道中~森の中~
「グレイド様、おはようございます! 昨晩は本当に助かりました、心より感謝申し上げます!」
ハグルト村の村長はグレイドに深々と頭を下げ、礼を言った。
「いえいえ、たまたま居合わせただけのことなので」
「グレイド様がいなければ、この村はどうなっていたことか…………」
村長は考えるのも恐ろしいと言わんばかりに肩を震わせた。
昨晩、狼族がハグルト村に襲撃した。
本来であれば、村人たちだけでも対処できるのだが、特殊個体の有が存在し、その個体がかなり強力だったため、苦戦を強いられていた。
その時、たまたま村に宿泊していたグレイドが手を貸したというわけだ。
特殊個体だけあって、かなり強かったが、グレイドは魔法の天才、さほど苦労せず倒すことが出来た。
「……グレイド、お腹空いたよー」
ナギは欠伸をしながらグレイドの裾を引っ張りながら空腹を訴えた。
「そうだなー、俺も腹が減ったよ」
「それなら、この先の料亭が美味しいですよ、是非、ご一緒に如何ですか?」
「いや、折角のお誘いですが、先を急ぎますので」
昨日からご飯を食べていないので、お腹は確かに減っている。
だが、人間と同じような食事を取る気にはならない。
この世界の人間の食事は獣族を食べる。それがどうしても許せないから、国を去り、こうして旅をしているのだ。
それ以外にも大きな目的があるが、兎も角、グレイドは人間と食事するつもりはない。
「……そうですか、それではせめて、旅の途中で、こちらでもお食べ下さい」
「……これは?」
「これは、リンガでございます。この辺りはリンガ農園が多くありまして、かなり、甘く美味しいかと」
リンガは青くて、四角い形の果実のようだ。
「是非頂きます」
グレイドは村長から、持てるだけリンガ貰い、ハグルト村を後にした。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この世界は大きく分けて四つの大陸に分割されている。
アングルランドルト王国があり、人間もその他の種族も多く住んでいる大陸である『ハンブラドルト大陸』。
魔国があり、魔族が統治している『デモンズソウル大陸』。
人間がほとんど住んでおらず、自然が多く存在している『マッカズラル大陸』。
そして、生物がほとんどいないと言われている極寒の大陸『ナンナバルト大陸』。
「この先、この少年はどんな冒険をするのだろうか、楽しみだ」
神様はそっと笑った――。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今、グレイド一行が歩いているのは、アングルランドルト王国から70キロ離れた名もなき森の中。
「この果物、美味しい~」
「そうかそうか」
ナギはリンガを頬張りながら、嬉しそうに笑った。
グレイドはナギの可愛さに癒されていると、肩の周りをぴょんぴょん飛び回っていたレディナが何かに気が付いた。
「前方に人間が複数いますね?」
「こんな森にか?」
ここは何の変哲もないただの森。
野生の獣族や魚族がいても可笑しくないが、人間がいるのはかなり珍しいと言える。
それにグレイドが見える範囲には人影はない。
「妖精は五感に優れていますので」
「そんなもんか」
グレイドは納得して、そのまま進んでいくと、何やらそれぞれの特性にあった装備に身を包んだ者が四人ほど、座っていた。
「どうされましたか?」
グレイドは駆け寄って、話をかけた。
「おぉ、こんなところに人間とは珍しいな。なに、大したことじゃないさ。パーティーの一人が足をくじいてしまってな」
大剣を背負った男が木陰で座っている女の足を指しながらそう言った。
「ちょっと、見せて貰って良いですか?」
「お、おう」
大剣の男が女に良いか? と尋ね、それを了承した。
グレイドは足をまじまじと見つめ、ゆっくり触る。
「いたっ!」
「すまない、少し我慢してくれ」
女は少し触っただけで凄く痛がった。
それに足首が紫色にうっ血しており、ただの捻挫とは思えない。
「これは骨折してますね、見た目より重症です」
「そ、そうなのか?」
「えぇ、でも、大丈夫です、こうやってっと…………」
グレイドは小さく回復と呟くと、紫色だった足首はあっという間に正常な色に戻った。
「どうですか、痛みは取れました?」
「……え、っと」
女は恐る恐る立ち上がる。
そして、一歩踏み出して、その場で何度も体重をかける。
「痛くないです! 全く痛くない!」
痛みが引いたのがよっぽど嬉しかったのか、何度も確かめるように足に体重をかける。
「まだ、無理はしない方が良いですが、取り敢えず、もう、大丈夫です。それでは私どもはこれで」
「ちょ、まってくれ兄ちゃん」
「はい?」
「このまま帰らしたら、男が廃るってもんだ、どうだ? 一緒に食べないか?」
男がリュックから出したのは何かの肉塊。
「…………これは?」
「さっき捕まえた兎族の肉だ。ここら辺の兎族の肉は上手いぞ?」
「結構です!」
グレイドはその場を走って逃げた。
グレイドは思い出していた。
あの時出会った兎族たちのことを。
――胸糞悪い!
「グレイド、大丈夫?」
ナギは後方から心配そうについてくる。
「あぁ、大丈夫だ」
「グレイド、顔が怖いよ」
ナギにそう言われ、顔がこわばっていることに気が付いた。
子供はいつでも素直だ。
だからこそ、ナギの一言が自分では気が付けないことに気付くきっかけになったりもする。
この旅はまだ、始まったばかり。
グレイドは二人の仲間を連れ、次の街を目指す。