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真っ暗な浴室に入ると、不気味な雰囲気と風鳴り、おまけに家の軋むような音が、宗次の恐怖心を駆り立てる。
今になって、両親と一緒に風呂へ入ることになって、ちょっと良かったなと思い始めた。
父と母はぴったりと寄り添っている。
それを見ると、やっぱりうんざりだなと思い直した。
父が浴室の中央に懐中電灯を吊るして明りを灯すと、素っ裸になった家族は浴槽に浸かった。
勢いよく水が溢れ出す。
狭い浴槽は三人が入ると、ぎゅうぎゅう詰めとなった。
「前は、こんなに窮屈じゃなかったのに、宗次、お前大きくなったんだなぁ」
父がしみじみ呟いた。
宗次は頭一つ上の父の顔を見た。
母は大きく頷いて、
「そうよ、私達の子ですもの」
「だよな」
父と母は再び見つめ合った。
宗次は度々うんざりしながら、浴槽からあがると、身体を洗い始めた。
「ところで、宗次」
「・・・なんだよ」
宗次は嫌な予感がした。
「お前、毛は生えたか」
父はニヤニヤしながら言い、母は笑いながら、
「まだよねー」
「なんで、知っているんだよ!」
宗次は怒った。
「そりゃあ、お母さんですもの。宗次の事は何でも知っているわよ」
「それって、セクハラだよ」
宗次は涙目となった。
「おい、おい、お母さんに向かって・・・セク・・・」
「もう、いいよ!」
宗次は、手早く身体を洗い流すと、吊るしてある懐中電灯を外し、けたたましい足音をたて浴室を飛び出した。
「おい、宗次、懐中電灯を返せー、なにも見えないだろうが!」
父の叫び声が家中に響く中、宗次は強大な両親にささやかな抵抗をしたことを、少しの慰めにした。
そして、ふと、
(ウチの親もあの雑誌みたいな事をしているんだろうか)
という思いがよぎったが、激しく頭を振って、それを飛ばした。