⑦嘘と秘密
⑦嘘と秘密
ひかりは、チケットに書いてある市民体育館の入り口に立っていた。
昨晩、迷った挙句予定が無かったので行くことに決めたのだ。
会場に着くと、他大学の学生が同じ色のジャージやTシャツを着ていた。
ひかりは運動部に所属したことが無かったが、イメージしていた体育会系の雰囲気に圧倒されていた。
あたりを見まわしていると、観客席用の入り口を見つけた。
ひかりはチケットを見せ、観客席に入った。
そこの市民体育館はコートが二面あり、観客席の二階は自由席になっていた。
決勝ではないためか、観客席は空いていた。
ひかりはそのまま適当な場所に腰を下ろした。
しばらくすると、入場口から両チームが試合着姿で入場してきた。
その中には長身の空もいた。空以外のチームメイトも長身の選手が多かった。
試合がホイッスルと同時に始まった。空はスタメンとして出場した。
さっそく相手からジャンプボールで先手を奪うと、仲間にパスを繋げ、先制点を奪った。
ひかりはバスケットボールのルールは体育の授業で習ったことしか知らなかった。
しかし、空の楽しそうにプレイする姿に心を惹かれた。
(本当にバスケが好きなんだなぁ…。)
仲間がミスをしても声を出したり、ベンチから応援をかけられたりしているところを見ると、チーム内でも空は中心人物としてチームメイトから慕われているということが分かった。
一試合目は見事勝利を収めた。
次の試合は隣のコートで行うようで、空のチームは荷物をまとめて移動していった。
それに合わせてひかりも見やすい場所に移動した。
二試合目が始まった。空は再びスタメンとして、コートに入った。
今度の相手は少し強く、先制点を奪われてしまった。
そしてそのまま相手チームのペースに飲まれ、連続失点を許してしまった。
チームの士気が下がり、徐々に応援の声も聞こえなくなってきた。
それを悟った空は、積極的にチームを活気づけるように言った。
「まずは一点取るぞぉ!」
そして、パスカットすると、そのままゴールへ走り、一点返した。
ひかりは夢中になって試合を見ていると、コートの空と目が合った気がした。
空は軽く手を上げ一瞬こちらへ笑顔を送った。
ひかりはまさかと思い、周りを見たが誰も反応していなかった。
空は近寄ってきた仲間に肩を寄せられ、髪の毛をぐしゃぐしゃにされていた。
ひかりは空に気が付いてもらい、胸の中が熱くなった。
そのまま流れが空のチームに動き、ギリギリ勝利を収めた。
ひかりも、ずっと手を組み、ドキドキしていたので試合終了のホイッスルが鳴った瞬間は一人でガッツポーズをしていた。
空はチームメイトとハイタッチをしながら嬉しそうにしていた。
ひかりは空を目で追っていたのですぐに視線が合うと、親指を立て嬉しさを伝え、勝利を称えた。
すると空も親指を小さく立て、それひかりに応えた。
その様子に周りのチームメイトが誰と会話しているのかと不思議そうに空に聞いていた。
ひかりはその様子に気が付くと、恥ずかしさが込み上げてきて、すぐに空から目を離した。
なんとなく、二人だけの秘密にしておきたい気持ちがあったからだ。
その際も空は笑顔で誤魔化してチームメイトに頭をポンポン叩かれていた。
三試合目も空のチームの勢いは止まることなくそのまま勝利を収め、大会の優勝を飾った。
ひかりは、三試合目が終わるとバイトのためすぐに会場を出た。
最寄り駅に着くと、携帯に空からの連絡が入っていることに気が付いた。
『今日は見に来てくれてありがとう。ひーちゃんが応援してくれておかげで優勝できました。』
短文とバスケットをするクマのスタンプが送られてきた。
ひかりは、その可愛いスタンプに頬を緩めた。
『こちらこそ誘ってくれてありがとう。とても楽しかったよ。優勝、おめでとう!』
ひかりはすぐに短文とクラッカーを持ったテンション高めの犬のスタンプを返信した。
ひかりは携帯をバッグにしまい、一度大きく伸びをしてバイト先に向かった。
月曜日、ひかりが教室に入ると、ミカと翔子が既に座っていた。
ひかりが挨拶をすると二人は、いつもの調子で挨拶を返し来た。
「おはよう。」
「おはー。ひーちゃん。眠みの極み。」
ミカは眠そうによく分からないあいさつをした。
「ミカは相変わらず、疲れているね……。バイト?」
「正解。土日連勤だったのよ。シフト変わって欲しいって言われちゃってさ。」
「そっか。無理だけはしないでね。」
「そういえば、空は試合って言ってたけどどうだったんだろうね。」
「あぁ、優勝したよ。」
「マジか。それはすごいな。ってかなんでひーちゃんが知ってるんだ?」
ひかりは、会話の流れで答えてしまい、ドキッとした。
ミカはいきなり黙り込んだひかりの顔を見た。
ひかりは誤魔化す言葉が見つからず、チケットを空に貰ったことと試合を見に行ってきたことをミカに話した。
すると、隣にいた翔子も興味深そうに会話に入ってきた。
「そっか。ひーちゃんがスポーツの試合見に行くなんて珍しいね。」
スポーツマンの翔子は嬉しそうに感心していた。そると、すかさず、ミカが言った。
「いや、違うでしょ。空を見に行ってきたんでしょ。」
「そ、そういうつもりじゃ………。」
ひかりは言葉に詰まった。ミカはひかりの様子にお構いなしに言葉を続けた。
「どうだった?空のバスケしている姿、かっこよかったでしょ?」
「えっと……。まぁ、そうだね。頑張ってたよ。」
ひかりは冷静を保っているふりをしながら、言葉を発した。
しかし、もちろん翔子とミカにはいつもと様子が違うことに気が付いていた。
そして、ミカはニヤニヤしながらひかりの背中を叩きウインクをしながら言った。
「そんなに関係が進展しているなんて知らなかったわ。あたしも少しひーちゃんを見直したよ。これからも頑張ってね、応援してる。」
ひかりはミカにどう言えばいいのか分からず、ただただ苦笑いするしかできなかった。
空は授業が終わると課題を印刷するために図書館にきた。
すると、パソコンで課題をするひかりの姿を見つけた。
「お疲れ様、ひーちゃん。隣の席、いい?」
ひかりはイヤホンで曲を聴いていたので、後ろから突然声をかけられ、驚いた。
「どうぞどうぞ。」
空はひかりの隣に腰をかけ、パソコンを立ち上げた。
「昨日は、試合に来てくれてありがとう。まさか来てくれるとは思ってなかったから、すごく嬉しかったよ。」
「あっ、えっと、こちらこそ、誘ってくれてありがとうね。」
ひかりは先ほどミカに言われたことを意識してしまい、ぎこちない返答になってしまった。
空はいつもと少し様子がおかしいひかりに気が付いた。
「どうしたの?なんか、いつもと違くない?」
「そ、そうかな?別に普通だと思うけど。なんか、ごめん。」
ひかりはパソコンを見ながら言った。
(あぁ、ミカが余計なこと言うからなんか普通に話せない。)
空はパソコンが立ち上げ、すぐにUSBメモリを差し込み、印刷し物を取りにプリンターの方へ立ち上がった。印刷物を持って帰ってくる直前、不意に目が合ってしまった。
「何、どうしたの?」
「いや、別に。」
空はもやもやしながらパソコンをログオフすると、荷物をまとめた。
「じゃあ、俺は部活だから。邪魔してごめんね。」
「ううん、全然。お疲れ様。」
空はそのまま図書館を出ていった。ひかりは胸を撫でおろし、再びパソコンに集中した。
空は少し、イライラしながら部室に向かった。
その途中、前方からミカが歩いてきた。先に気が付いた空はミカに声をかけた。
「よう、ミカじゃん。お疲れ様。」
「おつ、空。これから部活?」
ミカは空と目が合うとすぐに表情を柔らかくし、嬉しそうに空の顔を見た。
しかし、ミカはすぐにいつもより怪訝そうな顔をしている空に気が付いた。
そして、警戒しながら慎重に言葉を発した。
「……どうしたの?なんかあった?」
空はじっとミカの顔を見ながら言った。
ミカは、少し怯えながら空の顔を見つめ返した。空はゆっくりと言った。
「ミカ、もしかして何かひーちゃんに吹き込んだ?」
不審そうな顔をした空の顔から視線を外すことなく、ミカは軽くはにかみながら言った。
「いや、別に……何も言ってないよ。」
空はミカが何か隠しているとすぐに分かった。
「でも、何か言ったよね?今日、なんか様子おかしかったんだよね。なんで、余計なことするの?」
空は少しイラつきながら言った。
するとミカは空から視線を逸らしながら小さな声で言った。
「あたしはただ……」
「ただ……何?」
お互いに気まずい空気が流れた。空はその際、じっとミカの顔を覗き込んだ。
ミカは言葉が見つからず、前髪に触れながら目を伏せた。そして、軽くため息をつきながら言った。
「言ってくれなきゃ、分からないよ。ミカは高校生の頃もそうだ。そうやって何か大事なことを隠す。」
空は声を少し荒らげた。
ミカは過去である高校生の頃の話を持ち出され、下を向いたまま目を見開き言った。
「別に今は高校の頃の話は関係ないじゃん。」
その時、二人の間を風が吹き荒れた。
空は黙ったまま、ミカをじっと見つめた。すると、段々とミカの目には涙が溜まってきた。
「なんで……なんでよ。なんで分からないの?」
ミカは、なぜこうなってしまったのか心の奥底では知っていた。
自分の心の中で隠していたことも、空が怒る理由も全部知っていた。
しかし、どうしようもなく八つ当たりしてしまった自分が情けなくてこの場から一刻も早く立ち去りたくて踵を返した。
「ミカは………ミカはあの時と同じでまた俺から逃げるの?」
空は寂しそうに呟きながらミカの腕を掴んだ。
(あの時と同じ………。)
ミカはそっと高校生の頃のことを思い出した。
ミカが空に会ったのは高校生の頃である。
ミカは空を含め、数人の男女グループに所属していた。
ミカと空は二年生からずっと同じクラスだったのでグループの中でも特に仲が良かった。
「あ、空じゃん。お疲れ様!」
ミカはバス停に並んでいる空に声をかけた。空は片耳だけイヤホンを外して軽く手を上げた。
「おはよう、ミカ。」
空は制服を着崩しているミカの姿をじっと見ながら言った。
「またよくそんなにスカート短くできるよなぁ。寒くないの?」
「オシャレには多少の我慢が必要だからいいの。」
ミカは少し寒そうにしながら答えた。
女子高生のプライドというもので冬でも校則違反の短さのスカートを多少無理して履いていた。
「でも、ミカは我慢のしすぎだと思うよ。この前の修学旅行の行程決めるのも他の二人に遠慮してたでしょ?本当は、ミカも行きたい場所あったんじゃないの?」
空に過去のことを指摘され、ミカは不機嫌な顔をしながら答えた。
「遠慮なんて別に……。あれはいいの!あたしはあの二人が行きたいところに行きたかったんだから。」
あの二人とはミカと仲の良い女友達の二人である。
「そうやって、ミカは肝心なところで引くんだから……もっと、思ってること言った方がいいよ。絶対、後悔する時がくるぞ?」
空はよくミカのことを知っているため、こうして時々心配してくれるのだった。
ミカはその空の優しいところが好きだった。
「気遣ってくれてありがとう。でも大丈夫だから、心配しないで。」
二人は二年間の付き合いでお互いがお互いのことをよく知っていた。
だからこそ、ミカは変に心配をかけたくないという気持ちがあった。
高校に着くと、いつメンである二人がミカに駆け寄ってきた。
「遅いぞ、ミカ。お、空くんおはよう。」
ミカの後ろから入ってきた空は、笑顔で挨拶した。
朝のホームルームまでの時間は、昨日のテレビ番組やたわいもない会話でガールズトークを楽しむ時間だった。
「はぁ、彼氏欲しい。」
ミカは女友達に独り言のように呟いた。すると、友達はミカの肩を叩きながら言った。
「ミカは、仲の良い空くんがいるじゃないのよ。高身長で顔も頭も良いし、かっこいいなんて最高じゃん。いっそのこと、付き合っちゃえばいいじゃない!」
ミカは先程、一緒に教室に入ってきた空を見た。
空は教室の後ろで男友達とのおしゃべりに夢中になっていた。
「空とは友達ってだけで充分だよ。空は女の子と付き合う気無いって言ってたしね。」
「えっ、そうなの?なんで、空くん付き合う気無いんだろう……もしかして好きな女子がいるとか?」
「いや、違う違う。部活で忙しいからだってさ。この前も部活の女子マネの子が告白したいみたいだけど振られたって噂だよ。」
ミカは家から持ってきた紙パックのジュースを開けながら言った。
「えっ、うっそー。そうなの?今月で何人目だろうね。」
「さぁーね。」
「私は結構、空くんアリだと思ってるんだよね。」
友達はニコニコしながらミカに言った。
ミカは意表を突かれてジュースを吹き出しそうになった。
「え、何それ。初耳なんだけど。」
「ガチで!前々からいいなぁって思っててさ。ミカが興味無いなら私が告白してみようかなぁ。」
「へぇ〜。まぁ、いいんじゃないの。」
ミカは軽く適当な返事をした。しかし、ふとミカはもう一人のいつメンのことを思い出した。
「あっ、でもあいつも空のこと好きだって言ってたなぁ。」
「えっ、うわぁマジかぁ………。」
この時はまだこれから起こることなんて予想もしていなかった。
あれから数日が経った。
その日の放課後、ミカはいつも通り、駅に向かって歩いていると後ろから空に声をかけられた。
「よう、ミカじゃん。」
「お疲れ様。あれ?今日は部活無いの?」
「そう、オフなんだ。これから勉強して帰ろうと思ってるんだけど一緒にどう?」
ミカは空の誘いを受け、駅の近くのファーストフード屋に入った。
二人はトレーを持って、階段を上り二階の端の席に腰かけた。
こうして二人で寄り道するのは久しぶりだった。
向かい合う形で座り、お互いに課題を開いて勉強し始めた。
数分が経ち、空がイヤホンを耳から外し、ミカの顔を見て言った。
「あのさっ、勉強してるところ悪いんだけどちょっといい?」
「ん、何?」
ミカはペンを止めて、空を見た。
空はいつものふざけている顔から一変、とても真面目な顔をしていた。
改めて見ると、やはり綺麗な顔立ちをしているとミカは心の中で思った。
教室内の女子が騒ぐのも納得することができた。
空はなかなか口を開かず、口を閉ざしていた。
「何よ。もったいぶってないで早く言ってよ。」
ミカはこの沈黙に耐え切れず、笑みをこぼしながら空に言った。
そして空は、表情を崩すことなくゆっくりと口を開いた。
「俺、最近、告白されたんだよね……」
「へぇー、誰に?」
「……あの二人に。」
ミカは内心、心がチクッとした。
空の言う『あの二人』とはミカと仲が良い二人のことである。
ミカは、二人が空に気を持っていることは知っていたが、告白したことは知らなかった。
そのため、正直、いい気はしなかったが平常心を保っている振りをしながら空に聞き返した。
「そっか。で、空はどっちと付き合うの?」
「どっちも断ったよ。」
空はあっけなく答えた。ミカは内心、ホッと胸を撫でおろしている自分に気が付かないふりをした。
「そうなんだ……。でもなんで、そんなことあたしに言うの?」
「いや、ミカはあの二人と仲良しだしさ……。」
「あたしは二人が告白したこと今、初めて聞いたけど。」
ミカがサラッと事実を言うと、空は驚いた様子で言った。
「マジか。それは、ごめん。」
ミカは複雑な心境だったが無理矢理、笑顔を張り付けながら言った。
「まぁ、空は前に部活が忙しいって言ってたしさ、しょうがないよ。」
それでも、少し気にしている素振りをしていたのでミカはできるだけ明るく言った。
「まぁ、空は部活が恋人みたいな感じでしょ?大丈夫だよ。それにしてもモテる男は大変ですねぇ。あたしもモテ期来ないかなぁ。」
ミカはポテトを口に入れ、店内に視線を向けた。
口ではそういうものの、まるで自分に言い聞かせているようで落ち着かなかった。
それでも、空を元気づけないとと必死に言葉を選んだ結果だった。
しかし、これ以上、言葉を続けると、また別の気持ちが出て来そうでじっと黙るしか無かった。
しばらくすると、空は言った。
「ありがとう。ミカに言って、気分が少し落ち着いたよ。やっぱり、すごいなミカは。」
空は弱々しく、微笑んでいた。
ミカはこのモヤモヤする気持ちの正体に気づきながらも、勉強に戻った。
空に二人のことを聞いてからいつメンの中の空気感も少しずつ変わっていくのがミカには分かった。
空に告白した二人は明らかに気まずくなっていった。
ミカはそれぞれとは、言葉を交わすが三人でいることはもう無かった。
空たち含めた男女グループで遊びに行くことも結局、それからは一度も無くなってしまった。
あっという間に卒業式になった。
最後のホームルームが終わり、他の人は卒業式の余韻に浸っている中、ミカは教室を早くに出た。
ミカが下駄箱に向かうと後ろから空から声をかけられた。
ミカが振り向くと、空は悲しそうに何かを伝えようとしている目をしていた。
ミカはそれに気が付かないふりをしてゆっくりと口を開いた。
「卒業おめでとう。どうしたの?」
「いや、えっと………。」
空は言葉を整理できていなかったようで、珍しく動揺していた。しばらく沈黙が続いた。
「何も無いなら帰るね。空とは大学も同じだからいつでも話せるしね。」
ミカは冷たく校門の方へ行こうとすると次は少し強く呼びかけられた。
「ミカ、ごめんね。色々と気まずくしちゃって。」
後ろを振り向くと空は頭を下げていた。
色々と気まずくというのはいつメンのことだろう。ミカは笑顔を無理やり貼り付けて言った。
「空のせいじゃないよ。別に私は二人とは個々には遊びに行けるしさ。」
空は少し不安そうな顔をしたが、ミカの笑顔につられて笑った。
「そっか。言いたかったのはそれだけだから。俺、部活にも顔出しに行くから、じゃあな。」
片手を挙げて、振り返った瞬間、ミカは急に気持ちがこみ上げてきて今度はミカが声をかけた。
「待って、空!」
今度は空が振り向いた。
ミカは何かを伝えなきゃいけないと思った。ずっと心の中に隠していたものが溢れそうになった。
しかし、不意に二人の顔か浮かんできて、その気持ちは心の中で留まった。
「えっと………引き続き大学でもよろしくね。それだけ。」
ミカが誤魔化すと、空は少し怒ったように声を荒らげた。
「最後だから言うけどミカ、無理してるよね。ずっと何か隠してない?」
「そんなことないよ。」
ミカの目は泳いでいた。
「いや、絶対、何か隠してる。二人に気を遣っていたの俺は気がついてたからね。言いたいことがあるなら何でも俺、聞くから……。」
空はゆっくりとミカの方へ近づいてきた。
ミカは珍しく、顔を赤くしながら動揺していた。そして、大きな声で言い切った。
「何もないって言ってんじゃん。とりあえず、じゃあね。」
ミカは逃げるように校門まで走った。
空は遠ざかっていくミカの後ろ姿をただただ見つめることしかできなかった。
「ミカは俺のこと………あの時から恨んでるよね?」
空は伏せ目で弱々しく呟いた。そして少しずつ掴んでいる手を緩めていった。
「ミカの仲良かった三人組も、つるんでいた男女グループも俺が壊したようなもんだし……。」
するとミカは力いっぱい言った。
「恨んでなんかないよ!」
ミカの怒鳴り声が二人の間に響いた。すると、空は落ち着いた様子で言った。
「でも、ミカは俺に何か隠してる。何を秘密にしているんだよ。」
ミカはじっと空の顔を見上げた。空の瞳にはミカが映っていた。
ミカは呼吸を整えてゆっくりと呟いた。
「あの時、空はなんであたしに二人に告られたこと言ったのかなって。空はあたしにどうしてほしかったのか分からなくて。」
二人の間には沈黙が流れた。
「あの時の俺は、ミカに助けを求めてたんだと思う。ミカに甘えて、関係ないミカを巻き込んで……。俺にはどうすることもできなくて、グループの関係を気まずくしちゃって、本当にご……。」
空が言葉を言い終わる前にミカは遮った。
「謝らないで。大丈夫、知ってたよ。気持ちは一緒だったんだよ。きっとあたしも空も。」
ミカはそっと空の胸に優しく拳をぶつけた。そして、ゆっくりと顔を上げた。
ミカは心が一瞬チクッとした気がしたが、空に心情を察さられないように精一杯微笑んだ。
「隠していることなんて無いよ。あたしは別に空のこと嫌いじゃないよ。好きだよ、友達としてね。」
ミカは笑顔を空に向け続けた。すると、空は安心したように笑った。
「そっか、よかった。絶対、ミカは俺に怒っていると思っていたから……。俺も女友達としてミカに会えてよかったと思ってるよ。」
「ありがとう。これからも、よろしくね。ひーちゃんも含めて。あたしも余計なこと言わないように気を付けるよ。」
ミカはこの時、自分の心に嘘を付いた。改めてこの嘘はずっと隠し続けようと心に誓った。
ミカは空と別れてから無我夢中に走った。
なぜなら何も考えたくなかったからだ。しかし段々息が上がってきて減速していった。
そしてふと顔を上げると自分が泣いていることに気がついた。涙の理由は、分かっていた。
辛くて悲しくて様々な気持ちが入り混じっていて苦しかった。
しかし、自分ではどうしようもできなかった。
「……今更言えるわけないじゃん、バカ。なんだよ、これ。」
ミカはしばらく顔を埋めながらしゃがみ込んだ。
泣くのはこれで最後にしようと心に決め、思いっきり泣いた。




