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ふたりのその後【後編】

番外編の順番を入れ替えました。

話の内容に変更ありません。



「はぁ…………なんだか疲れたわ。これが歳を取ったって言う事かしら?」

「まだ20代半ばで何を仰っているのですか。今年の夏は暑いですからね、夏ばてかもしれません。後はもう大丈夫ですから、奥様は屋敷でお休みください」

「確かに、ここ最近寝てるはずなのに眠いのよね。暑さで眠りが浅くなっているのかしら?じゃあ作業が中途半端で申し訳ないけれど、今日はもう戻ることにするわ」

「そもそもこれは当主夫人の仕事ではありませんから、お気になさらず」

「私は好きでやっているのよ。あ、そうだヘンリー……っ!」

「っ!?奥様!?」



畑でたわわに実ったトマトの収穫をしていたが、何故か眠くて今日はやけに疲れを感じる日だった。

最近食欲も落ちていたし、ヘンリーの言うように夏バテ気味なのかもしれない。


今日はもう屋敷に戻ろうとして、立ち上がったら立ち眩みがした。




「マリー?気が付いたか?」

「ライ様……」

「良かった。無理をしすぎたようだな。畑で倒れたのは覚えているか?」

「はい。いつもと変わらないつもりだったのですが、申し訳ありません」

「あぁ。まぁ……これからはいつも以上に気を付けてくれ」

「分かりました。夏バテもバカにできませんものね」

「そうではなく……マリー。医者は、妊娠しているのではないかと言っていた」

「え?」


妊娠?夏バテではなく?

妊娠……―――


「その、月のものが遅れているなら可能性が考えられると。もしそうなら、もう少ししないと確定できないらしいが、どうだ?」

「……そう、言われてみれば」

「そうなのか?」

「はい。今月はまだ」

「そうか!あ、いや。まだ分からないな。落ち着いて、様子を見よう」

「はい……」


あんなに待ち遠しかったはずなのに、何故か実感がなかった。


それから少しして、マリアベルの妊娠が確定した。

ふたりが結婚してから8年の歳月が流れていた。


「ライ様……っ!私、妊娠、してるって……っ!……!」

「あぁ。あぁ……良かった。良かったなマリー」


少し経ってから妊娠確定を告げられて、漸く妊娠を実感し涙がでた。



「ライ様!差し入れ持ってきましたー!」

「あぁっ!危ない!マリー、待つんだ!そんなでこぼこしている道を歩くんじゃない。俺がそっちに行くから」


マリアベルは重いつわりもなく、ライオネルが心配して後を付いて回るくらいに、元気な妊婦だった。




◇




「父上、母上。今宜しいですか」

「なぁに?レオン」

「シャルが木に登って降りられなくなっています」

「え!?」

「どこだ!?」

「庭にあるぶどうの木です」



結婚してから8年後、待望の第一子を授かった二人。

ライオネルはマリアベルの毒の後遺症を心配したが、元気いっぱいの妊婦生活を楽しんで、驚くほどの安産で無事にレオンという長男を出産した。

レオンが生まれる10カ月ほど前に第三子を出産したフレアが、レオンの乳母となった。


貴族は子供が生まれると乳母に任せることも多いが、フレアはあくまでも補助でマリアベルもライオネルも積極的に子育てをして、ふたりで奮闘した。

漸く一人子供を授かることができた。それも跡取りになる息子が。

だから、多くは望まないとレオンに愛情を沢山注いだ。


8年も妊娠しなかったから子供ができにくいのかと思っていたが、レオンが生まれて2年しないうちにマリアベルはまた子供を授かることができた。



7歳になったレオンは、あまり感情を表に出さずに冷静で淡々としている子供になった。

ダークグレーの髪に深い青の瞳を持ちライオネルをそのまま小さくしたような容貌に加えて感情があまり表に出ないので、子供なのに冷たく見えてしまう程だ。

今も、2歳下のお転婆な妹が木登りをして降りられなくなった事を慌てることもなく両親に伝えに来た。


もうすぐ5歳になる二人の娘シャルロットは、瞳の色はライオネルに似ているが、髪の毛はマリアベルの輝く金髪を引き継いだ美少女だ。

ただ、天使のような容貌と裏腹に庭や畑を走り回ったり木登りをするのが好きな娘で、残念なほどお転婆に育っている。間違いなく、マリアベルの子供の頃に似たのだろう。



「シャル!大丈夫か」

「おとうさまっ!」


レオンと手を繋いで庭にあるブドウの木に向かうと、先に着いていたライオネルに向かってシャルロットが満面の笑みを浮かべて飛んでいる瞬間だった。


「っ!?」


ライオネルも支えようと差し出した腕に向かって娘が飛び込んでくるとは思っておらず、少し焦った。


今でも毎日訓練で鍛えているライオネルにとって5歳児が飛び込んできた位では全く危なげなく抱き留めることはできる。

それでも予想外の動きに焦るものは焦る。


「いきなり飛んだら危ないだろう」

「えへへ」

「シャル!危ない事は止めてちょうだい!お母様は心臓が止まってしまうかと思ったわ!」

「はぁい…………」

「この前、ロバートおじさんにも飛んでたよ」

「あっ!おにいさま!なんでゆうのっ!?」

「本当なの?シャル!ロバートにもって。いつもこんなことしているの?」

「……たまにだけだもん」

「あのね、シャル。大人だからって絶対受け止めてくれるとは限らないし、急にシャルが飛び出したせいで相手の人が怪我をするかもしれないのよ?痛い目に合うのは自分だけじゃないの。シャルが怪我をしたら、相手の人が怒られることもあるの。分かる?」

「……ごめんなさい」

「自分の行動が相手にどう影響するのか考えてちょうだい。もう、ほどほどにしなさいね」

「はぁい……」



シャルロットを叱るマリアベルを見ていて、いつかのロバートの言葉を思い出す。

確かに子供が生まれると妻は母の顔になる。

マリアベルがこんなにしっかりとした母親になるとは、思ってもみなかった。

けれど、ライオネルにとっては、マリアベルのそんな新しい一面も見られることを嬉しく思った。子供を授からなかったらきっとみることのできなかった一面だから。



「シャル。今日のおやつ、シャルの好きなチョコのケーキだったよ」


レオンはしょぼんとしてしまった妹を気遣う事ができる優しい兄だった。


「え!?ほんとう?おにいさま」

「うん。ね、母上」

「えぇ」

「やったぁ!はやくたべたい!」

「まずは手を洗って、お着替えをしてからよ」

「はぁい!」


切り替えの早いシャルロットが屋敷に向かって走り出す。

それを見送っているレオンに向けてマリアベルは笑顔を向けた。


「今日のおやつはシャルが好きなチョコレートケーキだけど、レオンも好きよね?」

「はい」

「それに、ただのチョコレートケーキじゃないのよ?今日はレオンの大好きなオレンジピールも入っているの」

「え。そうなんですか」


今日のおやつは自分の好きな物の組み合わせだと知って、レオンが少しソワソワしだした。

いつも冷静で淡々としているけど、こういうところはやっぱりまだ子供らしく可愛らしい。


「さぁ。レオンも手を洗ってらっしゃい」

「はい」


背中を軽く押すと、屋敷に向かってたたたっと軽やかに走っていく。

その様子をライオネルと寄り添って見送っていると、レオンと入れ違いにフォルスが庭に出てきた。


「陛下から贈り物が届きました」

「またか……。自分の孫と勘違いしているのではないか?」


ライオネルとマリアベルに待望の第一子が生まれてからというもの、兄王が頻繁に二人の子供へ贈り物をしてくるようになった。贈り物だけではなく、王城へ遊びに来るようにとの催促も激し目だ。


「レオンとシャルを孫のように可愛がってくださるのは嬉しい事ですわ」

「だが、多すぎる。王としての威厳もなにもないじゃないか。子供たちにとって陛下は、プレゼントをよくくれるおじさん程度にしか思っていない気がするぞ」

「それは確かに。去年、子供たちを連れて行った時に、自分の孫はいずれ王になるからあまり甘やかせないのだとおっしゃっていました。ですから、行き場のない愛情をレオンとシャルに与えて下さってるのですわ」

「愛情深い人ではあるが。大体、孫ではない。甥と姪だ」

「けれど、昨年レオンと会った時に小さい頃のライ様のようだと、それは嬉しそうに昔話をしてくださいましたよ」

「やめてくれ……」


額を押さえるライオネルを、マリアベルがクスクスと笑っている。


「もう一件。オルティース騎士団長殿から、避暑のためにご夫婦でこちらへ向かっていると連絡がきておりますが」

「アドルフ兄上もか……しかもすでに向かっているのか。全く。ハンナに部屋の準備を頼んでおいてくれ」

「かしこまりました」


ぼやきながらもどこか嬉しそうなライオネルと、それを優しく見守るマリアベルがいた。





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