旅は巡る
冒険や英雄譚なんて言うものには必ずハッピーエンドなんて言う終わりがやってくる。
でももし仮に、終わらないとしたら?
その先が続いたとしたら?
何度挫けそうになっただろうか?
何回死にかけただろうか?
そんなことを考えながら、俺は魔王がいる王の座へと足を運ぶ。
1歩前に進む度に空気が重くなっていくのを肌で感じる。
「ここが、王の座...」
その扉は重々しくそれでいて威圧感がある立派な扉だ。
すると突然、ギギギ...と扉が勝手に開かれていく。
なるほど、早く入って来いということか。
俺は誘われるかのように奥へと足を踏み入れる。
「よく来ましたね。勇者よ」
しかし俺の目の前にいたのは純白の綺麗な女性だった。
「....なっ、えっ?」
俺が驚いてあんぐりしてるとその純白の女性は微笑んできた。
「クスクス....。どうやらさぞお困りのご様子。魔王だと思ったものが
こんな白く輝くものでは無い。と」
「あ、そうやって自分を白だとか輝いてるだとか言うやつは俺は信用してないから
お前が魔王なのは理解した」
「あら残念ですね。まあ、魔王なのは間違いないですが」
俺は無言で剣を抜く。
「勇敢ですね。ご立派です。そう、私を倒せば貴方の冒険は終わりを迎えることが出来、
国からも大いに讃えられ、英雄譚なんて言うものも出来るでしょう。
しかし誠に残念ですが、あなたの冒険は終わりません」
「終わらないんじゃない。終わらせてやるんだ!」
長い攻防戦の末、
俺は魔王に最後の一撃をお見舞してやった。
「これで、終わりだよ。...俺の旅も、お前の存在も」
魔王はそんな言葉に優しく語り掛けてきた。
「ふふっ、言ったでしょ。終わらないって...。貴方はこれから何度も私を倒しに来る。
その度に あなたの冒険は永遠に終わりを迎えることは....」
勇者は無事魔王を倒し.....
そこで世界が暗転していく。
「な、なんだこれ!?魔力の崩壊か!?」
そうは思ったものの、視界が歪んでない。意識もはっきりとしている。
そんな中で俺の周りだけが黒に呑まれていってる。
光も、音も、視界も黒に奪われていく。
魔王は最後に俺に何をしたんだろう。なにかをする隙は与えなかったはずだ。
(怖い....)
ただここにいるのは、ここに一人でいるのは
「寂しくて怖い?」
そんなどこからか聞こえる声に、俺はハッとなって目を開ける。
「....夢?」
冷や汗をびっしゃりと垂らしながら重い身体を起こす。
なんだかとても嫌な夢を見てたような気がしたんだが...、良く思い出せない。
その見てたビジョンは泡沫の様に曖昧に霧散されていく。
しかし、妙な感覚はある。
モノに触れた感覚、耳に残るような優しい声。
「気持ちわりいし、シャワー浴びて気分変えに街に出るか...」
よく分からないモヤモヤ感を晴らす為に街へと足を運ぶ。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
メイド喫茶に足を運んでみた。
メイドなんてお屋敷でよく見るとかそんな野暮なことは言わない約束だ。
勇者はメイド喫茶で楽しい時間を過ごした。
その後、勇者は国王に招集を受け、城の中へ。
「おお、勇者よ。そなたを呼んだのは他でもない。
実は折り入って相談があるのだ」
その言葉にどこか違和感を覚える。
なんだろう、この気持ち悪い感覚...?
「どうした、気分でも悪いのか?随分険しい顔をしているようだが」
「あ、いえ、...なにも」
どうやら随分顔に出てたらしい。気をつけよ...。
「それで、相談というのは?」
「うむ、魔王の討伐に向かって欲しいのだ」
その言葉を聞いた瞬間、ぐっちゃぐちゃな気持ちが俺の全身を駆け巡り
俺は堪らず全てをそこにぶちまけてしまう。
国王や周りは何事かと慌てふためいているが
俺はそれどころじゃない。
なんだこれ!?なんだよそれ!?
俺の記憶が何かを見せようとするが、俺の本能がそれを見せまいと全てをシャットダウンしてくる。
おかげでいま俺は不快感のオンパレードだ。
四つん這いになり、みっともなく全てを吐き出して
吐き出すものがなくなって胃液がとめどなく溢れ出てきてる。
全てが苦しい...。もがきたくてももがけない。
不快で不愉快で堪らない。
俺はそこから逃避するためにその場に倒れ込んだ。
その真っ暗な世界から戻ってくるのにどれだけ時間をかけただろうか?
目を開けると夕日が差し込んでいる。
ぼやけた頭でここは医務室か。とか思っている。
寝たにしては体が気怠い。起きる気力さえも無い。
唯一動かせる目と頭をゆっくりと動かしながら当たりを見渡す。
するとそこに座ったままスヤスヤと寝息をたててる女の子がいた。
ギャルゲくらいでしか見た事ない光景だろう。
しかし、その寝姿はとても気持ちよさそうに寝ている。
なんだかこの子を見てると安心して俺まで眠くなってくる。
そう思うと今度はちゃんとした睡魔が俺を深い眠りへと誘う。
今度のこの眠りは安心出来るやつだ。
俺はその睡魔の誘いを受け、深い眠りへと着くのだった。