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翌朝、台風一過の晴天となった。
突然、朝一に鹿島綾子からの電話があった。
ふてくされて眠っていた宗次の元へ、部屋のノックもせずに母は入って来て、布団をめくりあげた。
はじめて息子あてに女の子からの電話とあって、母は興奮していた。
「宗次、鹿島さんって女の子から電話よ・・・このマセガキ、毛も生えてないくせに、母さん、ちょっとジェラシーよ」
と、母は強烈な冷やかしを宗次に浴びせた。
宗次はさらに不機嫌になりながらも、意外な人物からの電話に緊張して出た。
「なんだよ」
クールに言うはずが、思いっきり声がうわずってしまった。
「なんだとは、何よ!」
帰って来た返事は、おっかなかった。思わず、
「はぁ?」
と聞き返してしまった。
「・・・はあー」
沈黙の後、綾子の長い溜息が聞こえた。
「はぁ・・・なんだよ、それ?」
「いい、田中君よく聞いて、金崎君・・・実君知らない?」
電話口から綾子が声を潜めたのが分かる。
「うん?」
いきなり出てきた実の名に、何故、彼女が自分に電話したかが分からなかった。
「だから、実君知らない!」
綾子はやや強い口調となる。
宗次はここにきて、ようやく綾子の電話の主旨が分かったような気がした。
「はぁ、告るの?」
「・・・・・・」
しばらく沈黙が続いた。
「つぁ!誰が、このスットコドッコイ。彼が昨日からいなくなったのよ!」
綾子から発せられた意外な言葉に、宗次の思考が止まった。
「はぁ?なんでお前が知ってるの」
とりあえず思いついた言葉を言ってみた。
「はあ?はあ?ばっかり言わないの・・・はぁー」
綾子は再び溜息をついた。
「お前だって、はあーって言ってるじゃないか」
宗次は応酬するが、
「お前って何よ!言い方!ええい、よく聞いて!実君ん家と私の家は家族ぐるみのお付き合いなの。あなた達は五年生になってからの付き合いでしょ。そういうこと、わかった!」
「はい」
宗次は納得の返事をする。
「じゃあ、あとの二人にも連絡とって、実君がいないか確認をとって、わかった!」
「はい」
恭順の返事。
「なにか分かったら、折り返しかけるのよ」
「はい」
従順の返事。
「じゃあね」
綾子が電話を切ろうとすると、
「ちょっと待った。俺に心当たりがある」
綾子にそれを告げると、固定電話の受話器を置いた。
「ねぇ、宗次、あなたあの子のいいなり」
聞き耳をたてていた母から質問攻めにあうが、ここは一切無視する。
実捜索の為、宗次は二人と喧嘩別れしたことも忘れ、夏希、猛に急ぎ電話で連絡をとった。




