街中デートのアラクネ姉さん 後半
音を立てて倒れる人型の巨木。
トレントと呼ばれるMOBが今、美少女二人の手によって倒された。
――私はゴブリンをバリボリしながらその様を眺めている。
とかなんと凛々しく言ってみましたが、今回の狩りでは私は戦力外なので暇なんです。
現在私達三人はカフェから場所を移し、巨木の森に来ています。
狙いは先程倒されたトレントさんです。
刺突斬撃に高い耐久性を兼ね揃えているトレントさんは、刺したり斬ったりするのが主な私にとっては天敵のようなMOBです。
よって戦力外な私は、トレント以外のMOBの処理をしてるわけです。
レイナちゃんとノアちゃんたちは多種多様な武器防具を装備できますので、マルチな対応可能ですからね。
この辺が半身異形種と人類種の差ではないでしょうか。
私は専用武装なるモノ以外装備してもそれに付与されてる恩恵を得ることができません。
武器として振り回す事は出来ますが、恩恵を受けてる二人に比べるとやはり、ね。
なので、彼女たちに「お二人はトレントに集中してもらって、戦闘中に寄ってきたゴブリンとかオークといったMOBの対応に、私が回った方が効率がいいのでは?」と提案させていただきました。
ノアちゃんが少しこの提案に難色を示しましたが、
「こういうのは適材適所ですよ? 私は打撃性の攻撃手段がない、事もないのですが、お二人に比べるとけん制程度のもです。ですので有効打を叩きだせるお二人がに主力に。そして私は補助に。トレント以外のMOBを近づけはしませんから、安心して叩き折ってください」
と説明したらノアちゃんは何故か目を輝かせて「シグさんは本当に凄いです!」と。
レイナちゃんは「ふざけた言動が多いけどちゃんと考えてるよな」と。
ふざけた言動について詳しく聞こうかと思いましたが、あえて聞かなかったことにしました。
ですが、忘れはしませんからね? レイナちゃん?
そして何故、トレントを狩っているか。
それはカフェでいろいろ話している内に家具製作に必要な素材『トレント材』の在庫が少ない、と言った話になったからです。
トレント材は家具や建築物の素材として多く使われるとかで、ノアちゃんもそれなりに在庫を持ってはいたが個人宅を入手した際に大量に使ったとの事。
「トレントはそう強いMOBじゃないけどデカイから倒すまでが苦労するんだよ。で金で解決出来なくもないけどそれなりに掛かるしな」というレイナちゃんの言葉が切っ掛けになり、デート後半はトレント狩りに決まったわけです。
ノアちゃんは午後からは私の服を見に行きたかったようですが、これもレイナちゃんが「なら夜にいろいろ着せりゃいいんじゃん。ノア、服とか好きだろ? サンプルが倉庫圧迫してるって言ってたし」と言ってせいで本日の夜はノアちゃんの着せ替え人形になる事が決定したわけですが……。
私としてはレイナちゃんも着せ替え人形に引きずり込もうかと考えています。
それを聞いたノアちゃんの目が、私を着せ替え人形にする時の姉と同じ目をしてたのが凄く気になったのでね。もしノアちゃんも姉と同じ部類なら是非、レイナちゃんもご一緒していただきましょう。
「こんなもんかぁ? にしても一人多いだけでかなり楽できるな」とレイナちゃんが背伸びをしながら、倒したばかりのトレントを見ながら言えば、それにノアちゃんが「そうだね。前は苦労したもんね」と懐かしそうに微笑みながら解体作業を開始します。
トレント一体だけを相手する事を徹底し、今回も安全マージンばっちりに戦闘を終えたところです。
因みにトレントが二体出現した際は即時撤退。
戦力が常にこちら側に傾いてる状況を守る事で、予測外の事態が起きないようにしました。
確実且つ安全に処理すれば、それだけ効率がいいですからね。
「主力を一体に集中させれば、それだけ早く処理できます。二体同時にできなくもないでしょうが主力を分散させる理由がないですからね。何かを守りながら、とかなら別ですが。拠点防衛などですか? ですが今回はそうではなく、攻勢のみに集中した戦闘ですのでね。理由がないのであれば無理しなくてもいいんですよ」
それにレイナちゃんもノアちゃんも別々の敵を相手にしていたらお互いの事を気にして集中できないでしょうからね。
そうなると私も周囲の敵だけではなく彼女たちにも気を配らなければならなくなる。
これだと何か予測外の事態なった際に各々キャパシティーオーバーになってしまいます。
それでしたら最初から同じ敵に集中してもらった方が彼女たちの状況は同じですしカバーやフォローし易いでしょう。私も周囲の索敵、及び処理に集中できる。
もし私がトレントに対して何か有効な攻撃手段を持っていれば話は変わったでしょうがね。
なんにしても安全第一。これ大事です。
本当に死ぬわけでは無いですが、そこに甘えるのちょっと無しですからね。
これはゲームです。勝敗があるのです。殺せば勝ち、死ねば負け。
負けず嫌いの節がある私としては死ぬのは御免被りたい。
「よく考えてんなぁ。ま、お陰で大したダメージを受けることなく狩れたんだけどもな」
「そうでしょう? 回復薬の節約にもつながりますよ?」
「私はノアがいるからその辺に金取られないけど……いい値段するからなポーションって」
私は回復薬、いわいるポーションって呼ばれる回復アイテムにはお世話になりませんでのアレですが、ノアちゃん曰く、生産職メインの人にとって貴重な収入源だとか。
ノアちゃんのお店でもポーション系のアイテムはいい売れ筋商品だと言ってました。
ただ、材料費が高いのでどうしても割高になってしまう、としょんぼりしてましたね。
居候の身としてはその辺でなにか協力できれば、と考えていますが……。
それよりも報告すべき事があるのでそれを先に済ませましょう。
「ノアちゃんにレイナちゃん。報告です。北の方角に何かがいるみたいです。距離は蜘蛛の巣の範囲ギリギリですので。凡そ直線で二十メートル」
解体作業終えたノアちゃんがきりっとした表情で「他には?」と聞いてきます。
「人の声のようなモノが聴こえますね。断片的ですが、『うぜー』って叫んでるような感じですね」
「それ、プレイヤーだな。喋るMOBもいるけどこの辺にはいないからな」
レイナちゃんの言葉にノアちゃんも同意し「……どうするんですか?」と私に聞いてきますが、
「それを決めるのはノアちゃんです」
「私、ですか?」ときりっとした表情が崩れ、キョトンとする彼女。
「そうだな。ここはシグがって思うのけど。決めるのはやっぱノアだよな」
と言いながらレイナちゃんが彼女の頭を撫でるように叩きます。
私もそれに続き、
「私はあれこれと提案をしますが、決定権はノアちゃんにあると思いますからねぇ。さ、報告はしましたよ? どうしたいので?」と聞けば彼女は再度表情を引き締めます。
「私は……気になります。もしプレイヤーがなにか困ってる状況なら助けたいです。でも無理する理由がなければしません。私のわがままで二人を危ない目にあわせたくないので」
「では決まりましたね」と言った後にノアちゃんを脇に抱えます。
それからレイナちゃんも手早く確保します。
なにやらジタバタしてますが、お構いなしに二人を糸で縛って落ちないように私と固定します。
で、前脚を上に向け糸を放ち、木の天辺に近い枝に絡めます。
しっかり固定できたことを確認し、
「急いだ方がいいかと思いまして。目的地まで私が運びますね」
「ちょ! な――」とレイナちゃんが答えかけましたが、聞いただけだったので最後まで聞かずに私は固定した糸を縮めて逆バンジーよろしく、空に向かって舞い上がりました。