ぼくとサンタさんのクリスマス大作戦
世間がサンタクロースの話をしだしてからでは遅いので、ちょっと早めのクリスマスネタです。
ラストの棒線からはR10となります。サンタさんを信じるよい子には読んじゃダメ!
今日はクリスマスイヴ。
「ねぇ、サンタクロースに会ってみたくない?」
公園のブランコを漕ぎながら、隣のブランコを揺らす友達に話しかけた。
「会ってみたいけどムリだよ。サンタクロースは夜に来るだろう?でも、夜ふかしする悪い子の所には来ないんだぞ。だから、サンタクロースは寝てる子の所にしか来ないんだ。寝てたら会えないじゃないか。」
そうなんだよね。僕は毎年プレゼントをくれるサンタさんに「ありがとう」を言いたいんだけど、「ありがとう」を伝えられなくて悩んでいる。
「作戦を考えたんだ。僕は今夜、寝たフリをする。今年こそサンタクロースに会うつもりさ。」
友達はビックリしたあとに慌てて、
「やめておきなよ。プレゼント、もらえなくなっても知らないぞ。」
と言ってきた。
クリスマスプレゼントのリクエストはサッカーボールだ。
プレゼントがもらえなかったら悲しい。でも、僕はもう決めたんだ。絶対にサンタさんに会うって。
だから、やめておいた方がいいって言う友達と、少しだけケンカになっちゃった。
「本当に知らないからな。勝手にしろ!」
友達は怒って帰っちゃった。
僕の事を心配してくれたのに悪い事したな……。
落ち込んでブランコに座っていると、さっきまで友達がいた方のブランコに、おじいさんが座って話しかけてきた。
「聞いてしまったんじゃが、いいんかのぅ?友達、怒っとったようじゃが……。」
おじいさんは髪の毛も眉毛もヒゲも真っ白で、真っ赤なセーターを着ていた。
サンタさんの事を考えていたからか、おじいさんをサンタクロースみたいだなぁって思った。太ってたしね。
「いいんだ。僕はどうしてもサンタさんに会いたいから……。」
おじいさんは「ホッ、ホッ、ホッ」とサンタさんみたいに優しく笑った。
そして、少しだけ難しい顔をして、こう言ったんだ。
「誰も知らないサンタクロースの秘密を教えてあげようか?」
誰も知らない秘密を、なんでおじいさんは知ってるんだろう?
「どんな秘密?」
今夜の作戦を成功させるために、サンタさんの事を何でも知りたいと思った。
「昔のぅ。君のように寝たフリをしてサンタクロースに会った子供がおったんじゃ。」
驚いた。たくさんの大人にサンタクロースに会った事があるか聞いたけど、一人も会った人はいなかったからね。
お父さんもお母さんも、僕のリクエストを手紙に書いてポストに入れるだけで、サンタさんには会った事が無いって言っていた。
「すごい!僕と同じ作戦をうまくやった子がいたんだ。」
おじいさんは続けて、
「じゃが、その作戦は絶対にダメじゃ。」
と言った。さっきよりも難しい顔で。
「どうしてダメなの?成功した子がいたなら、僕だってやれるよ。」
僕にはできないって言われたみたいで、ちょっと頭にきたけど、おじいさんがまた優しい顔で「ホッ、ホッ、ホッ」とサンタさんみたいに笑うから、すぐに怒ってた気持ちはどこかに行っちゃった。
「サンタクロースをイヴの夜に見てしまった子はのぅ、サンタクロースになるからじゃ。」
僕はまだ子供で、ちょっとしか生きていないけど、それでも人生で一番ビックリした。こんなにビックリする事は、僕の人生で、これからも無いかもしれないと思うくらい。
「ウソだぁ!」
ビックリしすぎて、思わず言っちゃった。
「ウソなもんか。君は不思議に思った事はないかのぅ?サンタクロースはどうやって一晩で世界中の子供達にプレゼントを配っておるんじゃ?」
少しだけ考えたけど、わからない。どうやって配っているんだろう?
「きっと魔法か何かだよ。空飛べるし。」
「ホッ、ホッ、ホッ。そうじゃな。サンタクロースは魔法使いじゃ。じゃが、サンタクロースの使える魔法は子供達を笑顔する魔法だけじゃよ。空を飛べるのはサンタクロースじゃなくて、トナカイとか乗っているソリの方じゃないかのぅ?」
そうかもしれない。サンタさんだけで飛んでる話は聞いた事が無い。
「世界中の子供達に一晩でプレゼントを配れるのは、世界中にたくさんの昔は子供だったサンタクロースがおるからじゃ。」
なるほど、いくら魔法でも一晩で世界中の子供達にプレゼントを配るのはムリな気がする。
でも、大好きなサンタクロースになれるなら、それはとても素敵な事だって思った。
「すごい!大発見だ!僕、サンタさんに会って、サンタクロースになるよ!」
おじいさんは、なんだか慌ている。
「ダメじゃ。よく考えるんじゃ。サンタクロースになると、もう二度とプレゼントをもらえなくなるんじゃぞ。」
確かにプレゼントを、もうもらえなくなるのはイヤだ。
「よいか、サンタクロースに会った子供達がサンタクロースになるのは罰なんじゃよ。夜ふかしする悪い子が、もうプレゼントをもらえなくなって、プレゼントをあげるばかりになるというのぅ……。」
凄くイヤな罰だと思った。
「でも、サンタさんに会いたいよ。」
僕がどうしようか考えていると、おじいさんも考え込んでいた。
「どうしてそんなにサンタクロースに会いたいんじゃ?」
おじいさんが、また難しい顔で聞いてきた。
「僕は去年のクリスマスも、その前のクリスマスもプレゼントをもらったんだけど、全然ありがとうが言えて無いから、ありがとうを伝えたくて……。」
僕がサンタさんに会いたい理由を言うと、おじいさんは今日一番サンタクロースっぽく「ホォウ、ホッ、ホッ」って笑った。
「手紙を書けばいいんじゃないかのぅ?」
僕はまだひらがなしか書けない。そのひらがなも全部覚えて無い。それをおじいさんに言うと、おじいさんは肩掛けバッグをゴソゴソしだした。
「どれ、ワシが代わりに書いてやろう。」
バッグから取り出したのは、見た事も無い豪華に飾られたキレイなレターセットだった。赤と白のサンタカラーのレターセットだ。
凄くいいアイデアだと思ったから、僕が本当にありがとうって思ってるって事を、おじいさんにたくさんの言葉で手紙に書いてもらった。
「ほれ、教えてやるから最後に「ありがとう」だけは自分で書くんじゃ。」
おじいさんに渡されたペンも見た事も無い不思議なペンだった。
おじいさんが書いた字は、ミミズみたいにウネウネしてて下手だなぁと思ったけど、その事は言わないでおいた。僕のありがとうを伝える手伝いをしてくれてるおじいさんが、悲しい気持ちになると思ったから。
「あ、り、が、と、う。ヤッター!おじいさんありがとう。本当にありがとうね。」
嬉しくて、おじいさんに2回ありがとうを言った。
「なに、これ位何でもないさ。ところで、さっきの友達には次に会ったら、きちんと「ごめんなさい」するんじゃぞ。」
「うん!明日、ごめんなさいするよ。僕、おウチに帰るよ。このあとケーキを食べるんだ。手紙ありがとう。メリークリスマス!さようなら。」
もう一回、ありがとうを伝えてブランコから立った。
「ホッ、ホッ、ホッ。気をつけて帰るんじゃぞ。メリークリスマス!さようなら。」
またサンタさんみたいに笑って手を振ってる。僕は優しいおじいさんがすぐに大好きになったんだ。
ケーキも食べてクリスマスのお祝いをしたら、すぐに寝る時間になっちゃった。
おじいさんに書いてもらった手紙を、サンタさんが見つけられるように枕の横に置いてベッドに入った。
その日の夜はベッドに入ってからも、なかなか寝られなかった。おじいさんが言ってた事を、よく考えてみたんだ。
おじいさんはサンタさんの事、とてもよく知っていた。誰も知らないハズの秘密だって知っていた。髪の毛も眉毛もヒゲも真っ白で、赤いセーターを着ていて、太ってて、笑い方もサンタさんみたいだった。
だから、ひょっとしたら、あのおじいさんは本物のサンタさんだったんじゃないかと思ったんだ。きっとそうに違いない。あのおじいさんはサンタさんだ。
そんな風に、おじいさんが本当にサンタさんだったら、僕はもうサンタクロースに会っていて、「ありがとう」って伝えた事になるから、本当にサンタさんだったらいいのになぁ、って思っていたんだけど……。
枕の横にある、おじいさんがくれたレターセットを見る。見た事もない豪華でキレイなサンタカラーのレターセットだ。
おじいさんの字は凄く下手で、少しはひらがなも読めるようになった僕が一つも読めない。外国の文字なのかなぁ。あのおじいさんは外国の人かもしれない。やっぱり絶対、サンタさんだ。
そこで僕はハッと大変な事に気がついて怖くなったんだ。
あのおじいさんが本当に本物のサンタクロースだとしたら、おじいさんが言った事は本当に本当だって事になる。
あの優しいおじいさんは、昔は子供でサンタさんを見ちゃったから、今はサンタクロースになっちゃったんだ。
僕がもし、おじいさんが教えてくれた事を知らずに作戦を実行していたら、僕もおじいさんになっていた。
髪の毛や眉毛が真っ白になって、長い白ヒゲが伸びている自分を想像してみる。サンタクロースになっちゃった僕を。
あのおじいさんは優しくて大好きだけど、おじいさんになっちゃったらサッカーも出来なくなっちゃう。
サンタさんの太った体でサッカーは出来るかなぁ?出来ても多分、プロサッカー選手にはなれない。
お父さんやお母さんも、サンタクロースになっちゃった僕に気がついてくれるかな?きっと僕だってわからないだろうな。
友達も気づいてくれない。もう一緒に遊んでくれない。
僕は一人ぼっちになっちゃう。一人ぼっちで、ずっと他の子たちにプレゼントをあげ続けるんだ。
僕はもうプレゼントをもらえない。
どんどん怖くなって、悲しくて、全然寝られない。ついさっきまでケーキがとても美味しくて、お父さんとお母さんと僕とで、とても楽しかったのに、今は泣き出しそうなほどに怖いんだ。
いつもなら、こんな時はお母さんのベッドで一緒に寝かせてもらうんだけど、今夜はクリスマスイヴ。サンタさんが来るから一緒に寝かせてもらえない。
そう、サンタさんが来るんだよ!
僕が今、怖いのはサンタさんのせいで、イヴの夜にサンタさんを見たら僕はサンタクロースになっちゃうからで、今はイヴの夜なんだ。
でも、お母さんと一緒に寝かせてもらったらクリスマスプレゼントをもらえないかもしれない。
一番いいのはすぐに寝ちゃう事だけど、怖くて全然寝られない。
僕は布団に丸まって一生懸命寝ようと、がんばった。
眠るぞー。眠るぞー。がんばれば、がんばるほど目が覚めてくる。
部屋のドアが開いて誰かが入って来た。きっとサンタさんだ。
サンタさんは大好きだけど、サンタクロースにはなりたくない。
だから一生懸命寝たフリをしたんだ。
怖いけど、あのおじいさんだからガマン出来る。
サンタさんは枕の横に置いた手紙に気付いたかな?僕は寝たフリをしているから目を開けられない。見たらサンタクロースになっちゃう。
大好きなサンタさんがいるのに、もの凄く怖い。
こんな事なら寝たフリ作戦なんて考えなければよかった。
ギュッと布団を握り締めていると、僕の頭に何かが触れる。
これは手?
大きくて温かい手が、僕の頭を優しく撫でる。なんだかお父さんに撫でられてるみたい。
凄く安心する。もう怖くない。
そう思ったら、いつの間にか寝ちゃってた。
朝、目を覚ますと枕の横に置いておいたサンタさんへの手紙がなくなっていて、代わりにリボンで飾られたサッカーボールが置いてあった。
サンタさんが来てくれたのは知っている。
プレゼントはリクエストどおりのサッカーボール。
この嬉しい気持ちは去年と変わりはしない。
僕はやっぱりサンタさんが大好きだ。
「ヤッター!サンタさん、ありがとう!」
僕は朝ご飯を食べると、新品のサッカーボールを抱えて、すぐに公園に向かった。
あのケンカのあとにあった事、友達にも全部話そう。
きっとビックリするだろうなぁ。だって僕は、計画どおり寝たフリ作戦をきちんと実行したし、サンタクロースにもバッチリ会えたんだから。
まずはその前に、友達に「ごめんなさい」を伝えよう。
仲直り大作戦だ!
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イヴの後日談(解R10)
クリスマスの朝
私は息子が近所の公園に、クリスマスプレゼントのサッカーボールを抱えて出かけて行ったのを確認してから、
「なぁ、母さん、ちょっとコレ見てくれないか?昨日、プレゼントを置きに行ったら枕元にあったんだ。」
と妻に切り出した。
「なぁに、お父さん。って何これ!熨斗袋じゃない!」
熨斗袋には「還暦御祝 おじいちゃんへ」と書いてあるのを棒線で消して「サンタさんへ」と書き直してある。
「まぁ、それはいいんだ。問題は中身なんだが……。」
熨斗袋を広げて中に入っていた便箋を取りだす。
「……。」
私たち二人は暫く便箋をながめ、
「「達筆過ぎて全然読めない。」」
と同じ反応に笑いあった。
手紙は筆ペンの流れるような草書体で書かれていた。
全然読めない手紙。それでも、嬉しい気持ちになったのは、多分、息子が書いたであろう「ありがとう」の所だけはハッキリと読む事が出来たからだ。
「ありがとう」と「ごめんなさい」、伝える事が大事。




