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今日は久しぶりにぎゅうぎゅうにコルセットを締めて、貴族令嬢らしいドレスを身に付けている。
最近は髪をおろしていることが多かった ―ことあるごとにライオネル様が頭を撫でるし、去り際には名残惜し気に髪を一束絡めて行くから― が、夜会がある今日は久しぶりにまとめて整えている。
昨日ライオネル様に贈られたサファイアのネックレスとピアス、指輪をする。
今日のドレスにも合っているデザインだ。
支度を終えてロビーに向かうと、ライオネル様がいた。
正装姿を見るのは二度目だけど、相変わらず素敵だった。
クラバットに刺さっているピンの先には琥珀がついてることに気が付いて無性に照れくささを感じた。
更に今朝の一幕を思い出して少し照れてしまう。
朝の光に少し意識が浮上し始めたけどまだもう少し眠っていたいと身じろぎすると、ギシリとベッドの端が撓んだ感じがした。と思ったら、すぐに唇に柔らかいものが触れた気がした。
(んっなに……?)
薄く目を開けると、唇が触れあいそうな至近距離にいるライオネル様と目が合った。
ライオネルはベッドの端に腰かけて身を屈ませ、マリアベルをキスで起こしたのだった。
おはようと言うライオネルの吐息が唇に掛かり、一気に覚醒するものの驚きに固まっていると、再びキスをされる。
ライオネルは頭を撫でてキスをし、マリアベルがまだ固まっている事にふっと笑んだ後、今度は唇を食むようにキスをする。
今までの触れ合うだけのキスとは違うキスにマリアベルがびくりと体を揺らしたのを感じて、漸く攻撃をやめてくれたのだった。
王宮に着いて、何度も歩きなれた道をライオネル様にエスコートされながら歩く。
「マリア?マリアじゃないか!」
振り向くと姿勢の良い柔和な顔立ちの男が喜色満面に立っていた。
「まぁ!ダニーじゃない!」
「会えるとは思わなかった!元気だったかい?」
「えぇ。おかげさまで!あ、紹介するわね。ハリストン辺境伯よ」
「ライオネル・ハリストンだ」
「これは、失礼しましたハリストン卿。ダニエル・フィッシャーです。マリアとは幼馴染なんです。よろしくお願いします!」
ダニーが人好きのする笑顔で手を差し出して握手を求める。
ライオネル様はそれに無表情で応じた。
「フィッシャー侯爵領は隣だったのでダニーとは幼い頃によく遊んだのです。王宮で再会したときにはダニーは近衛騎士で、しかも王太子殿下付きになってて驚いたわ」
「ほぉ、それは優秀なんだな」
「いえいえ、三男なので自分で身を立てなければならないから必死になって頑張っているだけです」
「ダニーったらそんなこといって、王太子殿下の覚えがめでたいじゃないの」
「……マリアベル、そろそろ行くぞ。フィッシャー殿失礼する」
ライオネルにグッと腰を引き寄せられて夜会会場へと足をすすめる。
お互いの気持ちが通じ合ってから、ライオネルは何かと距離が近かった。
(大勢の人の前でぴったり寄り添って歩くなんて、照れ臭いわ・・・)
「マリアベルはマリア、と呼ばれているのだな?」
「はい。幼い頃の愛称で家族などにマリアやマリーと呼ばれていました」
「それは俺が呼んでも?」
「え?はい。もちろん」
「マリア」
「はい」
「マリー」
「……はい」
(愛称で呼ばれるのがこんなに恥ずかしいものだなんて知らなかったわ)
「で?俺の事は呼ばないのか?」
「え?」
「俺だけ呼ぶのはおかしいだろう?」
(前にもこんなやりとりをしたような……)
「マリー?……呼んでくれないのか?」
「ラ、ライ、さま」
「くくっ。ただ名前を短くするだけなのにどうしてそんなに緊張しているのだ」
「だっだって恥ずかしいです」
(マリーと呼ぶときのライオネル様の瞳がまるで愛おしいと語りかけているように細められるのだもの。しかもマリアではなくより甘い響きのあるマリーの方を選ぶなんて、照れない方が無理だわ)
小さい頃、親からはマリアと呼ばれていたが、親でもマリーと呼ぶのは甘やかす時だけだったのだ。だから、マリアではなくマリーと呼ばれると一段と甘さを感じてしまうのは致し方ないだろう。
「うん、可愛いな。もう一度」
「なっ!?」
「もう一度、呼んで」
「…………ライ様」
「ん。これからはそう呼ぶように。あ、そうか。今日はだめなんだな」
満足げに笑っていつも通り頭を撫でようとしたのかライオネルの手がマリアベルの頭を撫でる直前で止まった。いつも通りに撫でてしまうと髪型が崩れてしまうので夜会が終わるまではお預けだ。




