第5話
彼女は段々と目の前にいる自分の父という人物に腹が立ち始めた。
王城にいる頃はそんな感情を抱くことなく、着るものや身なりが粗末で王城に関わる人から冷遇されるのは全て自分のせいだと思い込んでいた。
けれどどうだ。
ここに来てからというものの身分、環境など一切合切含まず人対人で接しているのだ。
「それからここでの冬は厳しいものになる。心しておけ。寒冷地方に住むものはみんなが協力していかないと生存出来ない。だから言いたいことは包み隠さず、蟠りを極力無くしてはっきりと述べる。お前もそうだ。ここでは誰にでも言う権利がある」
身分関係なく、誰でも言える。その言葉はこの国の固定観念を覆すものだ。
身分序列が何よりで力がなにより、劣っているものは誰でも見下していい世界しか彼女は知らない。大きく目が開き、父を見た。
「私は貴方に意見しても口答えしてもいいんでしょうか」
「していい。さっきだって無理と口答えしただろ」
はたっと思い返すと気がつかないうちに彼女は順応していたのだ。
森は陰獣がいなくなっても暗いままであったが、彼女はもう先程までの恐怖が消え去ったのを感じた。もし現れても何度でも追い払えばいい。一度出来たのだ、もう何度でも自分には出来るはずだ。
「あと貴方じゃなくて、俺はお前の父親だ。娘ならお父様って呼べ」
もう自分は感情を隠さなくて良いだと認識するとこの発言に対して一気に不満が溢れてきた。
「様って付けるほどのことしてないですよね。お父様って呼ばれたいならもっと娘を丁重に扱って、それなりに真摯な行動をみせてください!」
「っな!生意気すぎだろ!こちらはお前のことをかなりの額で引き取ってやったんだぞ」
「…その発言はまずいです。モラハラ発言です!」
ビシっと指を突き出して、指摘した。
「指差すな。ってか、どこでそんな言葉覚えてきやがったんだ」
「その言葉遣いも駄目です。まずはご自分の行動と発言を改めた方がよろしいですよ。貴方は大人で、私は子供です。善良な大人は子供の見本になるものです」
「子供、子供言うけど、ちっとも子供らしくないな」
「そもそも意見して良いと言ったのは貴方です」
「ああいえばこう言う。女っていうのはどうしてこうも口達者なんだろうな」
父はうんざりした顔をして、青色の決して見えることのない上空へ顔を上げると深く息を吐いた。