心しました。




ああ、のれんに腕押し。


この母に怒っても寝ちまうだけだ。


せめて夕飯までに起きてご飯作ってくれよ〜。


まったくもう。




歳月は流れ、うちの小学校四年生の娘が学校に行っている時。


家事で疲れ、二階の寝室で昼寝をしていました。


うっかりドアのチェーンをかけたまま。


夢の中で私を呼ぶ娘の声と、窓を叩く音がします。


やっと目を開け、ヨロヨロと起き上がると、娘が窓にしがみついて必死に私を呼んでいます。


どうしてこの子はこんな状態なのだろう、これは夢か?と不思議に思いつつ、カラカラと窓を開けました。


今にも落ちそうな娘に私はにこやかにこう言いました。




お帰り。




私は娘をひっぱり上げ、部屋に入れ、まだ眠かったので再び寝ました。


物凄い勢いで怒る娘を尻目に。




いいじゃんかよ〜。


無事に家に入れたんだから〜。


夕飯までには起きるから、それまでおやつでも食べて、宿題でもやっていなよ〜。




あの母あって、この私ありです。




ああ、生後五日目の息子が、将来そんな事になりませんように。




もうひとつ、孫が窓をよじ登るようになりませんように。



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