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「ん……?」
日の光を感じて目を覚ます。
いつもより少し寝坊してしまったようだ。
見覚えのない景色に一瞬ここがどこか分からなくなるが、すぐに思い出した。
(そうだわ、王都のタウンハウスに来ているのだった。はっ!ライオネル様は?)
そーっと後ろを振り返ってみるが、誰もいなかった。
ベッドを使った形跡はあるけれど、今はもぬけの殻だった。触ってみても温もりを感じないので早々に起きたのだろう。
(いない。……目が覚めたら後ろから抱きしめられてた、なんて小説の世界の話なのね。少し残念かも)
やや寝ぼけていた思考もはっきりしてくると、気付いたことがある。
ベッドから落ちそうなほど端に寝ていたのに、起きた時にはベッドの真ん中程で寝ていた。
寝ている間に寝返りをうって真ん中の方へ移動してしまったのだろうか?
(きっと今夜も同じベッドで寝ることになるのだから、今度はちゃんと端で寝ないと)
身支度を整えてから食堂に向かうと、もうライオネルの姿があった。
「おはよう。よく眠れた?疲れてないか?」
「おはようございます。はい、おかげさまで。ライオネル様はお帰りは遅かったのでしょうか?ちゃんと休めましたか?」
「あ、あぁ。大丈夫だ」
今日は、ライオネルと王都デートの日だ。
小さめの馬車から降りると2人きりで王都の街中を歩く。
王太子殿下の婚約者候補という立場上、あまり王都を歩いたことがなかったので、何もかもが真新しく感じてしまう。
何よりもライオネル様と一緒ということが嬉しい。
「マリアベルが言っていた店はここのようだ。入ってみよう」
婚約者候補だった時は、侍女たちが街の情報を教えてくれて、いつか行ってみたいと思っていた店がいくつかあった。雑貨屋やお菓子屋さんなど、興味津々で話を聞いていたものだ。
私がそんな話をしていたから、ライオネル様は調べてくれたらしい。
王都は詳しくないと言っていたのに、迷いなくエスコートしてくれた。
最後に連れてきてもらったのは侍女が話題のお店として話していたお菓子屋さんのひとつ。
侍女が話していた時から数年経っているけれど、今も人気のようだった。
可愛らしい飾り付けをされた焼き菓子が並んでいる。
目移りしそうなくらい品ぞろえも豊富だ。
せっかくなのでフレアやタウンハウスの使用人一同へもお土産を買おうと一生懸命選んでいると、気が付けば店内は女性客でひしめき合っていた。
ライオネル様がなんだか所在なさげにしていたのが申し訳なくなってしまう。
「ライオネル様、先に外へ出て待っていてくださいませ」
「しかし」
「後は包んでもらうだけですから」
「わかった。では店先で待っている」
手渡された紙袋を手にお店から出ると、ライオネル様の腕に女性がするりと腕を巻き付ける瞬間を目撃して固まってしまう。
「ライオネル様ではないですかぁ!ご無沙汰ですね」
「は?あ、あぁ、久しぶりだな。っておい、離せ」
「お元気にされてましたぁ?全然いらして下さらないから寂しかったですわぁ」
「離せって」
「やん。つれないこと言わないでくださいまし」
ライオネル様の腕に巻き付いているのは、婀娜めいた大人の女性だった。
自分とは全く違うタイプの綺麗な女性だ。
(だれ?昔の恋人、とか?)
「おい、離せと言っているだろ」と言いながら振り返ったライオネル様と目が合う。
すると、ブンと音が聞こえそうな勢いで、女性を振りほどいた。
「…………」
「マリアベル?」
「…………」
「あら?もしかして、奥様かしらぁ?」
私とライオネル様の顔を見比べて、婀娜めいた女性がにっこりと笑いながら聞いてくる。
「…………違います」
自分でもびっくりするくらいに低い声が出た。
(婚約者だけどまだ妻ではないわ。婚約だって王命で、望まれてしたわけじゃない。さっきまで凄く楽しかったのに、先に店の外で待っててなんて言うんじゃなかった。こんなところ見たくなかった)
思わず俯いてしまう。
その場に居たくなくなって、くるりと方向転換して歩き出す。
「マリアベル!?」
ライオネル様の焦ったような声がしたけど、歩き出した足は止まらない。




