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九話 なりきってみせます

 

 メディレスさんが帰宅し食事を終えると今日の報告が行われた。


「クライスが周囲に漏らすことはないでしょうけど、今のままという訳にはいかないでしょうね」


 話を聞いたメディレスさんは開口一番そう告げた。


 リーフェとクライス君は婚約者といっても本人同士の口約束だそうだ。正式に発表されたものじゃないってことだよね。両家とも乗り気ではあったみたいだけど正式に決まる前にリーフェが魔女の呪いにかかってしまったそうだ。


 そして、だからこそ婚約を急ぐはずだって。


 これにはリーフェの父親のシンバさんが関係してくる。シンバさんは先の戦争で国王陛下の窮地を救ったことで取り立てられて新たな爵位を(たまわ)った。それに伴い下級貴族に似合わぬ広大な土地も与えられた。つまりはリーフェは条件の良いお嫁さん候補になってしまったってこと。


 そのためクライス君の父親は他の貴族に出し抜かれる前に動こうとするはず。もしかしたら本人もリーフェを他人に取られたくないから動くかもしれない。


 貴族同志の結婚というと政略結婚が思い浮かぶけど、リンドバル家はそうではなく本人の意思を尊重しているように見える。リーフェの様子をみてもそれは一目瞭然だ。


「あの……それだったらクライス君に秘密を共有してもらったらいいんじゃないでしょうか?」


 秘密をばらしても一、二ヶ月経てば私は元の世界に戻ってリーフェが身体に戻る。魔女様の言う通りならわざわざ隠す必要がないように思える。私としても共犯者がいてくれるほうがいい。


「そうね、それもいいかもしれないわね。ただ私としては気になることがあるのよ」


 そういってメディレスさんはマーガレットの方を向いた。


「クライスの他にもう一人いたのよね?」


 マーガレットが頷く。彼女は最初に説明だけしてその後は黙っていた。


「その方は恐らく公爵家のテムジン様でしょう。乗っていた馬の(くら)の模様からも間違いないと思う。クライスはとても良くしてもらっていると聞いたことがあるしね。問題は公爵家にも呪いを受けている方がまだいるということなの」


 難しい話が続くけど良くない感じになっていることだけは分かる。


「彼には婚約者がいるからそっちは大丈夫よ。ただ私たちの秘密を知ったクライスが普段通りにいられるかしら? ようやく目覚めた愛しいリーフェに会いに行かず、なんてことになったら怪しいわよね? 先程はかなりガツガツと来たようだから。クライスの様子がおかしかったら不思議に思うかもしれない、調べようとするかもしれない。もし秘密がばれてしまったら? テムジン様自身は二人の邪魔になることはしないとは思うけど、公爵家はどう動くかは分からないわ」


 そんなことがあるんだ……。私には想像もつかない世界だ。


「だから、ここは二段構えで行きましょう。アズにはこれまで通りにリーフェの振りをしてもらう。先方から婚約の話がきたら受け入れる。いいわよね、リーフェ?」


 リーフェが恥ずかしそうに頷く。というかさっきからすごい大人しい。まあ当たり前だよね、自分の結婚が決まるんだから。


「はい、それでいいみたいです」


 メディレスさんは頷いて話を続ける。


「ただし、こちらから時間を早めるようなことはしません。なるべくリスクを減らしておきたいの。時間が経てば経つほどリーフェが回復するのですから」


 多分、婚約から結婚までの間には時間があるはずだから、婚約してもリーフェが回復して私が結婚するなんてことはないよね。


「それとね、アズ。いざとなったらクライスに秘密をばらしても構わないわ」

「そうなんですか?」


「ええ、先程アズが言っていたようにね。大事なのは時間を稼ぐことなの。そうすることでクライスの様子がおかしくなっても、リーフェが身体に戻るまでの期間が短くなれば、周囲にばれるリスクを低くできるわ。もちろんできるだけ我慢してほしいけどね」


 メディレスさんって実はすごい人?こんなこと一瞬で考えつくなんて。


「クライスを騙すようなことになって心苦しいけど、彼一人に全てを任せるよりもこれまで通りにアズが協力してくれればきっと上手くいくわ」


 自分よりもずっと年上の人に頼られるなんて思っても見なかった。なんだかすごく嬉しい……


「はい、頑張ります! これまで以上にリーフェさんになりきってみせます!」


「そんなに張り切らなくていいのよ? むしろあなたがここに来たばかりの時と同じように話してくれた方が良いわ」


「それって他人行儀……じゃなくて丁寧な感じで話せばいいのでしょうか?」


 リーフェはそんな全然感じじゃないんだけど……


「リーフェはね、とっても人見知りで恥ずかしがりなの。誰かが来るとすぐ私に隠れていたのよ」


 そうだったんだ。私の印象と全然ちがう。


(お母さま! それはずっと子供の頃の話よ! アズ、伝えて!)


 伝言を伝えてもメディレスさんのにやにやは止まらない。


「そうだったかしら? でもクライスが知っているリーフェはそんな感じだと思うわよ?」


(お母さまったら、知らない!)


 リーフェが顔を赤くして怒っているけどそれも微笑ましい。大変な事になってきたけど、みんなの役に立ちたい、素直にそう思った。

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