第1話
この国には昔々から伝わる言い伝えがある。文章には残されず、人の口だけで伝わる言い伝え。
まだこの国が雪深く、暗い森に閉ざされていた頃それはそれは美しい銀色の毛皮をもった狼がいた。
強く気高く知能の高い狼は他の生き物たちを圧倒し、冬を司る神獣として君臨した。それがこの国の王の成り立ちであった。
だからこの国の王族の紋章には銀狼が用いられている。
読者のみなさんこの言い伝えをお忘れなく。
さて、時は何百年も経ちこの物語の主人公であるアウィスの誕生について語る。
彼女の生まれは実に複雑なもので彼女の母はこの国の王の側室の一人に過ぎなかった。
この国の身分はないため、他の側室より低く扱われ殆ど使用人と同様だった。彼女の母が輿入れしてすぐ彼女は生まれ、
彼女が4歳にも満たないうちに母は生きる力を失いこの世を去った。
葬式は王族のものとは思えないほどの質素で寂しいものだったと言われている。
残酷ではあっても王城では側室や家臣、メイドに度々不慮の死が起こる場である。力が無いものは争いに巻き込まれ去るしかないのだ。
母を失った彼女には後ろ盾どころか母の身分が足枷になったのと他の継承権を持った王子王女の数多いることで財政削減のため早々に売っぱわれた。子供いない公爵家に大枚を叩かせて彼女を追い払ったのだ。
財源確保もでき、後継者争いでは一人減り、一石二鳥と王族をはじめ家臣はほくほくしたらしい。彼女アウィス・フィル・レイヴンは王家の家系図からその名を消された。
アウィス・フロスティーとして公爵家で生きていくこととなる。