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「よう」
一番乗りの猛が声をかける。
自宅からこの場所に最も近いのは猛だったが、宗次は自分が最初に到着すると思って
いただけに少しだけ残念だった。
それに喧嘩別れした猛と三日ぶりに会うのも複雑な心境だ。
宗次は、今だに息を切らせながら、
「中は?」
と、尋ねる。
「まだ・・・見ていない」
猛のぎこちない返事に、
「・・・そうか」
と、二人は無言で廃屋を見つめていた。
ほどなくして、夏希と綾子が到着する。
「実君、見つかった?」
綾子は開口一番に尋ねる。
「いや、まだ見てない」
「なにやってんのよ、これだから男は、もう!」
と二人を叱ると、彼女はツカツカと廃屋へ向かって行った。
宗次、夏希、猛はお互いの顔を見合わせる。
「おい、おい」
三人は慌てて、綾子に続いて廃屋へ入った。
玄関に入ると、綾子は腕組みをして待っていた。
「田中君、先に行きなさいよ」
綾子は宗次に命令する。
「怖いのか?」
宗次は冷やかす。
「っあ、誰が、かよわい私になにかあったらいけないでしょ」
「怖いんだ」
宗次は確信する。
「怖くない!早く行きなさい」
綾子は宗次をギロリと睨んだ。
「はぁー・・・はい、はい」
宗次は両親との暮らしで学んだ折れることを実践し、溜息をついたあと、先頭に立ち、歩き始める。
綾子、夏希、猛が続く。
薄暗い廃屋の部屋は、基地づくりに夢中で全く気にならなかったが、こうなってしまってはかなり不気味に感じる。
宗次の額にじんわり汗が滲む。
ここの廊下を曲がると、三日前に喧嘩をした部屋だ。
宗次は深呼吸をして息を整えると、一歩踏み込み、部屋を見た。
「いたっ、いたぞっ!」
部屋の真ん中で、うつぶせに倒れている実がいた。
「生きているか?」
最後尾の猛が恐る恐る聞く。
「縁起でもないこと言わないでよ!」
綾子が叫ぶ。
その時、
「う、うーん」
と、実が寝返りをうった。
「生きてるぞ!」
夏希が喜び叫んだ。
宗次も満面の笑みを浮かべて、
「ああ!起きろ、起きろよ、実!」
と、激しく実の身体を揺さぶった。
「うーん、はっ!」
実が目を覚ましたと同時に、手に握りしめていた雑誌が落ちた。
「なに、これ?」
綾子は、それを拾うとパラパラとページをめくる。
次第に顔に赤みが増してくる。
「あわわわわ」
と、実は慌てて雑誌を取り上げた。
「なによ、これ、こんなの見てたの不潔だわ!!!」
それは、あの喧嘩の原因となったエロ本だった。
「実、お前なぁ」
宗次はそう言うと、急に笑いが込み上げてきた。
彼が腹を抱えて笑い出すと、つられて夏希と猛も笑いだした。
ムッスリと顔をしかめる綾子と、恥ずかしそうに縮こまる実がいた。
完 2001.09.09.→2020.08.06
続きます。
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