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夕立かと思えた雨はそのまま回復せず、丸二日間降り続いた。
おまけに台風も沖縄へ上陸し、このままルートでは、宗次達が住む福岡県も直撃は免れそうになかった。
ここ最近では珍しく天気予報が当たったようだ。
家に缶詰状態となった宗次は、自分の部屋の窓から景色を眺めていた。
台風接近の影響で、横殴りとなった降りやまぬ雨。
路地には、ごみやコンビニの袋の軽いものが、我が物顔で宙を踊っていた。
道脇に植えてある木々は風に大きく煽られ揺れている。
「おーい、宗次、手伝えよ」
父の呼ぶ声が宗次の耳に聞こえた。
彼は両手で耳を塞いだが、やがてドンドンドンと激しい足音がして、ガチャリと部屋のドアは開かれた。
「宗次、聞こえているんだろ!ぼーっとしやがって」
父は大声で怒鳴った。
「聞こえてましぇーん」
宗次はプラプラと右手をあげ力なく振った。
「お前は田中家の一員として、家族の危機を救う義務がある。来るべき台風に備えて、ガムテープで窓を補強したり、植木鉢なんかの外の物を部屋に入れてだな・・・」
「大丈夫だって、なんも起きゃしないよ」
宗次はうざったそうに、廃屋で言ったことと、矛盾する逆の事を喋っていた。
「いいから、とにかく手伝え」
父は有無を言わさず、宗次をひょいと抱え上げると部屋から無理矢理引っ張りだす。
宗次はバタバタと足を動かすが、父の実力行使の前には無意味であった。
「母さん、宗次を連れて来たよ」
父は、台所で水道の水をポリタンクに入れている母の元へ宗次を降ろした。
母は息子に振り返る事もなく、
「あら、王子様いらっしゃい。早速だけど、お風呂を掃除して、水をいっぱいはってね。それが終わったら、ベランダの吹き飛ばされそうな物を部屋に入れて、自分の部屋の窓をガムテープで両面補強したら、もしもの時に備えて、お父さんと買い出しに行って来て」
「・・・やる事、多すぎ・・・台風なんてこないよ」
宗次は不満たらたらに呟いた。
母は一旦、手を止め宗次の方を見ると、
「宗次、お母さんが勘の鋭いの知っているでしょう。ほら以前、お父さんの浮気を未遂で止めたでしょ」
「・・・あれは、えっちなDVD・・・」
「きっと台風は来るわ。ちょっとドキドキね。お父さんは引き続き外の作業をお願いね・・・さぁさ、無駄口叩いてないでさっさと散った、散った。キリキリ働かないと!台風は待ってくれないんだからね」
「・・・・・・」
一人喋り倒した母に、父と宗次は呆れて顔を見合わすと、渋々、自分達の指示された作業へと赴いた。