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アラクネ姉さん  作者: ますくばろん
森の中のアラクネ姉さん
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街での朝とアラクネ姉さん

 

 ひと騒動あった夜も明け、初めて迎える森以外で朝です。


 いやぁいいですね。朝食がゴブリンではないという事は。

 森では、基本ゴブリンさんが朝食でしたから。

 お昼はオーク、夕食はミノ兄貴と汗を流してバリボリ。そんな感じでした。


 ですが! 今日からは違いますよ! 

 なんたって朝食は愛らし過ぎてどうにかしてしまいそうな天使たん事、ノアちゃんの手料理ですからね!!


 性欲も食欲もマックスハートぶっちぎりです!


「性欲て……朝から何言ってんだ? 男かお前は」とレイナちゃんが言ってくるので、

「おや? 男性は朝から元気なんですか?」と聞けば、


「いや、ほら、その……。私の兄貴が朝からそんな感じだから」

「え? それホントにお兄さんなので? 彼氏とかでは?」

「ち、ちげぇーよ!! 兄貴だよ! か、彼氏とかいるわけないだろ!?」

「何慌ててるんですかぁ? 怪しいですねぇー? 彼氏さんとの朝チュン話じゃないんですかぁ?」


 ニヤつきながらそう言うと、レイナちゃんは口をパクパクさせ驚きと言いますか、なにか変な事でも想像したので? とすぐさま思える表情になります。


「おま! あさ、さ、チュンて! ちげーから! いないから! できた事すらないから!!」


 可愛いですねぇ。こう男の子っぽい女の子が異性に耐性がなくてこんな風に慌てる感じ。

 私のサディズムハートがゾクゾクしちゃいます。何想像したのかぁとか、朝、お兄さんにナニされてるか、あるいはナニ見たのかなー、とか根掘り葉掘り聞きたいです。


「お待たせしましたー。あれ? どうしたの? れな」


 レイナちゃんをどういじろうか悩んでいると可愛らしい声ともにノアちゃん登場です。

 そして、慌ててるレイナちゃんを不思議そうに見つめます。


「いえね。レイナちゃんが男性の影をチラつかせるような事言いますので」


 と私がノアちゃんに言うと「え?」と小さくを声を出して目を見開き、それからゆっくりと目が座っていきます。


 え? なんかちょっとゾクッとしたんですが……?


「おまっ! やめろよ! ノア!? 兄貴の話をしてたんだ! それをこいつが変な勘繰りして」


 先程より、更に慌ててそう弁解するレイナちゃん。

 それを聞いたノアちゃんの目がすっといつものクリクリおメメに戻ります。


「もー! びっくりしたぁ! れなのお兄さんの事だったんだね」とニコニコフェイスで朝食の配膳をしつつ、話を続けるノアちゃん。


「れなのお兄さん。変わってるもんね。でどんなお話してたの?」


「それはですねぇ」と冒頭の話の内容を彼女に伝える。


「あぅ……その朝は男の人ってすごいですよね」と俯きながらとんでもない事ポツリというノアちゃん


 それを聞いた私は声を荒げてしまします。


「ノアちゃん!!! ままままままさか!???? その意味ありげってかそれはま、ま、さまさ……見た事があるんですか!?」

「え!? その、あの……はい」と最後は消えそうなぐらい小さな声で肯定する彼女。


「……よし。殺そう。殲滅です殴殺です刺殺です。斬殺で惨殺で惨たらしく責め抜いて、引っこ抜きます」

「落ち着け!? バカ! ノアが見たのはうちの兄貴のだ!」

「敵はそこかぁぁ!!?」とレイナちゃんに掴みかかります。


「とにかく話を聞け! 週末にノアたちが私んちに泊りに来てた時に兄貴とちょっとあったんだよ」

「ちょっとってなんですか!? 先っぽですか!?」

「だぁーーー!! 話すから手を放せ!!」


 それからレイナちゃんはそのお泊り会で起きた事を話し始めました。



 なんでも彼女のご両親とお兄さんは家にいなく週明けに帰ってくる予定で、ノアちゃんを含め三人がレイナちゃんの家に泊まりに来てたそうです。

 が、お兄さんだけ用事が早く済んだらしく深夜に帰宅。


 妹の友達が来てる事なんて知らないお兄さんは普段通りの格好だったそうなんですが、この普段通りってのが、


「あんまり言いたかないんだが。うちの兄貴、家じゃ全裸なんだ」と感情の色が抜け落ちた表情でポツリと零すレイナちゃん。


 え? 普通そうなのでは、と思いましたが、ここは黙って続きをお聞きしましょう。


「両親とか共働きだし深夜に帰ってくることが多いからな。私は目を覚ますのに夜に入っても、朝はシャワー浴びるんだ。で、なんかみんなで入ろうって話になってな」


 そして、お兄さんが帰ってきた事知らないレイナちゃんたちは朝、お風呂に入ろうと二組に分かれてお風呂場に向かったそうです。


 ささ、ここで気になる点は、朝お風呂に入る習慣。

 で、お兄さんが裸族。


 付け加えて妹と兄は知らなくてはいけない情報を知らないという事。


 妹は全裸で家の中を徘徊する兄の存在を。

 兄は家に家族以外――しかもうら若き女子三人の存在を。


 それらは最初に述べた朝風呂の習慣へと直結する。


 レイナちゃんは言いました。


 ――私の家ってみんな朝に風呂入るんだ、と。



 勤勉なる諸君にはもうおわかりだろう。私だってもうオチが見えてきましたよ。



「四人は流石に無理だからさ、二人ずつで入ろうって話になってな。先にノアともう一人を行かせたんだ」


 ここがいわゆる分水嶺ってやつですかね。


 レイナちゃんがお客さんである方々を先に、と譲った事がノアちゃんの悲劇? に繋がってしまいますがこれは仕方ないでしょう。


「ノアたちを行かせてちょっとしたら、すげえ悲鳴が聞こえてきたんだ。変態でも出たのかと思って慌てて風呂場に行ったらさ……兄貴が脱衣所の前で土下座してたんだよ。しかも脱衣所、覗けばノアが震えてへたり込んでるし。私、ついに身内から犯罪者が出たと思って青ざめたよ」


 ここでノアちゃんが話に加わります。


「私リアルでも背が低くて。背が高い人と向かい合うとどうしても……その……目線が」


 その時を思い出したのか俯いてしまうノアちゃん。

 これがアバターではなく生身でしたら赤面してとても可愛い姿が見れたのでは? と思うと非常に勿体ない。


「ノアの身長もそうだけど。兄貴ガタイもいいし、身長も一九〇超えてるから……なんつーかノアの目の前に、な」

「なるほど。デン! とお兄さんのお兄やんが晒された、と」

「ぅぅ――……ハィ」


 俯くだけではなく手で顔を覆ってしまうノアちゃん。

 レイナちゃんも手で顔を覆ってますが……ノアちゃんとは意味合いが違う事でしょう。


「しかも。朝、男性、生理現象が揃っていたら流石の私でもトラウマモノですね」


 としみじみと言えば、レイナちゃんが「ごめん」とノアちゃんに言い、謝られた彼女は「ううん。れなは悪くないよ」と俯き顔を手で覆ったまま首を横に振ります。


 なんとも言えない空気が二人を包んでます。


「まぁ何にしてもノアちゃんの処女性が失われていないのなら問題ないです」


 過程はどうあれ、結果がこうであれば私としては安心というモノ。と安堵してると、


「あんなの入るわけがないです!! 死んじゃいます!!」


 そう叫びながらテーブルを叩いて目を吊り上げながら立ち上がるノアちゃん。

 そして、自分が何を口走ったか理解したのか、三度顔を覆ってその場に崩れるようにして椅子に座ると「もう……やだぁ」と小さく呟きました。


 ノアちゃんには申し訳ないですが、そんな彼女の今の姿は非常にほっこりします。


「いい朝ですね」

「……どこが、だよ」


 というレイナちゃんのどこか疲れ切ったような声が合図になり、朝食スタートです。




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