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妖精と話した日 後編

「…………人間、話とは何だ?」


 妖精(フェアリー)は年を取っても見た目はさほど変わらない。

 なので、若い妖精のように見えるこの男も、人間で言う八〇歳ぐらいなのだ。


「俺はお腹が空いているんだがな……それで…………」

「食べるなら俺を食べてくれ! 若い者には手を出さないで欲しい! 頼む!」


 妖精はグレイドに土下座する。

 しかし、地面に頭を擦りつけるタイプではない。ポーズは同じだが空中で、その格好をしながら、くるくると回っている。

 これが妖精にとっては最大限の懇願姿勢なのだろう。


「いや、だから、俺は妖精を食べるつもりはない」

「……本当か?」

「あぁ。こんな人間とほぼ変わらない見た目の者を食べるなど、無理だ」

「……人間と変わらない見た目………?」


 妖精は自分の身体を見た後、グレイドを見る。

 しかし、グレイドの言っている意味がイマイチ分からなかった。

 妖精にとって人間と自分の姿が似ていると言われることに、若干、苛立ちを覚える。それは妖精にとって人間は敵であり、自分たちを捕食する化物だ。

 それと、似ているというのは、遠回しにお前は人間のような化物だ、と言われているように思えるのだ。


「……だから、俺は食べれるものを探しているんだ。良ければ、木の実とかある場所を教えてくれないか?」

「……え、そんなことで良いのか?」

「あぁ、頼む」


 グレイドは妖精に頭を下げる。

 その姿に妖精は驚いた。人間がこうも簡単に頭を下げるなど、信じられない。


「……人間、名は何ていう?」

「……俺はグレイドだ。お前は?」

「私はこの近隣の森で妖精たち村長をしている、ママルルと言う。よろしく頼む」


 こうして、どうにか妖精たちとコミュニケーションが取ることが出来た。


★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 妖精についていく道中、グレイドは気になっていることを聞いた。


「なんで、俺たちの後をつけていたんだ?」

「……それはそこの獣族(アニマノイド)の少女を助けようと思って」

「なるほど」


 妖精目線では、人間と幼い獣族が共にいたら、基本、食用としか思われない。それはこの世界で当たり前の認識であり、人間であるグレイドがいくら仲間だと言い張っても、周りはそう思えない。

 グレイドは過去のグレイドと言う人物の記憶を思い出し、この世界の常識に触れた。そして、絶望した。

 日本で平凡に暮らしていた人格では、到底この世界を楽しんで暮らすことは出来ないと思った。

 それと同時に多くの生物と会話が出来るこの世界で有意義な時間を過ごすためには、多くの生物と友好関係を築き上げる必要がある、そう考えた。


「……妖精からしたら、俺の言葉は信じられないと思うが、俺は、色んな種族と仲良くなりたいと思っているんだ」

「……ほう?」

「……驚かないんだな?」

「妖精は元々、人間と深い絆で繋がっていた過去があったからな」

「そうなのか?」


 ママルルは憂いのある笑みを零しながら語り始めた。


「人間がまだ、この世界を統一していなかった時代、妖精は人間の良き相方として、一人の人間に妖精が一匹、傍で見守るというある種の共存関係が出来ていた。しかし、歴史を重ねるうちに、関係性は変わってしまった。まぁ、この世は食う者、食われる者が存在して、当たり前だ。しかし、進化の過程であまりに人間は強くなり過ぎた。今では我々のみならず、多くの生物は人間の支配下にある。だが、全ての人間が悪、と言うわけではないと我々は思うのだ」

「……そう思う理由は?」

「人間は魔法の才があるだけではない。慈悲深く、賢い生物だ。我々の仲間が飼育されておるが、食用として命を奪う時、痛みがないよう、睡眠魔法で眠らして殺すという。だが、他の生物が狩りをするときそんなことしない。罠も仕掛けるし、わざと甚振ってから殺すようなものもいる。人間の中にも、そんな奴はいるだろうが、それでも、このハバルルタス大陸の多くの人間は我々を食べるとき、一度感謝を述べるという。勿論、それで、許してやろうとは思わぬが、どうしても、人間の可能性を感じるのだ」

「…………」


 ママルルのような思想を持つ生物は少ない。

 だからこそ、この男の言葉にグレイドの心は揺れ動いた。

 妖精(食われる側)が、人間(食う側)を許せるというのか。それはグレイドよりもよっぽど寛大で、本当に自分がちっぽけだと思うほど、目の前の見た目が若い妖精の村長、ママルルがどれほどの人物なのか、それを推し量るには十分すぎるほどの答えになった。


「……ママルル、お願いがあるんだが?」

「……なんだ?」

「俺の仲間にならないか?」

「……仲間、か」


 ママルルは考えている。

 妖精は過去の文書から人間と共に暮らす日を夢見るものも多い。それはママルルも例外ではない。それにこんな人間と旅が出来るなんて、それは文字通り夢のような誘いだ。


「すまない、俺は無理だ」

「……そうか」


 しかし、ママルルは断った。


「その代わり、優秀な妖精を一人連れてっていいぞ? 人間は怖いだろうが、お前の思想や人柄に触れれば、きっと、ついて行きたいと申し出る者も多いだろう」


 ママルルは村長として村を守る必要がある。それにもう、無理するには年を重ね過ぎた。それならば、折角の申し出を、若い世代に任せようと、言うのがママルルの考えだ。


「ついたぞ」

「……すげーえ」


 グレイドは過去の記憶でもこんなものは見たことなかった。

 一面に生い茂った青々しい樹木達。それにピンク色のまるい木の実が連なるように生えている。


「この木の実はババルルの実と言ってな、正直、美味しくないが、栄養価もそこそこ高く、一ヶ月周期で、沢山実るから、いくらでも食べなさい」

「いいのー! ナギ、沢山、食べる!」


 ナギはぴょんとジャンプして、低い位置に生えた木の実を食べた。


「うまい!! 甘くて! うまい!!」


 食レポとしては最低だが、お腹の空いているグレイドからしたら、美味しそうにババルルの実を頬張るナギの姿に、涎が止まらない。

 グレイドもママルルに甘えて、一つかじりつく。


「……うま……い……?」


 グレイドはお世辞にもうまいとは言えないその木の実をじろじろと眺める。

 風味はももに近いが食感は渋柿のように固い。まるで、甘みのある石を無理矢理噛んでいるような。

 ただ、癖があまりにない。

 苦味だったり、えぐみだったり、そう言う者は皆無で、単純に薄いだけかもしれないが、食べやすいともいえる。

 そんな細かいことは今のグレイドにどうでもよくて、お腹を満たせる喜びに歓喜した。


「ははは、そんなに勢いよく食べなくてもいいぞ。この木の実ならこの通り一面に生えているからな」


 グレイドはママルルの忠告を聞かず勢いよく食べ進める。

 硬いので嚙まないとどうしようもないが、それでも、無理矢理食堂に流し込む。

 その結果案の定、喉に詰まらせる。


「げほ!! おえ!!」

「言わんこっちゃない! マクラ、レディナ! 水を持ってきてくれ!」

「「はい!」」


 ママルルに指示されて、二人の若い妖精が大きな葉っぱに水を貯めて、グレイドの口に入れる。


「……はぁ、はぁ、ありがとう。マクラ、レディナ」

「……あ、いえ」


 マクラは照れたように、頭を掻く。


「あ、あの!」


 そして、もう一人の妖精、レディナが神妙な面持で提案を持ちかける。


「私を、連れていってくれませんか?」


 と――。


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