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アラクネ姉さん  作者: ますくばろん
森の中のアラクネ姉さん
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街中のアラクネ姉さん 2


 女子トークに花を咲かせ、あっという間に到着したノアちゃんのお店。


「おお! 二階建て、ですか」と街の雰囲気にピッタリの店を見上げる。

「はい。一階がお店と工房。二階がプライベートスペースになってます」とノアちゃんが照れ臭そうに説明します。


 レイナちゃんはルームシェアしてるらしく二階に自室を持ってるとか。


「シェアもできるんですね。便利そうです」

「まぁ自分で家を持つってなると金がかかるからな。でもシェアすればそこんとこは解決するな。自分の部屋なら家具とか好きにできるし。拠点としても使えるからな」


 彼女の話によると、普通といいますかこういったプライベートスペースを持ってない方は街にある宿屋を使用する事で拠点機能を使える、との事。

 因みに拠点機能とは安全にログアウトしたり、そのスペース内でしか使用できない倉庫機能を使う事が出来る。ほかにもあるらしいが主だって使う機能はこれら、らしい。


「倉庫は便利そうですね。私のインベントリそろそろ限界を迎えそうですから。あとで宿屋に行ってみますかねぇ」


 倉庫機能は是非とも活用したいですよ。

 インベントリ内のたまりにたまった未開封の戦利品オーブを何とかしなくてはなりませんから。

 宿の料金はそこまで高くないらしいので金銭的な問題は今のところ大丈夫、なはず。


 いくつか未開封のオーブを開けて中身を売っぱらえば、それぐらいのお金はできる。と思うんですが、その辺りは強化が済んだ後にノアちゃんに聞きますかね。


「あの! シグさんっ!」


 など今後の行動予定を頭の中で組んでいるとノアちゃんの可愛らしい声が私を呼びます。

 なにやら真剣な面持ちの彼女。


「どうかしましたか?」

「そその、ですね……もっしよよよかったら。その……一緒に住みませんかっ!?」と最後の方は上擦りながらそう提案してきたノアちゃん。


 これは願ってもない提案ですねぇ。というかちょっとそれ狙ってたりしてたんですよね。

 宿代が節約できるし。

 しかもノアちゃんという生産職もとい、私の強化に必要な力を有した人間が近くにいると言うのは大きなアドバンテージです。断る理由がない。むしろこっちからお願いしたい案件です。


 あと自室の家具を自由にできるのがいいですよね。私意外と家具の配置とか内装いじるの好きですので。自分色に染める、最高です。

 なんて考えて、思ってたりしてると、ノアちゃんが小さく消えそうな声で「あ」と声に出します。


「……ごめんなさい。その、急に変な事言って。迷惑ですよね。今日会ったばかりなのに……気持ち悪いですよね。そのさっき言った事は忘れてください」そう言って俯いてしまう。


 何と言うかチラッと見えた笑顔は自嘲気味と思えるものでした。

 黙って彼女を見つめるレイナちゃんを見ます。


 こちらの視線に気づいたレイナちゃんが頭を掻きながら『ちょっと言いにくいんだけど』と顔に書いてるような表情になります。


 そして、アナウンスお姉さんの声が。


『プライベート会話の申請がきています。承諾しますか?』

 相手の名前はレイナと出ています。

 私は黙ってそれに承諾します。


『その、な。こいつ気に入ったら一直線なところがあって。それで昔ちょっと……な。あたしはその時はまだ知り合ってないから詳しくは知らないし、こいつが自分で言うまでこっちから聞かないようにしてんだ。だから、なんつーかな。察してくれるとありがたい』

『その内容はご存知なので?』

『あー。さわりだけな。こういう言い方は好きじゃねーが。よくある話ッてやつかな。胸糞わりぃが』

『そうですか。わざわざありがとうございます』

『いや。なんかコソコソやっちまってわりぃな』


 プライベート会話を切り、ノアちゃんを、ただでさえ小さな体を俯いてさらに小さくした彼女を見る。

 よく見れば少し震えてるようです。

 アバターでここまでなるぐらいなので()()、なのでしょうね。


 私はノアちゃんに近づいて、彼女の前に体――蜘蛛の下の部分を地面につけて、上半身を曲げ彼女の頬に手を添えます。そしてグイっとこちらを見上げる様に顔を上げさせ、


「ノアちゃん。そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ? この見た目で何言ってるんだ? と思われるでしょうが、ね? それにこんな私に一緒に住まないかと言ってくれた事。とっても嬉しいです。少し考え事をしてて、反応が遅れただけですので。安心してください。そもそもノアちゃんと、どうにかシェアできないモノかと考えたんですから。ですので。私をここに住まわせてもらえないでしょうか?」


 途中何か言いたそうな彼女でしたが、あえて言わせないでこちらの要求を押し通しました。

 微笑みかければ、彼女はびっくり眼でしたが最後には「はい!」と元気よく返事をしてくれました。


「あ、あの! よろしくお願いしますっ!」と勢いよく頭をさぜるノアちゃん。

「あたしのひい祖母ちゃんがいってたけど、蜘蛛ってエキチュウ? って言うらしいからな」とノアちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でるレイナちゃん。


「これだけデカくて可愛い蜘蛛がいれば、ご利益てきめんですよ?」


 そう言って私もノアちゃんの頭を撫でます。

 このままログアウトして部屋に持ち帰れまいか……そう思うほど可愛い笑顔だったので、つい抱き上げギュッと抱きしめました。


 森の中の拠点(私の巣)から、街中の拠点(私の巣)にランクアップです。




 それから、店をざっと案内され今は、工房にやってきてます。


 そうこれからついに私の強化が始まるのです!

 レベルアップによる強化との違いがどうなるのか? といろいろ楽しみすぎてワクワクが止まりません。


「じゃさっそく。――シグさん。この魔法陣の上に立ってください」


 とニコニコフェイスのノアちゃんの指示された場所に立ちます。

 すると目の前にパネルが現れ、アナウンスさんの声が聞こえてきました。


『武装強化を依頼します。マーズアニマを渡しますか?』


 はいっと。


『マーズアニマの譲渡が完了しました。これより武装強化を開始します。なお強化中は数分間、行動を制限されます。開始してもよろしいですか?』


「あ、こっちの準備はできました。シグさんいいですか?」と言われパネルからノアちゃんの方に目線を移す。


 すると彼女の周りにいくつもの幾何学模様の図形? のようなモノが。

 なんか綺麗ですね……あとファンタジーSFとかでありそうな感じです。と見蕩れつつ、


「こちらは大丈夫なので、開始してください」

「はーい。では行きますねっ!」とニコニコフェイスからキリっと真剣な表情に早変わりする彼女。

 ややあって手を動かし、幾何学模様もとい魔法陣に触れたり引っ張ったりしだす。


 へぇー何やってるか全然わかりませんねぇとつい口に出してしまう。

 するとノアちゃんがこちらを全く見ずに、


「ああ。これはですねー……。成功率とかー。強化の割合をですね。できるだけ高めー」と言いつつ、作業を続ける。

 その間手の動きの速さは全く落ちない。

 有名な生産職と言われる一端なんでしょうかね? この姿も。


 それから一、二分程経過してノアちゃんの手が止まります。


「終わりましたぁ!」という声と同時に私の体全体を覆う幾つもの魔法陣。


 それが次々体に吸い込まれ、そして『強化成功』と書かれたテキストフレームが現れました。


「どうですか? アラクネの強化は初めてで。たぶんほかの種族と変わらないと思うんですが……」とやや不安そうなノアちゃん。


「成功したみたいですよ? なんでも数分行動制限がかか――」


 あれ? 急に口が。

 あれれ? 体が勝手に動きますよ?


 右手が左肩。左手が右肩に、と腕を交差させる感じに体が勝手に動きます。

 それが終わると深くお辞儀をするように前に倒れる上半身。下半身の蜘蛛は動いてないようです。


 見たくても体が動かせません。


 これは一体? と頭の中に?マークが大量に湧く。


「え!? どうしたんですか!?」とノアちゃんの大声が聞こえました。

 それからややあってレイナちゃんの声も。


「おい! シグ! なにやってんだ!? ノアがおび――……なんだこれ?」


 え? ちょ! どうなってるの!? 


 レイナちゃんの慄いたような声色の所為で私の中の焦燥感が煽られます。






次回予告

『脱皮か!?脱皮なのか!!?』

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