浮き沈み
少し希望が見え始めました、その続き……
【9日目】
朝、母がかなり遅くまで寝ていた。部屋を覗くと寝息をたてて寝ているが、時々苦しそうな咳をしている。
昼近くにようやく起きてくると、温めた牛乳を飲んで、薬をいじりはじめた。
本人としては薬を整理しているようで、手元でごちゃごちゃとしている。
「薬多いなぁ」「この薬の表記おかしない?」
とブツブツ言いながら、薬をいじる。
その後、自己判断で選びながらも、熱冷ましと喉の薬は飲んだ。
食べ物は喉が痛いと、飴だけ舐めている。
孫とLINE通話すると、機嫌が良くなり、
「ばばちゃん食べるようになったよ〜」
と言うので、その勢いで冷凍うどん半玉を茹でて出した。
「変な臭いがして、生臭くて食べられない」
と言いつつ、孫の手前食べた。
これは使える手か? と思ったが、しんどそうで、だんだん機嫌も悪くなってきたので、封じ手とする。中々難しい人である。
午後から飴やキャラメルを食べ、温めた牛乳を飲んで寝た。
父と私はしっかり食べているので、母は、
「あんたら元気やな」
と言う。ひとが元気なのが気に入らない様子。
「僕まで元気なかったらあかんやろ」
と返すと、
「そうか」
と少し笑ってかえした。
未だに予断を許さない状況ではあるが、笑顔が見えると少しホッとする。
晩ご飯に、父の好きな寿司を食べて、一緒にビールを飲んだ。
父の寿司の食べ方が独特すぎる。
ネタの下に箸を入れ、シャリを三等分に切り、シャリを引き摺り出しながら食べるのだ。
そしてネタだけになったところに、さらに醤油をたっぷりかけて食べる。
高血圧だからそんなにかけるな……と思うが、もう86歳だし、今更醤油のかけすぎを注意されるより、好きなだけかけて食べたら良いと思いなおす。
醤油ビタビタの寿司は、良いつまみになるようだ。
【10日目】
母親の状態はほんの少しづつ良くなっている。
朝はパンを食べた。
その後は温めた牛乳を飲む。
会話がかなり噛み合うようになった。
体重を測ると、32キロだった。服を脱いだら下手すると20キロ台かもしれない。
かなりの低栄養状態ですが、意志が強いので食べられるものも嫌いだと言って頑なに拒まれる。
人間最後は自己責任、意識がある内は本人の意思に従うしか無いんですね。
それもまた良し。
【11日目】&【12日目】
土日は仕事も休み。パソコンをしまって開けずに過ごす。
両親への対応以外は本を読んで過ごす。
小川洋子
「いつも彼らはどこかに」
高野秀行
「謎の独立国家ソマリランド」
永松茂久
「人は話し方が9割」
中島輝
「自己肯定感の教科書」
小川洋子の短編集は好きだが、「人質たちの朗読会」の方が好みだった。
高野秀行のルポは面白いけど、情報量が多すぎて、すぐに処理不能に陥る。ゆっくり読もう。
逆に「話し方が9割」はすぐに読み終わる。この薄味加減も嫌いでは無い。
「自己肯定感」は何度も読み返そうと思う。
私にピッタリの本だと思った。
悩みのほとんどは対人関係で、対人関係はほとんど自己肯定感があれば好転すると思う。
昔、禁煙本を自己催眠のように刷り込んで、禁煙したように、この本を刷り込んでみよう。
父親はだんだんとリハビリを拒否しだした。
起きると「運動しよか」という私に嫌悪感を抱いているようだ。
少しプッシュし過ぎた。認知症侮りがたし。
楽しい事を織り交ぜながら、適度にやる事を紛れ込ませると上手くいくかもしれない。
でも難しい。『私なりに良くやってるよ。そんな全て上手く行くわけないじゃん』と、自分を褒める。
気持ち悪いかも知れないけど、声に出して褒める。
親も褒める、子も褒める、そしてなにより嫁を褒める。
今の生命線ですからね、別働隊隊長のご機嫌は悪くない、と信じたい。
彼女は別の地獄にいるのだ。子供という名の地獄だ。
ある意味こちらの老人地獄の方が楽だ。
最後は自己責任、死んでもやむなし。本人も納得済み。開き直りができる分、覚悟を決めてしまえば楽である。
と分かったような事を書きつつ、夜間自宅警備を続ける。




