第6話
この森からこぼれ日が一筋差し込んだならどんなに荘厳だろう。暗闇にはある程度慣れはするが、それでも人は陽の光が恋しくなる。
「ひとまず今日は魔法が使えるのを確認したからここまでやればいい。初めて使った魔法に身体が疲労しているはずだ」
言われるまで彼女は二の腕が痛むのに気が付かなかった。掌は指先から冷たい。
「じきに夜がくる。今日は森での授業は終いだ。まあ、帰ってからもすることはたくさんあるがな」
「子供に対して過度な詰め込み教育です」
「身体は疲れていても、頭は働かせることが出来るだろ」
「私は今日、生死を分けるような体験をしたんですよ。そのあとに何事もなく授業なんて無理です!」
父は常に無理難題で教育を叩き込んでいき、彼女は憎まれ口をこぼしつつもこなしていくスタイルが出来上がっていった。
それは彼女が成人するまで毎日続いた。それをこの森も見守り役の一人だった。
そして、もう一つ。そんな言い合う二人を小さな銀灰色の影もちらりと覗いていた。
「さてと、お前を置いて俺は先にこの森を出る。お前は一人でこの森を出ろ。ここの地点から森を出るまではそう長い距離ではないから迷わず出られる。まずは森に慣れ、ここの中にいる感覚と位置関係を身体に馴染ませろ。この森の一部となるんだ。だが、長居はするな」
何をほざいているのだと彼女は父の発言に対して呆れ果てた。
一部ということはこの森の木にでもなれって意味なのか、理解が出来ないと言いたかった。
言いたい衝動をぐっと飲み込んで無言を貫いたのは、言ったところで父が先に森を出るのは決定しているのでここで無駄な体力を使うべきではないと僅かに冷静な判断が取れたからだ。
「アウィス、森はお前の一部だ。道が分からなくなったら聴け」
それだけ言い残すと父はどちらの方角へ行ったのか認識する前に言葉通り姿を消した。