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三話 やっぱり帰りたい?


 リーフェとの会話を終えるとベッドや壁にもたれながら進んでいった。3年間も寝ていたのに思ったより動けるじゃん、さっきと全然違う……なんて考えていたけど、さすがに階段は無理だった。腰を下ろして座りながら一段づつゆっくりと下りていき、やがてリーフェが案内する部屋にたどり着いた。


「お待たせしました」


 部屋にはメディレスさんの他にもう一人いた。メイド服を着たお婆さんは背筋をピンと伸ばしていて、優しそうな表情のメディレスさんとは反対にとても厳しそうな印象を受ける。


 そんなことを考えていると、メディレスさんが駆け寄って謝罪してきた。寝たきりだったのに一人で下りてこいといって申し訳ないって。きっと彼女も混乱していたんだろうな。私は体を支えてもらいながら椅子に座ると謝罪を受け入れ、改めてリーフェにしたのと同じように自己紹介をした。


「私はリーフェの母のメディレス、そして彼女はメイドのマーガレットよ」


 紹介に合わせて頭を下げるマーガレットさんはとても美しかった。洗練された動きっていうのだろうか。モデルさんみたい。


「マーガレットはずっと我が家に仕えていてくれてね。とっても頼りになるのよ」


 メディレスさんがうれしそうに話していると、マーガレットさんがひとつ咳をつく。それに促される様に話題を変えた。どことなく申し訳なさそうにしている。絶対言いにくいことだよ、これは……


「それでね……アズ。あなたにお願いがあるのよ。……リーフェの振りをしてほしいの」

「はぃ?」


 思わず顔を左に向けるとリーフェは知らなかったのか首を左右に振っている。マーガレットさんにもリーフェの姿は見えていないようだ。それからこの世界の話を絡めて理由を教わった。


 この世界では魔女戦争と呼ばれる戦いが長い間続いていたという。強大な力を持つ二人の魔女に各国がついて争った。そして三年前に決着が付いた。だけど負けた魔女が最後に放った呪いが世界各地の女性を襲ったというのだ。魂が傷つけられて未だに目を覚まさない者が多いという。リーフェもその一人だった。


 その呪いを解く事が出来るのは戦争に勝利したもう一人の魔女だけ。でもその魔女は一国の軍隊よりも強く、気まぐれ。だからいつ、誰の治療をするのかは分からない。目を覚まさない婦女の中には大貴族も含まれている。そんな中で下級貴族であるリーフェの家が先に魔女に治療してもらったなんてばれたら逆恨みされるかもしれない。それを危惧してのお願いだった。実際にそういうことがあったらしい。


 魔女の呪いは稀に自然に回復することがあるようだけど、リーフェの様子が不自然だったら魔女の治療を受けたと思われるかもしれない。だからしばらくは家の中で過ごして学んでほしいと。リーフェも申し訳なさそうな顔をしている。私としても騒動を起こしたくなかったし、その方が都合がいいんじゃないのかと思った。だから快く了承した。


「話は分かったんですけど、私、元の世界に戻れるんですか?」


 リーフェにした質問を再びした。リーフェの回答は曖昧だったし不安だったから。


「それは……」


 その時、カチャっと部屋のドアが開いた音がしてわずかな隙間から黒猫が入ってきた。それを見て二人は地面に膝をついて頭を下げた。……猫に?


「ようこそおいで下さいました。ライガス様」


 黒猫は椅子に飛び乗るとモクモクと煙を出し、やがて人間の形になった。もしかしたらこの人がさっき言っていた魔女? なんだか怖い……


「その通りじゃよ、お嬢ちゃん。私が怖~い魔女じゃ」


 思わず両手で口をふさいだ。考えていることがばれちゃうなら無意味だけど……。魔女は謝罪しようとするメディレスさんを無視して私の頭を触り始めた。


「ふむふむ、どうやら上手くいったようじゃな。別の世界からの魂と合わさるとは、よっぽど相性が良いということかもしれぬな。傷ついた魂がお互いを補完している。これは面白い結果じゃな」


 私をねっとり見下ろして頷くと、今度は幽霊のリーフェの観察を始めた。リーフェは下を向いて震えているように見える。よっぽど怖いのだろうか。


「さて、何か聞きたいことはあるかい?」


 私以外は顔を下に向けて黙っている。それなら自分で聞くしかない。どうやって聞こうか。そう思った瞬間だった。魔女の手に杖がどこかから現れると私に向かって振り下ろしてきた。


 痛ったぁぁぁ。


 魔女が私をこの世界に連れてきたのかなと考えていたら頭を叩かれた。


「この小娘は! 折角、瀕死のあんたを助けてやったというのに! 私がこの世界に呼ばなけりゃあそのまま死んでいたというのに、それを恨むとはなんてひどい娘だい」


 ごめんなさい、ごめんなさい。怖くて声が出せないから心の中で必死に謝った。リーフェもメディレスさんも、マーガレットさんも頭を下げてくれている。そのおかげか攻撃は最初の一回だけだった。ほっとして顔をあげると私を見つめる魔女の顔が不気味に笑っていた。感情の起伏が激しすぎるよ……


「いいんじゃよ。わたしゃね、珍しいことに出会えてとても気分がいい。いいかい、あんたら二人の魂は傷ついている。そうさね、二、三か月すりゃ魂も癒えて元の世界に戻れるようになるじゃろう。その前にもう一度見に来てやろうか。どうじゃ嬉しかろう? イッヒッヒッ」


「は、はい。ありがとうございます」


 そう言って顔をあげると魔女はいつのまにか消えていて、杖で叩かれた痛みもなくなっていた。魔女が痛みをなくしてくれたんだろうか。


「アズさん、大丈夫?」

(アズ、大丈夫?)


 母娘同時に聞かれて少し驚いた。それにしても親子そろって美人だ……羨ましい。


「ええ、大丈夫です」


 だけどちょっと疲れたな。


「お話はこれでお終いして晩御飯にしましょうか」


 メディレスさんも魔女の来訪で緊張してたんだろうと思う。その提案が嬉しかった。私には暖かい野菜スープだけだったけど長い間寝ていたんだろうし、気持ち的にもそれで充分だった。魔女の襲来に疲れたのか、静かな食事を終えるとマーガレットさんに支えられて二階に戻った。


ベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってきた。リーフェが申し訳なさそうな顔で話しかけてきたけどまともに答える気力もなかった。


(ねえアズ、やっぱり帰りたい?)

(……うん)


(そうだよね、アズにも大切な人がいるもんね。ごめんね)

(うん)


 大切な人か。思い浮かんだのは心配そうな顔をしているお母さんと、幼馴染のたかお君だった。

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