街中のアラクネ姉さん 3
これは一体何事!? と急に動かなくなった体をどうにか出来ないかと四苦八苦している私。
行動制限があるとは聞いてましたが、まさか行動不能になるとは思ってませんでしたよ!?
「大丈夫ですか!? しぐさん!」とノアちゃんの焦っているだろう声。
返事を返したいができない! 安心させたいあの天使!! と私も予想以上に焦っていると急に体の感覚が戻ってきます。
よし! と返事を返すべく口を動かそうとしましたが今度は顔に何か張り付いてる感覚が。
それどころか妙に強い圧迫感に襲われます。
キッツキッツの服を着てるかのような感じ。
痛くはないですが、気持ちいいモノでもないです!
何というか息苦しさマックスハートですよ!?
まさにグヌヌとこの窮屈な感覚を何とかしようと力んでると、メリッと何かが破れる音が背中の方から聞こえてきました。そしてそこから解放感も伝わってきます。
とにかく背中から解放感を感じるならそこがこの圧迫感というか窮屈感? の出口だと思い、ぐっと力を入れ上半身を起こします。
感覚的に超キツキツの着ぐるみを脱ぐ感じで思いっきり背中の方に力を入れました。
メリメリっという音とズルっとした感触。
そして圧倒的解放感!!
「っだぁぁー!! 抜けた! いや脱げた!」と思わずそう大声を張り上げます。
「はぁはぁ……なんですか? これは」
私の目の前にある『私と思しき半透明な抜け殻』とぱっと見でそう感じるモノがあります。
「あーお二人ともご心配をお掛けしました」
「おおう。大丈夫なのか?」とやや慄いてるレイナちゃん。
ノアちゃんもびっくり眼でこちらを見ています。
「ええ。なんとか。――んっっしょい!」
そうレイナちゃん返答しつつ下脚を引っ張り上げるようにして抜き出します。
それから完全に抜け出すままで数分かかりましたが……見事『脱皮』成功。
「まさか、脱皮するとは……。しかし綺麗に抜けましたね」といつつ髪の毛を束ねて絞ります。
全身ヌラヌラ状態ですからね。
すぐ乾いて問題ないんですが濡れたままって言うのも気持ちが悪いので。
「おい。いくら女しかいなからって胸は隠せ。慎みを持て」と私の丸出しのタワワを指さすレイナちゃん。
「え? 二人とも過剰演出きってるんですよね? でしたら先端桜が見えてないのでしょう? 問題ないのでは? 」
「それでも、だ! 見ろ!? ノアが固まってるだろっ!」
言われた通りノアちゃんを見ると、ほんとだ固まってる。
そして目線が上がり私と目が合う。
「――っ! あ! いえ! その違うんです! あっあの凄く大きくて! ああと形とかもっ! 凄く綺麗で! それでつつつい!」
「絶賛ですね? なんなら揉んでみます?」と下からグイっとすくい上げて見せると、
「ひゃっ!! それっわ!! そそそそのっ!!」
「おい! やめろ! これ以上はノアが壊れるだろ!!」
壊れるって……人の胸を何だと思ってるんでしょうかね。まぁいいですが。
そんなやり取りをしてる内に私の体はあっという間に乾きます。
が、乾いた瞬間に変化が訪れました。
それは今まで着ていた服と言いますか、私の体を覆っていた露出度高めのボディスーツの形状が変化し始めたのです。
盛り上がって尖って、平べったくと言った感じに変化するエロボディスーツ。
そう時間をかけずに変化は収まりました。
「おお? これはまた。刺々しい感じになりましたね」と感想を言えば、
「お、おう。つか来るゲーム間違ってないか? って聞きたくなるな」というレイナちゃん。
わかってます。非常にわかってます。
「言わないでください。薄々とですが、そう思っているので」と言い返すとノアちゃんが目を輝かせながら前のめりな感じで会話に加わります。
「私はいいと思いますよ! とっても似合ってますっ!」
それを聞いたレイナちゃんが彼女に賛同します。
「確かに似合ってるよな……顔つきと言い体つきと言い」
二人がこういった感想を抱く、今の私の姿を説明すると。
つるんとしていた前までのエロボティースーツから鎧のような形状に変化しているのです。
ただ、普通の鎧と違って装甲が折り重なるようになっています。
いわゆる蛇腹状。あるいはスケイルメイルと言えば伝わりやすいでしょうか。
大変鋭利な感じです。尻尾とお揃いな感じがしますね。
胴体部分はノースリーブのようになっているので肩が出ています。
前に比べれば露出度は下がりました。ですが胸――上乳が見えてます。
あと縦に裂いた感じでお臍の辺りも見えてます。
服を着ているのに着てないのよりもエロい、と言った感じでしょうか?
これは前回もそうでしたが……運営に問いたい。
アラクネとは何ぞやと。
このほかに変わった点がいくつかあります。
先ず腕ですが、ドレスグローブのようなモノがこれも二の腕半ばまで覆う、蛇腹状の手甲あるいは籠手に変化してます。ガントレットでもいいかもしれませんね。
そして、刺々しさは胴体の比じゃありません。
指の先まで超鋭利。
あと手の甲から伸びる? 生える? 剣ですが、これを出すともう完璧に肘から先が武器ですと言ったありさま。
因みに手甲剣と言う種類だそうな。これはノアちゃんに聞きました。
パタの刃も幾分か幅と厚みが増してます。
これは『テイルソー』も適用されています。
それから、蜘蛛乙女の指先は『蜘蛛剣姫の爪』に進化。
三本しかなかった爪がついに五本に、両手を合わせて十本になりました。
お次は下半身の蜘蛛ですがこれもつるんとした流線形から上半身同様に刺々しい且つ、鋭利な仕上がりになってます。
八本の脚は付け根の部分はそのまま、先の方は蛇腹状の外殻に。
なので、曲げると蛇腹状の外殻がノコギリの様になって、見た目だけでも攻撃力が高そうと思える程です。
この変化は全部の脚がそうなってます。
特に前二本の脚。
この脚は他と比べると長いので、蛇腹部分も長くなる。
しかもやや太め。
見た目がファンタジーSFに出てくる敵側の多足歩行型兵器。あるいは悪役の女性幹部のような仕上がりになっております。
先程ちらっと紹介しましたが、武装名が蜘蛛乙女から蜘蛛剣姫になりました。ルビはそのままです。
改めて運営に問いたい。
アラクネとは何ぞ――以下略。
「見れば見るほど悪役だよな。色といい顔つきといい」と上から下まで舐めるように私を見るレイナちゃんが
しみじみといった感じに呟きますが……お?
「ちょっと待ってください。色はわかりますが。顔つきは関係ないでしょう」
「それだ。その目つき。ヤバすぎだろ?」と私の顔を指さします。
「よし。褐色エロフ。戦争だな?」
「お? やるか? 人外兵器。あとエロフっていうな!」
「れな! ダメだよ!」
メっと、子供を叱るお母さんのようにレイナちゃんを窘め、「私シグさんの顔も見た目も大好きですよ! とても女性っぽくてかっこいいです!」と仲裁兼フォローする天使ノアたん。
だがしかし、女性っぽくではなく女性ですよ? 私。
まぁやいのやいのと騒ぎましたが、見事強化という脱皮を果たした私は、見た目が大幅に変化したのでした。あとは能力面ですがこればっかりは実践しない事には何とも、と言った感じですかねぇ。
カタログスペックを鵜呑みにするほど愚かではない、つもりです。
欲を言えば、鵜じゃなくて鴨がいればいいんですがねぇ……。
――その後、女三人揃えば姦しいでしたっけ?
三人でおしゃべりに花を咲かせ、いい感じに夜も更けた頃、三人で夜の街に出かけようという流れになりました。なんでも噴水がライトアップされとても綺麗だとか。
それと折角だから私の入居祝いに何か食べにいこう、という話にもなり、私の心は馳せる思いでワクワクドキドキ!
こう知り合ったばかりの人たちと騒ぐって経験はほとんどした事がないのでね。
些か、子供っぽいかなと思いつつも二人から伝わってくるモノが嬉しくてたまりません!
そんな感じで私達は夜の街へと繰り出しました。