森の中のアラクネ姉さん 5
バリボリ音with……?
「おいっ! 後ろ!」と叫ぶゲスB。
小麦ちゃんと目が合うって事は、その背後にいるゲスBにも見られる。
当然の結果ですが、問題ないです。
「あ? んだよ?」
悪態つきつつもゲスBのいう通りに振り返る意外と素直なゲスA。
そして、目が合う私達。
「な――っ!」
逆さまの私……こんな映画があったような、など考えつつ、驚き眼のゲスA目掛けて、尻尾発射。
狙いは腹部。即死狙いで顔でもよかったんですが、彼の装備の耐久力を知りたかったので、あえてそこに。
結果は思いのほかサクっと簡単に深々と刺さりました。
もちろん、刺すと同時に毒マシマシで注入。
「ごきげんよう。ゲスAさん。そして……いただきます」
挨拶は大事ですからね。
それが済むころにはゲスAのHPもいい感じに、黄色から赤に変わっていきます。
なので、ササッと糸で拘束かぁらぁのぉ――下顎!
ゲスAの首に勢い良く下顎が突っ込みます。
「グェっ」とか「グフッ」とかそんな感じの声が聞こえましたが、お構いなしに私の方に引き寄せられて、蜘蛛の口にゴールします。
ジタバタと、もがきながら上半身が口に入ったところで、お馴染みのバリボリ。
うわぁ……プレイヤーの方がより生々しい音が出すんですね。
血が――おぅ! 逆さまだからこっちに垂れてきますよ!
とりあえず、一人処理したので急上昇し最初にいた枝の上へ。
「ふう。ああぁ血で体が……。でもまぁ二分ぐらいですかね? これやるのに」とバリボリ音を立て、動かなくなった元ゲスAの片足を見つつ、つぶやきます。
もう片方はあがる時にこぼれちゃいました。
上から零してしまった片足を見つめる三人。
ゲスBは慄き、上や周りをキョロキョロ見回してます。
腰が引けてるのがなんとも滑稽。ぷっ! さっきの威勢はどこへやら、てやつですねぇ。
で救護対象の二人は……こちらも慄き、近くの木を背に臨戦態勢。
おや、意外と理にかなった行動しますね。
ここ木の幹は大きいですから、背後を守る壁にちょうどいいです。
それに比べ……ゲスBはまだキョロキョロしてます。
「うんうん。利口な女の子は好きですよ? 是非ともお友達になりたいものですねぇ」
さてゲスBも、と行動しようとした瞬間、ゲスBの姿が溶けるように消えてきます。
「おや? ……先ほど自慢してたステルスってスキルですか? まぁ熱源感知で見えてるんですがね」
今私が見てる世界は、サーモグラフィな視界と普通の視界が混ざった感じです。
慣れると意外と便利。オンオフも簡単にできますんでね。戦闘中は基本この状態。
「私の目を誤魔化したいなら。自身の熱を周囲と同じにして尚且つ、振動を立てず、ぐらいしないとねぇ。まぁそういったスキルもあるんでしょうが……。君のは――お話に、ならない」
ゲームなんでね。そこまでしなくとも、どうにか出来るんでしょうが。
現実的な対処方法はこれでしょう。
で、小麦ちゃんとノアちゃんを正面にしたまま、じりじりと下がって距離を取るステルスゲスB。
ふーん? 何してるんですかね? まさかと思いますが、この場から逃走できないように、戦闘前に巣を張り巡らせてます。
なのであと少し下がると、その巣の糸に触れます。
するとあっという間に蓑虫状態の出来上がり。
私の巣もレベルアップしてるんですよ?
「ん? 手前で止まりましたね。何したいんでしょうか? まさかと思いますが、私をMOBだと思って彼女たちを囮に?」
半身異形種はMOBと思われがち、みたいな事を情報サイトで見ましたねぇ。
ここは……乗りましょうか。
精一杯かは知りませんが、せっかくのお誘いですのね。
「――よっ、と」
枝から飛び降り音もたてずに着地を決める。消音スキルが有能過ぎる件。
それから依然怯える二人の方を向きます。
背後は振動感知with私の巣で完璧にモニタリングしてます。
おうおう、じりじり動いてますねぇ。
「大丈夫ですか?」とにこやかに笑みを浮かべて怯える彼女たちに――ああ、バカですねぇ。
背後から感じるピリピリしたモノ。
これは……ゲームの仕様じゃなく私の感覚的なモノなんでしょうかね。
近所に住むお姉さん直伝の護身術が役立つときです!
見えてはいませんが、どうやら私のお尻(蜘蛛の腹部)を攻撃しようとしてるんですかね。これは。
まぁそれでも対処方法は変更なしです。
私は彼の動きを感じつつ背を向けたまま横――右側にズレます。
それから、サッと後ろに下がればあら不思議、彼の真横に並ぶ感じになったではないですか。
いやはや、これ実はよくやられんですよ近所のハイパーお姉さんこと、菫姉さんに。
あの人何者なんですかね。とか考えながら、彼の手首(右)を右手で掴み、左手は頭を鷲掴みに。
本来左手は頭じゃなく、相手の右肩を抑えるようにして地面に倒すんですが。
私の体格もとい形状からして地面まで距離があるので、今回は頭を掴むことにしました。
で、近場――私の右側にある木の幹に、相手の勢いプラス、私の勢いを乗せゲスBの顔面を叩きつけます。
「――がっはぁっ」とうめき声が聞こえたところで、左手を引いてゲスBを地面にポイっと放り捨てます。
ちょっと勢いをつけすぎて、地面を軽く転がる元ステルスゲスB。
ややあって、プルプルしながら四つん這いで「――ふぅ、ざけんなっ! なんであれが避けられんだよ!?」と叫ぶ。
「思いのほか元気ですね」
「――あ? てめぇMOBじゃねぇのか? じゃ尚更なんでよけれるんだよっ!?」
「さぁ? 強いて言えば。スロー過ぎて欠伸が出そうでした」
と言い返したら。なんとも可笑しな顔になるゲスB。
「ぷっ! 笑える」と言えば激高して騒ぎ出しますが無視します。
「さて、知りたい事も知れましたし、あなたの知ってる事も知れましたんで。もういいでしょう」と言いながら掴んだ時に巻き付けた糸を張って拘束。
このセリフ、一度言ってみたいと思っていたんですよね! ふぅーなんか滾ってきましたよ!
まぁこれはほんとなんで、サックとやっちゃいましょ。
ゲスA同様にゲスBのお腹目掛けて尻尾を放つ。
Aとの違いはやや刺す時に抵抗感じた事でしょうか。
でもちゃんと刺さったので毒注入。
「なんで!!」とか「耐性が」とかなんとか言って騒いでますがこれも無視です。
「さて、HPも真っ赤になったんで。とどめですかね。まぁ私はあなた達と違って『いたぶる』なんてことはしませんからご安心を」
「てめぇ! くそ! なんで毒にっ! 俺たちに――」
うるさいんで喋ってる途中でしたが、下顎で足を掴んで蜘蛛のお口に招いてあげます。
「――は? 何してんだっ! てめぇ!」
「うるさいですよ? 見てください彼女たちが怯えてるじゃないですか!?」と言って未だにその場を動かずにいる二人を指さします。
「男性の怒鳴り声って怖いんですよ! ちょっとは考えてください!」と私の目の前まで来たゲスBに注意します。
「おまっ! やめっ!?」と先ほどは違う声色に、あと表情も強張ってますね。
そして、足が蜘蛛の口に入ると――かなり生々しいのでフアッとした言い方にしますと。
ボリっと鳴ります。スネ辺りから。でそのままバリボリタイム。
今回はいつもと違ってバリボリィwithステルスゲスBでお送りします。
ステージ演出の花火の代わりは血飛沫ですか? 凝ってますね。
それから悲鳴とも、断末魔とも言える音と、いつものバリボリ音を聞きながら、木の幹を背にして寄り添って震えている女の子たちと、どうやってお近づきになれるのか脳内で作戦会議を開きました。
――可愛いですよ!? お二人とも!!