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あの日切り取られた青春へ……

作者: 雨偽ゆら

 青春の証が今、目の前で崩れ去った。

 卒業してもう何年経っただろうか。

 あの日に想いを巡らせる手掛かりは、無惨にも踏み潰された。

 先ほどまで変わらぬ姿だった、懐かしのわが母校。その美しき姿はもはや跡形も残っていない。

 手中にあった、あるものを握り潰す。

「最期、なんだよな……」

 急に現実味を帯びた、『最期』という単語。

 古びた校舎の屋上にいるのは僕と三人の友人だけだ。

「俺さ、廃校になっても、何も感じないと思ってたんだよな」

「だね。卒業しちゃったし」

「でも、実際に見ると寂しいですね」

 渚、楓、桜の順で口々に呟く。

 その度に現実が重くのし掛かり、言葉がうまく出てこなかった。

「…………うん」

 これから彼らは、得るものより多くのものを無くし、失くし、亡くしていくことだろう。

「あの校舎ってこれから燃やすんですよね」

「木造だから、ある程度崩したら火を点すんじゃねーの」

「なら――」

 こうしている時にも、終わりの時間は刻一刻と迫っている。

 僕は焦りから続きの言葉を奪った。

「あの校舎で過ごしていた頃の僕らへ、手紙を書かないか?」

 それは青春の日々の一片を切り取った、記憶の象徴だった。

「あたしはやってもいーよ」

 楓はあっけらかんと、

「まぁ、雪がやりたいなら」

 渚はぶっきらぼうに、

「私も賛成です!」

 桜は満面の笑みで返してくれた。

 書いた手紙を紙飛行機に変え、青春の残骸を丸呑みする炎へと、葬送するように投げ入れる。

 僕らの青春は、校舎と共に……

「せっかくだし、この光景も残しとこうかな」

 楓がスマホ片手に身を乗り出した瞬間、ガタンと手摺が外れた。

「楓っ!!」

「雪君!?」

 僕は楓の手を掴んで引き上げると同時に、バランスを崩して落ちてしまう。

 本当は写真に切り取られた青春の時間に戻って、楓に想いを伝えたかった。

 ……でも、気付くのが遅すぎた。

 気付いた頃には、楓を失った後悔が綴られる未来からの手紙を受け取っていたから。

 だから僕は、この想いを胸に抱えたまま死ぬと決めた。


 暗転した世界の中で、春のように柔らかい声が響く。

「神様お願いします。雪君を助けて――」

 その一言で悟った。四季が巡るように、切り取られた時間を繰り返していることを……

 僕らは再び、青春が壊れる舞台へと舞い戻るのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 得るものより多くのものを無くし、失くし、亡くしていく。 美しい文章ですね。
2019/08/10 12:45 退会済み
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