第9話:状況整理しよう
【遭難:二十五日目――朝】
リハビリの合間に。
一つ、僕は状況の整理を行っていたんだ。
一番大事な事として、僕がいるのは地球じゃない可能性が大。
推定ゴブリンとか。
巨大な蟻やアブラムシ。
そういう割と頭がおかしくなるような化け物たちと出会って、何と彼女等に生かされている。
―――そう……非常食として。
家族構成は簡単だよ。
まずは、女王アリのカミラ。
一応は、僕のお嫁さんだね。
種族とか分からないけど、凄い大きなアリさん。
身体はほぼアリだけど。
凄く長い舌があって。
ふっくらとした腹部だけがチャームなポイント。
僕……亭主。
エサ、非常食……以上。
長男…女? アイント。
第一子なアリさんだね。
凄く強くて、獰猛―――なのかな?
普段は大人しくて働き者だけど、何故かマウント大好き。
居候で次男…女? ヴァイト。
血は繋がってないけど。
働き者なアリさんだね。
あまり乗っかっては来ないけど、よく近くに来るんだよね。
……で、アブラムシさん。
一番分からない子なんだ。
身体はスクイーズみたく柔らかくて。
声も可愛いまん丸なんだけど。
お尻から、凄く甘い蜜が出る。
アインが連れてきて。
いつの間にか、大体僕と同じ部屋に居るんだけど、顔の上が定位置なのおかしいよね?
現在、僕たちの家族構成はこんな感じで。
アリの巣にしては、随分と小さな所帯だと思う。
あと、巣の状態だけど。
―――地上階。
教室半分くらいの洞穴。
僕のお昼寝スポットだ。
此処は地上だから、長い年月で固められた土と剥き出しの岩で良い感じに強固な造り。
―――地下一階。
アインとヴァイの寝室?
特に内装は無いけど。
土が剥き出しの部屋が都合三つ程あるんだよね。
そして、現在地である地下二階。
此処が最深部になるんだけど。
何と、土の部屋が三つ程あるんだ!
……………。
……………。
まぁ、洞窟だし。
アリの巣だし?
穴と通り道と剥き出しの土しかないのはしょうがないんだけどね。
穴だらけの家って言ったら語弊あるかな。
「――それで、どうしようかな?」
「キュウ、キュウ」
「君の名前も考えてみたんだけどさ。アントに出来ないじゃん」
「キュウ、キュウ」
「だから、三って意味とアブラムシでフィアブラにしようかなって。フィアとか可愛いくて良いよね?」
というか、今更だけど。
キミって性別どっちよ。
アインとヴァイもそうだけど。
皆、性別分かりずら過ぎてパパもどうにかなっちゃいそうなんだ。
「―――ギチギチ、ギチ」
考えていると、いつも通り。
アインがやって来たから。
これ幸いと、聞いてみようかな。
「ねぇ、アイン。君ってオスなの? メスなの?」
「ギチ! ギチギチギチ!」
「……あ、ゴメン」
「ギチギチギチギチ」
「ゴメン、ゴメンね? 多感な年頃なのに」
何か、凄い怒られた。
え? ……何でなの?
というか、理解してるなら。
そのくらい答えてくれたって良いんじゃないかなぁ。
「ギチ……ギチギチ」
「本当にゴメンね?」
「……………」
「いや、乗るのは良いんだ。でも、無言は怖いんだよ? やっぱり、ソレ脅してるの?」
甘えているとか。
マウントだとか。
色々考えたけど。
種としての習性ではないと思うんだ。
ヴァイは乗ってくることなんて殆どないし、カミラはどちらかというと男を転がしてるし。
でも、当のアインは。
一日一回は乗るんだ。
不思議だよねぇ。
やっぱり、自分の立場が上だって事を非常食に教え込んでるのかな。
「……ま、良いや。今日も頼める?」
今日も、日光浴とリハビリだよ。
アブラムシさん――フィアはお休みだね。
一つの法則性として。
アインとヴァイが一緒に居るとフィアも一緒に地上へ。
アインだけの場合は、僕だけが地上へ。
その間、フィアが何をしているのかは分からないけど、およそボール扱いされてるんじゃなかな。
寝そべっていると分かりやすいけど。
時々、下層からキュウキュウ聞こえるんだよね。
「ギチギチ、ギチ」
「うん……ゆっくり――イダダッ!? 何かいつもより激しイダダダッ!?」
さっきの一件で気を悪くしたか。
何時もより乱暴なアインの行動。
引き摺られつつも、僕は。
遠ざかっていくまん丸へ、動くようになった手を振る。
「じゃあ、行ってくるねー」
「―――キュウ……キュウ……?」
◇
世の中には、色々と方法があるんだろうけど。
僕のリハビリは単純だ。
自分の力で仰向けになって。
また、うつ伏せへと戻って。
寝返りの繰り返しを何度か続け。
それを数セット行った後、首を起こせるように筋肉を鍛えて、最後には腹筋の力で起き上がれるように何度も身体を捩る。
まずは、座れるようになるんだ。
「正しい方法かなんて、何も分からないけど―――ね」
だって、リハビリ経験なんてない。
興味もないし、自分がこうなるとも思わなかったから。
そういう本も読んだ事は無い。
僕は、完全に初心者なんだよ。
参考にしているのは赤ちゃん。
赤ちゃんは、泣く程の苦労の末に、やがて一人で寝がえりを打てるようになって、自分一人の力で立てるようになる。
それと同じように。
僕が、昔やったであろう行動通りに。
……………通りに。
「―――僕、何でここに居るんだろうね」
赤ちゃんとか言うからさ。
色々と、昔のこと思い出しちゃうじゃん。
赤ちゃんの記憶ないけど。
話し相手が居なくて。
やっぱり、一人で静かだと、色々と考えちゃうんだよね。
……もう、一か月近いけど。
未だに、殆ど状況の変化は訪れていない。
というか、捜索願いとか、もう出されてたりするのかなぁ。
小説とか、漫画とか。
異世界転移は基本だ。
でも……僕は。
ごく普通の男子高校生で。
当然に家に帰りたいし、夜なんて数えきれない程泣きそうになったし。
ハーレムとか。
無双劇だとか。
出来る出来ない以前に――怖い。
普通の神経では考えすらしない。
ああいうのは、主人公の頭のネジが外れているか、作者の頭がおかしいから出来るんだよ。
「……………何でだろ」
どうしてこうなったの?
何か悪い事でもしたの?
あんまりだよね。
神様が居るっていうのなら、どうしてこんな仕打ちをするんだろう。
「―――帰れる、かな。それとも、野垂れ死ぬ?」
案外、住めば都って。
自分から帰るのを止める可能性もあるよね。
……………。
……………。
「―――うん……一か月だ。一か月で、立てるように頑張ろう」
それが出来るようになれば。
ようやく、踏み出せるから。
夏休みの宿題は嫌いだった。
中学生までは、嫌な事は後回しだった。
でも、いつからか。
いつの間にか、嫌な事は優先的にやるようにって、思えるようになったから。
嫌な事は、先にやるんだ。
折れそうになったら。
フィアをもちもちして、カミラに慰めて貰おう。
―――甘えさせてくれるかな……?
「立てるようになったら……やっぱり、まずは周辺の立地だよね」




