森の中のアラクネ姉さん 6
ゲスABのゲス行為に武力介入し、見事ゲスABを喰らい尽くした私。
……ゲスが多いですね。
と、まぁこんな感じに現実逃避気味なのは、お二人の警戒心がマックスハートな所為です。
「おい! MOBだか、なんだ知らないが! その脚一本ぐらいは道連れにしてやるからなっ!!」
「私もがんばるっ!」
お二人とも覚悟完了って感じに、キリっとしてて可愛いんですが……。
「あのですね? 私MOBじゃなくてプレイヤーです。ああ、あとNPCでもないですよ?」
「信用できるかっ!? さっきのなんだ!?」
おぅ……まさか捕食がここまで人を警戒させるとは思っても――いや思ってました。はい。
「やっぱり人を食べるのはまずかったかなぁ」
「――っ! ……こいつやっぱり!」
「え? あ! いや! そういう意味じゃなくてですね!?」
おぅ、更に警戒心が……そろそろ振り抜いて別の何かになるんじゃなかろうか。
「ほんとに私、敵じゃないですよ? 偶々、騒がしいなぁと思って来ただけで……」
小麦ちゃんは完全に敵を見る目をしてます。
ならば、ここはロリっ子ノアちゃんに期待!
「ほら? お連れさんもそんなに警戒しなくとも……ね?」となるべく慈愛満ちた笑顔を意識して話しかけます。
「……本当にプレイヤーなんですか?」
よし! この子チョ……脈ありですね!
「ええ。えーっととりあえず――」と腕をあげ、無抵抗アピール。
「自己紹介しましょうか?」と提案。
「……ノア油断すんなよ」と若干警戒レベルが落ちた小麦ちゃん。
よしよし! いいぞ! いける! と表に出さずに自己紹介を開始。
「私はシグっていいます。見ての通り半身異形種のアラクネですね」
ニコニコしてるんですがそろそろ限界ですよ? 普段表情筋を滅多に使わないので精神的に草臥れてきました!
「わ、私はノアとい言います。そのあの――メインは生産職やっててえーっと。種族はドワーフでしゅっ」
となんか可愛く噛んだ感じですが……あがり症なんでしょうか?
凄くモジモジってかアワアワしてると言いますか……お持ち帰りしたくなる何かを感じますよ? この子。さっきのきりっとした感が綺麗さっぱり無くなってますね。
「ノアさんですか……ドワーフの女の子ってそんな感じなんですね? とても可愛いです」
「え!? あ! はぃ……あ、ありがとうごさいますぅ」
おお! 照れてんのか? 照れってんだな! 最後の方は小さな声になってるとか! あざといな!
だが、そこがいい! と私の中の『男の子』がフィーバーしてますっ!
「おい! ノアに変な気起こすなよ」と小麦ちゃんがジト目で睨んできます。
「おや? 私の内なる叫びが漏れてましたか?」
「――これでMOBやらNPCだったら。この世界限定で、人間不信になる自信があるな」
「お。信じてくれますか?」
「プレイヤーという事と敵意が無いって事だけ、な」
「それで結構ですよ」
よし! ミッションコンプリート!
よかった……彼女たちを食べずにすんで。
と最良の結果となった事に安堵し、周囲に張ってある罠もとい私の巣を解除します。
「私はレイナ。剣士やってる。種族はエルフ。よろしく蜘蛛女さん」と手を差し出されたので右手の武装を解いて握り返すと「へぇ」っという言葉を頂いた。
「礼節を重んじる人は好感が持てる。遅くなったけど――助けてくれてありがとう」
「あ、ありがとう、ございました!」
と、なんとか和解に成功した。
それから、森の中では落ち着いて話ができないのでここに来る途中に見つけた、セーフエリアの川辺に移動しました。あと返り血がべっとりですのでね。
「ここならMOBに襲われませんので」と私の背中もとい、蜘蛛の背中の上にいる二人に声を掛けます。
ここまで蜘蛛の背中に二人を乗せてきたのです!
糸を束ねて手綱のようにして、背中に張り付けて安全面に考慮してみました。
因みに振り落とされないようにお二人の体も糸で固定して、です。
あれ? お返事がない?
ぐるっと上半身を捻って後ろ振り向くとぐったりしたお二人の姿が目に入ってきました。
ん? HPは回復して二人とも緑ですし……どうしたんでしょう?
「――おい。不思議そうな顔で見てるんじゃ、ない」と声に覇気のないレイナさん。
「うぅうぅうっ……」とガチな感じで泣きそうなノアちゃん……そうなってこれ泣いてますね。
「いや普通に急いでただけなんですが……」
「あれが普通? 枝と枝を飛び回って、木の幹に張り付いたかと思ったら、そのまま違う幹に飛びついたりするのが、か? あとなんだあの異常な速度は!! 見て見ろ! ノアがガチ泣きじゃねーか!?」
「レイナさん? キリッとした剣士キャラが……」
「これが普段のアタシだよ!!」
――おう。なんかごめんね?
とまぁ出会って早々レイナさんのロールプレイを中断させてしまったようです。