⑥嘘と秘密
⑥嘘と秘密
工場に着くと、職員に温かく迎えられ、施設の中を案内された。
ひかりはとりあえず持ってきたメモ用紙を出した。
すると、その様子にいち早く気が付いたミカが口を開いた。
「ひーちゃん、流石よね。本当に偉いと思う。私もスマホのメモにでも記録しておこうかな。」
口ではそんなことを言いながら結局は何もしないのがミカである。
空はひかりを少し見習いながら、筆記用具が無いかバッグの中に手を入れていた。
あっという間に午前中が終わった。あとは自由行動で各自解散となった。
「楽しかったね。思ったよりも職員さんのお話が面白かった。」
ひかりは笑顔で感想を述べた。横を歩いていた空もひかりに同調した。
「そうだね。勉強になったね。ミカは退屈そうに見えたけどどうだった?」
「えっ、バレてた?思ってたよりそんなに………。ってか二人とも真面目すぎだよ。でも、ただでお土産を貰えたのは嬉しかったかも。」
ミカは工場でもらった紙袋を持ちながら嬉しそうに笑った。
その様子にひかりと空は顔を見合わせて笑った。すると、ミカは不満そうに言った。
「ちょっと、なによ。」
「ミカらしいなぁ、と思って。」
空が言うとひかりは大きく頷いた。
ミカは少し拗ねながらしょうがないじゃんと独り言を言った。
解散し、自由になった三人はお昼を食べるため、近くのショッピングセンターに入った。
「何食べるー?あ、和食よくない?」
ミカが二人に提案するとひかりは苦笑しながら遠慮がちに言った。
「いや、和食は……ねぇ?」
「最近、食べたしなぁ?」
「なによ、二人して……じゃあ、イタリアンにしよう。食品サンプルのスパゲティ美味しそうだし。」
ミカは強引に突き進んでいった。そして、一軒のイタリアンレストランに入った。
席に着くとすぐにメニューと水が運ばれてきた。空はメニューを開くとひかりに言った。
「おっ、見てひーちゃん。ここのお店はサイズが選べるみたいだよ。小さいサイズは安くなるみたいだしよかったね。」
空はひかりにメニューの左下のサイズ表を見た。するとひかりも嬉しそうに微笑んだ。
「本当だ。それは嬉しい。二人に食べてもらわなくて済むね。」
そんなふたりの様子を見ていたミカは空に言った。
「ひーちゃんが小食なのをよく知ってたね?ってかなんであんたが知ってるのよ?」
空とひかりは顔を見合わせた。そして空はいじわるな顔で言った。
「それは秘密です。」
「はぁ?なんでよ?私だけハブるなんてずるい。」
ミカは二人の顔を見比べた。ひかりは微笑みながら話題を逸らした。
「そういうミカの大食いは直ったの?そういえば一緒に食べるの久しぶりじゃない?」
「最近は意識して、大食いしないように気を付けてる。確かに最近、みんな忙しくて遊びにも行けてないから久しぶりだね。」
ミカは嬉しそうに笑った。
しばらくすると店員を呼び、三人は料理を注文し、運ばれてきた水を飲んだ。
するとひかりが口を開いた。
「そういえば、来週の水曜までの課題やった?」
するとミカは自信満々に言った。
「やってないよ。あたしはいつも前日の夜か当日の朝にやるからさ。」
ひかりは苦笑してから空を見た。空もひかりと同じような顔をしていた。空は言った。
「俺は少しだけ進めたけど少し難しくて苦戦してる。」
「やっぱりそうだよね?私も何を書けばいいのか分からなくて……。空くんはどうやって進めていく予定?」
「考えても分からない問題はネット使って調べてみようかなって思ってる。あんまり調べるなとは言われているけど、この課題ばかりはね。」
空は頭をかきながら言った。
「そっか。私も少し調べてみようかな。」
二人の様子を見ながらミカは言った。
「本当に二人は優等生だよねぇ。こんな時にも勉強の話をするとは……。」
ミカは片手で水の入ったグラスを持ちながら言った。するとすかさず空が言った。
「ミカが不真面目なだけでしょ。」
「うわー、空、ひどい。」
すぐにひかりはミカに言った。
「でもミカはやらないといけないことはしっかりやるしさ。勉強できないわけではないからいいんじゃない?」
「ひーちゃん、ありがとう。空と違って優しいわ。本当にこういうところだよ、人間性が出るのは!」
ミカは空を軽く睨みながら言った。
「ひーちゃん、こんなやつをかばわなくていいからね。本当に。」
空はミカを馬鹿にしたように言った。そして、ひかりは困ったように笑いながら言った。
「なんか空くんってミカだけにはいつも厳しいよね。」
すると、空は驚いたように言った。
「そうかな…?あんまり意識してなかったけど。」
するとすかさずミカが言った。
「空は高校の時から私のこと馬鹿にしすぎなんだって。」
「いや、別に見下しているつもりはないけど。ってか、ミカだって俺に突っかかってくる時もあるじゃん。」
空もミカに言い返した。ひかりは少し悪いムードになりつつあると感じ、咄嗟に話をまとめ上げた。
「でも、やっぱりうちから見ると仲良いなって思う。羨ましいよ。」
「まぁ、仲は悪くないよね?遊び仲間五人だったしな……。」
ミカは空の言葉を聞くと少し表情を曇らせた。それに気が付いた空は慌てた様子で謝り始めた。
「あっ、いや。えっと、その……。」
「仲良かったもんね。何よ、何で空が謝るのよ。」
ミカは微笑を顔に浮かべながら言った。
そのミカの表情は少し無理をしているとひかりには分かった。
すると、ちょうど料理が運ばれてきた。
ミカは料理を見ると表情を一変させてスマホで写真を撮り始めた。
「うわっ!これは映えるわ。美味しそう!」
「本当だ。美味しそうだね!いただきます。」
三人は美味しく料理を食べた。途中まで料理に夢中だったがミカが思い出したように口を開いた。
「あっ、そういえば最近、空、告白されたんだってね?」
空は吹き出しそうになりながら水を一気に飲み干した。
「なんで、ミカが知ってんだよ。別に告白まではされてないし。」
ひかりも、大層、驚きながら二人の顔を見比べた。
「でも、なんか怪しいんでしょ?告白されるのも時間の問題とか。で、空はどうするのよ。」
「そんな、噂だから俺は決めつけたりはしないし今まで通り接していくつもりだよ。」
「そう……。まぁ、何かあれば相談しなさいよ?」
「えぇ、ミカに相談することは何もないと思うけど。」
「はぁ?また、そうやって。」
「冗談だよ。でもミカに相談するんならひーちゃんに相談するわ。」
空はミカをからかった。ひかりは、突然話を振られて二人の顔を見比べた。
「えっ、うち?ミカよりも頼りにならないと思うよ。」
ひかりが苦笑いしながら顔の前で手をひらひらさせて自信なさそうに言った。
すると空が言った。
「そんなこと無いよ。ミカよりきちんと人の話聞いてくれるし、相談しやすいと思ってるよ。」
ひかりは徐々に心の中が熱くなっていくことが分かった。
ミカはふてくされたように複雑な表情を浮かべて料理を食べた。
「空くんがいいなら、良いアドバイスできるかは分からないけど、いつでも相談に乗るよ。」
ひかりはゆっくりと言葉を発した。
「ありがとう。よろしくね。」
「まぁ、相談しやすい人にそういうことはした方がいいもんね。」
ミカは自分に言い聞かせるように呟いた。三人は会計を済ませて、お店を後にした。
「今日は誘ってくれてありがとうね。とても楽しかったよ。」
ひかりは満足そうにミカにお礼を言った。
「こちらこそ二人とも来てくれてありがとうね。じゃあ、私はあっちだからまた月曜日ね!」
ミカは二人とは逆ホームに向かって走っていった。ひかりと空は途中まで一緒に帰った。
「今日は楽しかったね。」
「そうだね。俺も来てよかったと思うよ。そういえば、ひーちゃんはミカと翔子さんとその三人と何で仲良くなったの?」
空は唐突にひかりに尋ねた。
「入学式後の宿泊研修で仲良くなったのが最初かな。」
「そうなんだ。タイプが異なりそうなのになんか意外だよね。ミカもいい奴なんだけどくせが強いじゃん?」
「そうかもね。何でと言われると上手く答えられないけど、二人とも優しくていい友達だよ。ミカは、さばさばしているし、何だろう。単純というか付き合いやすいんだよね、多分。」
「あぁ、分かるかも。はきはきしてるし、まっすぐだよね。」
「空くんとミカはいつ知り合ったの?」
すると、空はうーんと考え込み、黙り込んでしまった。その様子を見て、ひかりは焦りながら言った。
「話したくないなら無理には聞かないよ。」
すると、空は言葉を選ぶように口を開いた。
「高校の頃のクラスメイトなんだよね。数人の男女グループでつるんでいて仲良かったんだよ。途中までは……。」
「途中まで…?」
「うん。多分、それが原因でミカがあんまり高校の頃の話をしたがらないんだと思う。
しかもそれ俺のせいなんだよね。多分、ミカも俺のこと恨んでいるだろうし大学でも無理して俺と話しているんだろうなって……。」
「そっか……。言いたくないこと聞いちゃったね。ごめん。」
ひかりは申し訳なさそうに謝った。空は気にしないでと言いながらも少し落ち込んでいる様子だった。
「ミカ、なんか俺に関して言ってなかった?」
「いや、特にうちは聞いてないなぁ。でも、別に、ミカは空くんのこと恨んでいないと思うよ。無理して関わっているわけではないと思う。過去のことを詳しく知らないうちが言うのもなんだけど……。」
ひかりは空を慰めた。
「ありがとう。ひーちゃんが言うと説得力あるなぁ。本当にそうだといいな。」
空は、少し嬉しそうに微笑んだ。
ひかりは空とホームで別れた。
そして、ふと携帯を出そうとバッグに手を突っ込むと先日、空に貰ったバスケットボールの大会の入場チケットが出てきた。
ひかりは、そのチケットを裏返しながら詳細を見た。
(断るの忘れてたなぁ…どうしよう。せっかく貰ったけど……。)




