第4話
防壁が解けていき、宙に散った。
それは暗いこの森のおかげで夜空にある満天の星のごとく輝いていた。役目を終えると人に触れるか触れないうちに離散していく。
「この森に似合わず美しいな。これだと魔法より芸術に近い気もする」
公爵は関心しつつも彼女の安否を気に留めず淡々と感想を述べる。
ゆっくりと彼女は座り込むと視界を覆い、その場で小さく丸まった。
「……怖かったのか?お前は人生でもっと恐怖や強大なものと対峙しないといけないんだぞ」
これ以上のことを!?
「生きたかったら強くなれ。強ければ、己を護れる。助けが必要なときもあるが、それがいつでも自分の手元にあるとは限らないからな」
的を得た内容だった。王城では誰一人手を差し伸べてはくれなかった。
みなが自分一人を守るのが精一杯で、弱いアウィスなど見向きもどころか蔑みの対象であった。自分より弱い者は鬱憤発散にされるのが常だった。小さく柔らかい身体に未だ残る青黒い痣は無数にあった。湯浴みを手伝ってくれた公爵領のメイドが小さな悲鳴を上げて涙ぐむほどだった。
「ちなみに言っておくが、魔法が使えたと言ってもまだスタートラインに着いたばかりだ。魔力があり、使えるのが判明したってところだな」
あれほど必死に魔法を使ったとしてもまだ足りないというのだ。
「貴族としての基本となる礼儀作法をはじめ、語学、算学、馬術、剣術、武術、サバイバル術その他諸々詰め込めるだけ詰め込んでいく」
「私は貴族の令嬢なので、サバイバル術なんて必要ないと思いますが」
「必要だ。この森で遭難する可能性があるからだ」
「じゃあ森に入らなければいいじゃないですか!」
「お前はこの森に入らないといけない。入らねばならない理由がある。魔法を学ぶときは絶対だ」
当然の口振りで彼女には拒否権はなかった。腐っても貴族の令嬢である彼女にサバイバルなど知るはずもない。