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今日も午後からは散歩という名の庭の散策へ出かける。
今日はこれまで行っていなかった庭の奥の方へ行ってみようと決めていた。
逆側は畑へと続いていてすっかり歩き慣れたけど、反対側にはほとんど行ったことがなかったのだ。
予定通り庭の奥の方まで来ると、金属がぶつかり合う音や勇ましい声が聞こえてきた。
こちら側は騎士団の訓練場が近いようだ。
興味をひかれて音のする方に近づいていく。
訓練場は木製の塀で囲われていたけれど、ところどころ出入口なのか切れ間があった。
そこから中の様子を窺うと、中では沢山の騎士服姿の男たちが剣をぶつけ合っていた。
剣を交えて訓練している者、体術を使って訓練している者など様々なようだ。
その中には辺境伯様の姿もあった。
何か指示をだしている様子や剣を振る姿は精悍さが際立っている。
(お仕事をしてる辺境伯様も素敵だわ)
「あ!凄い久しぶりに女の子が入り込んでる!」
「おい、お前。どこから入ってきた?」
辺境伯様が訓練しているのを見るのについ夢中になっていた。
そのため、すぐ後ろに人がいるのに気が付かなかった。
声にびっくりして振り返ると、騎士服をきた20代半ばくらいの2人の男性が立っていた。
騎士団で面識があるのはライオネルとロバート、フォルスだけのマリアベルにとって、全く知らない人達だった。
「って、え!?可愛い!なになに?誰か目当てのやつがいるの?」
「へぇ?誰の追っかけか知らないけど、俺たちが遊んでやろうか?」
「え?」
「騎士目当てに来たんでしょ?誰が目当てか知らないけれど、騎士目当てなら俺達でも良いよな?」
(……私が辺境伯様の婚約者だと気付いていない?)
「……何を仰っているのか分かりかねますが、散策の許可は得ています」
「まぁまぁ。誤魔化さなくてもいいよ」
「こんなところまで入り込むくらいだからな。ちゃんと相手してやるよ」
何かを誤解しているらしく話が見えないけれど、不穏な空気は感じられる。
(なんだか怖いわ)
近づいてくる2人の騎士に追い詰められて、木の塀に背中がつく。
こんなことになるなら、一人で行動するのではなかったと後悔したが、今頃後悔しても遅い。
最初から一人だったわけではない。
庭に出てみると曇り空で少し肌寒かったので、フレアがストールを取りに行ってくれることになったのだ。
その時にしっかり「ひとりで動き回らずに待っていてくださいね」とフレアに釘を刺されていた。
にも関わらず、敷地内だから問題ないだろうと勝手に動いたのはマリアベルだ。
幼いころから王太子の婚約者候補という立場があったマリアベルは、男性から下卑た目を向けられるのは初めてで戸惑っていた。
(どうしよう。どうしたら誤解がとけるの?あっそうだ、名乗れば)
「あの、私はマリアベル・スワロセルと申します」
「ふぅん、名前も可愛いね。マリアベルちゃん」
「俺たちと遊んでくれたら不法侵入は黙認してやるさ、マリアベル」
(名乗ったのに通じない?)
そして、一人の騎士が下卑た表情のままマリアベルの顔に手を伸ばしてきたので、咄嗟に身を竦める。
(いやっ)
「ちょっ、お前たち何してんの!?」
聞き覚えのある、けれど焦ったような声がマリアベルの耳に届く。
騎士の手が届いてこなかったことと、聞き覚えのある声に安堵して顔をあげると、予想通りそこにはロバートがいた。
マリアベルの顔に手を伸ばそうとした騎士の腕をロバートが掴んで止めていた。
「これは!副隊長!」
「この女が入り込んでいたので、俺たちできっちり対応しようと思いまして!」
2人の騎士がザっと姿勢を正し、弁解する。
「はぁ?いやいやいやいやいや。え?何言ってんの?ライに殺されたいの?」
「隊長に?……どういう事でしょうか?」
「いや、こっちが言いたいわ。この方はライの婚約者だけど?」
「「………………へ?」」
状況を理解したのか、2人の騎士はみるみる青ざめていく。
青を通り越して真っ白になりそうな勢いだった。
マリアベルはロバートの登場でひとまずは危機を脱したと分かり、安堵した。




