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一話 私、死んじゃったの?

「…………体が重い」


 目が覚めるとすぐに異変に気が付いた。自分の部屋でもないし、病院でもない。体が思うように動かないし、声もかすれてる。ここはどこなんだろう? なんで寝てたんだろう? 何故だか思い出せないし、頭が痛い……。これってもしかして記憶喪失?一応確認してみよう。


 ええと……私の名前は東屋(あずまや) (あずさ)、15歳、一人っ子。高校に入学したばかりで好きな人は……幼馴染の北勝鬨(きたかちどき)たかお君。……うん、私は正常だ。記憶喪失ではないけどなぜだか直近の記憶がないのはもしかしたら頭を強く打ったのかもしれない。


 恥ずかしくなって思わず毛布をかぶる。だけどこれが失敗だった。目の前が暗くなると不安と寂しさが押し寄せてきてしまったから。


「もしかしてここは別の世界? 私、死んじゃったの?」


 自分の言葉に怖くなって現実逃避するように目を瞑った。怖くなるってことは元の世界に未練があるってことだ。当たり前だよ、私なりに頑張ってきたんだから。そりゃ確かにリア充じゃないけど、それなりに充実してたし友達だって……って誰に言い訳してるんだろ、私。


 すこし落ち着きを取り戻して毛布から顔を出す。すると目の前には美少女……の幽霊が微笑んでいた。


 なんで幽霊だと分かったというと体が透けていたし、何より足がない。それに私の身体とくっついているような……


 驚きつつも幽霊を観察していると、彼女が話しかけてきた。といっても私の心に直接響いてくる感じだけど。


(ねえ?リア充って何?)


 その子は不思議そうな顔をしていたけど、首を左右に振ると一つ咳払いをする。気を取り直してって感じだろうか、その仕草がとても可愛らしくて思わず見とれてしまう。


(私はリーフェ。リーフェリア・グラム・リンドバル。宜しくね、もう一人の私)


「は、はあ……」


 私は驚きの連続で頭の回転が追い付かずに、なんとも情けない返事をすることになった。




「東屋 梓です」


 自己紹介を返すとリーフェは目を輝かせて食いついてきた。


(アズ! 私の好きな物語に出てくる名前だわ。ねえ、アズって呼んでいい? 私の事もリーフェって呼んで!)


 勢いに押されて断ることもできずに了承してしまった。初対面でそんなに馴れ馴れしくするつもりはなかったんだけど、年齢も同じ十五歳だったしいいんだけどね。それからリーフェと話して少しだけ現状を理解することができた。


 私はリーフェの身体に入っていて、私とリーフェの魂が同居してるって聞いた。


 それと私とリーフェは心の中で会話できる。でもお互い考えていることが筒抜けという訳ではなくて、会話する意志を持っていれば通じるようだ。正直これは助かった。最悪の事態は免れた。最悪って何なんだろうなと思うけど。


 それにしても、さっきの独り言を聞かれていたのはなんでだろう? ひょっとして私が誰かに聞いてもらいたいと思ってたってこと? なんだか恥ずかしい……


 一番大事なこと。元の世界に戻れるかということについてはたぶん戻れるだろうと。リーフェも詳しい事は分からないらしい。


 そして私は今、自分の姿を確認すべく鏡の前に移動中だ。リーフェは3年くらい寝た切りだったそうで体が相当弱っている。そのためすこし動かすだけで体がボキボキと鳴って痛む。というか、むしろ動かせるのが不思議なんだと思うけど。イモムシのように転がって移動していると、リーフェが笑いをこらえるように口を押えている。いや、私も見てたら笑うと思うからいいんだけどね……


「痛っ」


 笑うリーフェも可愛いなと思っていたらベッドからドスンと勢いよく落ちた。気を付けてはいたんだけど体が付いてこなかった。自分の体じゃないからという訳ではなくて筋肉の足りなさを感じた、体を支えきれないんだ。幸いにも骨折とかはないみたいだけど恥ずかしさから鏡の前に急ぐ。そして暫し言葉を失った。


「……………………きれい」


 鏡に映ったのは幽霊のリーフェよりもちょっとだけ大人びた姿。頬もこけてやせ細り、髪も腰まで伸びていた。それでも私は吸い込まれるような瞳と綺麗な髪に魅了されていた。リーフェもそんな私を見て嬉しそうに呟いた。


(私ね……髪だけは自慢なんだ……)


 髪だけは? 嘘でしょ。なんて思っていたら、何やらドスドスと足音が近づいてきた。音が大きくなって緊張しているとリーフェが教えてくれた。


(きっとメディレスお母さまだわ。さっきの音で気が付いたのね。大丈夫よ、私の言う通りにして)

(は、はい、分かりました。お願いします)


 そして勢いよくドアが開かれるとリーフェの母親と思わしき女性がリーフェの姿をした私を見るや否や飛びついてきた。


「リーフェ! ああ、よく目覚めてくれました」

(お母さま……)


 先程までと違いリーフェも感動しているのか涙ぐんでいるように見える。感動の再会を邪魔するほど私は野暮じゃない。でもさすがに長すぎた。呼びかけてもリーフェは何にも言ってこないので仕方なくメディレスさんに話しかける事にした。


「あ、あのっ、私、リーフェさんじゃあり……ません」

「っ!? ごめんなさいね。三年ぶりにリーフェが起き上がる姿を見たものだから、つい……」


 言っている途中に悲しそうな表情に変わっていくのを見てちょっぴり罪悪感が湧いてくる。それにしてもごめんなさい? 別人だと知っていたの?


「いえ、あの、リーフェさんはこのあたりにいて、私とリーフェさんと頭の中で話せるんですけど」


 私が視線を左に移して腕を上下させると、メディレスさんはすぐに食いついてきてリーフェに話しかけた。でもリーフェの姿は見えていないみたい。見えるのは私だけなのかな?


「リーフェ、聞こえる? 元気? いえ元気じゃないわよね。私ったら何言っているのかしら。ねえ、何か話して……?」


 リーフェが私の耳元でこそこそと話し始めると、私はそれを中継してメディレスさんに伝える。


「お母さま、また一緒に湖に出掛けようって約束、覚えているからねって言ってます。それと……」


 リーフェ……この子はなんてことを言わせようとするんだ。こんなの絶対駄目でしょ。すぐに脳内でリーフェと会議を始めた。


(ねえ、これ言わないと駄目ですか? 絶対まずいですって)

(大丈夫、大丈夫)

(いや無理ですって)


「ええと、その……なんていうか……」

「なんでも言って。今はリーフェの言葉が恋しいのよ」


 メディレスさんが優しく微笑んでいる。逆にそれが怖い。これから話すことを聞いたら、この表情がどんなふうになるんだろう。考えるだけで胃が痛くなってしまう。言いたくない。けれど「お母さま」の視線は私を逃さない。


「あのですね……リーフェさんは今、私と話したいみたいなので、すこし部屋から出て行ってくれと(おっしゃ)っています……」


 次の瞬間、鋭い視線が襲ってきて、私は表情が凍り付くという言葉を完全に理解した。

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