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3

 宗次が家に着くと、同時に雨は見事に晴れ上がった。

 彼の部屋の窓からは、再び広がった青空に、大きな虹のアーチがかかっていた。


「・・・どうしたものかな」


 宗次は虹を横目で見ながら、ぼそりと呟き机に左腕で頬杖をつくと、右手の人差し指と中指でトントントンと机を叩き音を出す。

 一旦、指を机から離すと、再び下校時に流れる「家路」のリズムを指先で強く叩いた。


 しばらくすると、そのリズムに合わせて高音域の鼻歌が部屋向こうから聞こえだす。

 その声は次第に大きくなって来る。

 母が近づいてきたのだ。ノックもせずに扉を開けると、


「チャラーラー、チャラーラー」


 と軽やかに踊り出した。


「明日、考えよ」


 宗次はすくっと立ち上がると、母の存在を無視して外に出ようとする。

 母は二回転ターンをすると、


「どうした悩める少年よ。母にすべてを打ち明けてごらん」


 と言ったと同時に、ぴたっと宗次の目の前で止まり、片膝をつき右手で差し出してポーズを決める。


「・・・・・・」


 宗次はそんな母を憐れむような表情をつくり、目を閉じるとドアを開けた。


「ちょっと、待ちなさい!マイサン、私の太陽、実はホントに今日は焼き肉なのよー」


 舞台女優のようなハリのある大きな声で、語尾を必要以上に延ばした。

 宗次は母を振り返ると、


「マジ?昨日みたいにウソじゃないよね」


 期待半分、疑い半分の宗次は奇妙な表情を見せる。


「ほんとに、本当よー!」


 母はブロードウェイ女優ばりに両手を大きく広げた。


「俺、うれしいぜーぇぃぃ」


 宗次も負けずに、父が好きなハウンドドッグの大友康平の真似をした。


「じゃあ、ついでに悩みを打ち明けてごらん!」


 と、今度はディズニー風のミュージカルみたいに節をつけて歌うように言った。


「それはいい」


 宗次はとたんに冷め、部屋を出て行った。

 パタンと扉が閉まると、


「・・・・・・」


 部屋が静まり返る。

 一人佇む母の、


「つれないのねー」


 コブシを利かせた演歌調の歌声が、台所の冷蔵庫を開けて牛乳を飲む宗次の耳に聞こえた。


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