アラクネ姉さんと七日目 2
あーだこーだとじゃれ合った二人。
何故か後半、お互いお褒め合う形になり、じゃれ合いは終了。
そして、現在はアイリちゃんが椿ちゃんに巻き付き、頬擦りしてます。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
「ん――ああ、了解了解。調べる相手がしょぼいからねぇ。大した事ない情報しかなかったけど……えーっと」
アイリちゃんを放置して椿ちゃんはパネルを呼び出し、それを見ながら語り出します。
「ギルド名はイーグルオウル。メンバーは21人。それからーギルマスとサブマスは元前線の攻略組。PK行為は高レベルのプレイヤーがいる町ではなく、自分よりレベルの低いプレイヤーがいる場所を主にしてるみたい。いわゆる俺TUEE! をしたいタイプだね」
「なるほど。まぁ狩りはとしては自分より弱い相手を狙うのは定石ですからね。わからなくもないですが……」
「まぁね。でも自分より低いレベルを狩ってもあんまりメリットないんだけどねー。持ち物もたかが知れてるし。PKポイントもそんなに貰えないからね」
「へー」と相づち打ちながらPKポイントなるものが気になりましたが、今はそれは置いといて先を促します。
「一応、拠点にしてる街とこれが湧く街なんかも調べたんだけど……どうする? いまから行っちゃう?」
ニヤリと嗤う椿ちゃんのお誘いは大変魅力的ですが。
「いえ、今日はやめときましょう」
「その心は?」
「こちらから出向かなくともいいでしょう。別段私は、そのギルドを潰したいわけじゃないので」
そう、私は別に正義の味方になりたくて、椿ちゃんに情報を集めてもらったわけではない。
正義だの悪だのと言った感情論に興味はない。
そもそもPKを悪だと否定しても、このゲーム内においてPKは違反行為ではない。
プレイヤーの一つの選択肢として用意されてるのではないかと思うわけです。
よって私はPKに対してどうのこうのと言うつもりはない。
私だってPKとはいえ、プレイヤーをバリボリしてるわけですから。
「あー前に『狩る為に』て言ってたもんねぇ。潰しちゃったら勿体ないか」
「え? なんで? 潰した方が良くないですか?」
椿ちゃんには私が言わんとしてる事がわかってるようですが、アイリちゃんはそうではないようで、納得いかないとばかりにムーっとした表情です。
そんなアイリちゃんの頭を撫でながら、椿ちゃんが優しく語り掛けます。
「いいかいアイリちゃん。PKってのはいくら潰しても、わんさか湧くもんなんだよ。仮にさっき話したギルドを潰しても、直ぐに新しいギルドが出来ちゃうし、他から流れてくるんだよ」
「潰してもキリが無いって事ですか?」
「そ! 知らない連中を相手にするより、知ってる連中を相手にした方がめちゃんこ楽。アイリちゃんだって、あいつらの手口知ってたら、あんな目にあったりしなかったでしょ?」
「はい。知ってたら話しかけられた時点でやっちゃってます」
「でしょ? 知ってるってのは凄い武器になると思わないかい? なんせ先手が打てるんだから」
「……なるほど。先手必勝ですね」
「そそ。あとね――」
それから暫く椿ちゃんとアイリちゃんは二人だけの空間を作り、傍から見れば、百合百合した雰囲気でしたが……。
椿ちゃんは終始アイリちゃんの頭を撫で続け、優しく論すように微笑みながら、対人戦の何たるかを語りそして、アイリちゃんは頭を撫で続けられ、あれやこれやと、吹き込まれている内に、最後の方はなんかちょっとポーっと熱っぽい眼差しと表情なってました。
ただまぁ……。
椿ちゃんの薄っすらと目を開け嗤う姿は、洗脳してるようにしか見えませんでしたがね
その後、椿ちゃんから洗脳――もとい、戦闘に関しての話を聞いたアイリちゃんが凄くヤル気になってしまった為、ひと狩り行くことになりました。
話が終わり次第、ノアちゃんの手伝いに行く予定でしたが、椿ちゃん曰く連携の練習にもってこいのMOBが近くにいるとのこと。
話が終わり次第ノアちゃんと合流する予定でしたので、少し遅れると連絡を入れ、そっと目線を動かす。
「……全ては布石……腕を奪って足も奪って……確実に」
動かした先では、親指の爪をかじりながら、譫言の様に呟くアイリちゃんの姿。
「椿ちゃんどうするんですか? あれ」
「ん? いやぁーいい感じに仕上がっちゃったね」
テヘッと笑う椿ちゃん。
「もしかしてウインクしてるつもりですか?」
「え? うそ? わかんない? んじゃこれは」と言いつつ薄っすら右目を開きますが……無理矢理開いてる所為か、目元がヒクヒクと痙攣してる様が思いのほか不気味です。
「思っても口に出されると人は傷つくんだよ?」
「あ、口に出してましたか。それは失礼。ま、それよりもちゃんと責任取ってくださいね。アレを作ったのは椿ちゃんなんですから」
「うん……そう、ね。なるべく頑張る?」
なんとも曖昧な事を言ってますが、表情を見る限りでは彼女もやり過ぎた事を自覚してるようです。
アレ――もといアイリちゃんが今後どうのような成長をするのかが楽しみです。
「さて」と口にして話題を切り替えます。
「椿ちゃんおすすめのナンタラエイプってのはどこです?」
「パーティエイプ、ね。んとねぇ、そろそろ――お! いたいた」
椿ちゃんが指さす方へ視線を動かすと猿らしきMOBが枝の上にいました。
ゴリラのようなオラウータンような姿のMOB。徒党猿と書いてパーティエイプと読む。
若草色の毛の猿は私と目が合うと胸を手で打ち鳴らしドラミングを始めました。
「ああやって仲間を呼んでるんだよ。さて今日は何匹来るかなぁ?」
因みに蜘蛛の巣と子蜘蛛は出してません。
出そうとしたら椿ちゃんに「シグちゃんの索敵能力は異常だから禁止」と言われたので、視認できる範囲しか私は感知出来てません。
個人的にこういった状況は嫌なんですがねぇ。
「アイリちゃん来るよ! 戦闘準備!」
「ヤル時は徹底的に確実に……え? あ――はい!」
覚悟完了といいますか、洗脳完了したアイリちゃんが慌てて武器を構えます。
その元凶たる椿ちゃんも周囲を警戒しながら臨戦態勢。
遭遇戦とか真っ向勝負ってのは苦手ですが……今回は仲間がいますし、それに。
たまには襲撃とか不意打ちではない戦闘してみるのもいいかもですねぇ。と思いながら私も戦闘態勢に移行します。