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旅装を解いてサロンでお茶をいただいているとライオネル様もやってきた。
向かいのソファに座ると、アダムへ寝室の件を指示している。
「アダム。寝室をもう一部屋用意してくれ」
「何故でしょうか?」
「何故って、当たり前だろう。まだ結婚前だぞ」
「婚約はされていらっしゃいますよね。こちらの屋敷はあまり部屋数に余裕がございませんので・・・」
今回この屋敷に滞在するのは、ライオネル様、私、フォルス、フレア、御者兼護衛騎士2名の計6名。
昔からあまり王都に来る事がなかったので、ハリストン家は王都にタウンハウスを持っていなかったそうだ。
数代前に王妹が当時の辺境伯に嫁いで来る際、王妹が王都に来やすいようにと王からタウンハウスを与えられた。
当時の王は最初は立派な屋敷を用意しようとしたが、辺境伯は屋敷を賜るのを固辞。
王妹を可愛がっていた王から何度も言われて仕方なく、この小さなタウンハウスならと賜ったという経緯があるらしい。
そのため、この屋敷は滅多に来ない主人一家とその使用人しか泊まらない想定のため、寝室として使える部屋は使用人用を含めてもごく僅かしかないという。
主用の寝室と主の子供またはゲスト用として2部屋と使用人用の空き部屋が2部屋の合計5部屋。
ライオネルとマリアベルが別々に寝るのなら、フォルス、フレア、騎士2名の誰かはふたりでひとつのベッドを使わなければいけないことになる。
フレアだけ女性だから、フレアも一人部屋になるだろう。
そうなると、フォルスと騎士2名の3人で2部屋となる。
フォルスは細身だが、騎士はふたりとも体格が良いので、どの組み合わせにしても一緒に寝るのは無理がある。
「私とフレアがひとつのベッドを使いましょうか?」と提案してみるが、使用人と主が同じベッドを使うのはあり得ない!とフレアに全否定されてしまった。
「だからと言って、男性はみんな既婚とはいえ、フレアを男性と同じベッドで寝かせられないし、フォルスや護衛騎士がふたりでひとつのベッドを使うのは、流石に窮屈すぎますよね?でもライオネル様と同じ寝室というのもあり得ないし……う~ん」
そんなことを言っていると、ライオネル様の機嫌がなんだか悪くなっている事に気が付いた。
アダムが怒られかねないので部屋割の問題を早く解決した方が良さそうだ。
「う~ん。あ!今からでも宿が取れないかしら?」
「各地から貴族が集まる今、王都の宿は空いていないだろうな。そうなると、やっぱりこの屋敷の中で解決するしかない。部屋が空いていないなら今のままの割り振りしかないだろう。それが一番無難だ」
「えっ!?でも、それだと、」
「マリアベルは俺と寝るのはそんなにあり得ない事なのか?」
「……え?」
「アダム。今のままで良い。煩わせた」
「いえ」
「え?え!?」
そうして、何故か部屋割りは変更なしという事になってしまった。
(え!?結婚前なのに良いのかしら?ってそれよりもどうしましょう!?)
マリアベルは就寝時を考えるとソワソワと落ち着かない気分になった。
ライオネルは話は終わったとばかりに、長い足を組んで優雅にお茶を飲んでいる。
自分ばかりあわあわしているのに、ライオネルは大人の余裕を感じる。
(こういう時に年齢差や経験値に差を感じるのよね)
そんなことを気にして少し気が落ちる。
「今日はひとまず休んで、明日に王都の街を見て回ろう」と、これからの予定を話していると、王宮からライオネル宛に使者がやってきた。
王宮に呼ばれたらしく「今夜は遅くなるかもしれないから、待たずに先に休んでいて」と言って出かけて行った。
結局、マリアベルのいつもの就寝時間になってもライオネルは帰ってこなかった。
帰ってこない事に寂しさを感じつつも、どこかホッともしている。
(なんだかあわあわして損した気分だわ。でも、帰ってきたらこのベッドを使うのよね?無駄な抵抗かもしれないけれど……うん。これで少しはマシなはずだわ)
マリアベルはベッドから落ちそうな程端で寝るのであった。




