街道中のアラクネ姉さん
第一部スタートです
先ずは序
ゲーム開始から五日目。
昨日の出来事で当初の予定を、大幅に変更する事にしました。
当初は十日で、このゲームを先に始めている幼馴染――早妃ちゃんのレベルにできるだけ近づけるハズでしたが、どうにもこのゲームでのレベルは絶対的なモノではない、と判明。
よってレベリング、食す事で強化する能力上げは一旦終了。
その代わりに、違う方向で強化できることがわかりました。
よって、私の新たな目標は、この森の北東に位置するカーディルと言う名の街を目指す事。
そして、今その道中を女の子二人連れで移動中です。
右に野性味溢れ且つ女性としての魅力を損なってない、いやむしろ際立たせるかのような褐色肌で、青紫色の瞳をキリっとさせた美人さん――レイナちゃん。
サラッと煌めく銀髪を頭の横側に纏めて結い上げてる姿が大変よく似合っています。
左には長い金髪のロリっ子――ノアちゃん。
横顔からでも、くりくりとした青みを帯びた銀色で大きな瞳が、愛らしい事この上ない美少女ちゃんです。やや癖毛で緩く波打った金髪が歩く度にふわりふわりと弾んでます。
まさに両手に華!! 素晴らしい街道中ですよ!!
さて、お二人の美声をBGMにちょっと考察しましょうか。
当初気になっていた事も段々わかってきましたので。
先ずは、即死判定ですかね。
急所と呼ばれる頭や首、あとは胸を的確に刎ねたり突いたり砕いたりすれば特殊なMOB以外なら一撃で昇天。胸は的確に心臓を貫かなければ即死判定にならないですが。
これ、実は最初から疑問だったんです。
こういったゲームはいくら急所であろうが即死判定などないのが普通と思ってましたので。
実際、私がプレイしていたMMORPGにはありませんでした。
クリティカル判定はありましたが、このゲームではクリティカル判定イコール即死判定みたいな感じでしょうかね。
勿論大ダメージのクリティカル判定もありますが、リアルな感じでしょうか。
太ももに剣をぶっ刺されば、大抵の生き物は致命傷になったりしますよね? そんな感じ。
私のMMORPGのプレイ歴はこのゲームプレイヤーさん達からすると少しかじった程度。
中には私と同じぐらいの方もいるでしょうけども。
私が主にやってたジャンルはVRW、virtual real warと呼ばれるジャンルです。
もともとはFPS、First Person shooterと呼ばれていたジャンルで、おもに銃火器などを使用する疑似戦争ゲームが主流だったとか。なので今でもその名残でVRFPSと呼ばれたりもします。
この話がどう関係するかというと、RPGってジャンルに不慣れな私が今のところ死なずにここまで来た主な理由に繋がってきます。
それはこのゲームはMMORPGであるにも関わらず、先程話したVRWあるいはVRFPS要素が強い為、不慣れなゲームジャンルだが直ぐに順応できた事。
しかも私の最も得意とする戦い方が通用する。
身を潜めて相手に気取られないように戦闘不能にすること――これが私の得意な戦い方。
いわゆるステルス行動。
しかも、RPGなのに、即死判定が用意されている。
なぜそんなモノが用意されているのか。
それはこのゲームの敵、MOBは倒されるために用意されたエサではないのではと私は思っています。
いえね。ゴブリンにしろ、オークにしろ、全力で殺しにかかってくるからです。
しかも雑に急所を狙おうとすれば見抜いてきます。
全てにおいてリアルなんですよ……このゲーム。
それでいてRPG特有のご都合な部分があったりします。
ステータス値やレベル上昇による身体強化。スキル、アビリティ、魔法等々。
しかもこれが適用されるのは敵も同じ、みたいです。
我々が殺されないように努力するのと同じで、敵もその努力を怠らない。
みんな平等で不平等。
敵も味方も強かろうが弱かろうが一撃で死んでしまう。
それではゲームとしてつまらなくなるので、ボスと位置づけられたMOBは除外されているようですが。
それでもプレイヤーはお構いなく急所に当たれば容赦なく即死みたいですからね。
理不尽に強い、それがこのゲームのボスみたいです。
狩猟系ゲームの要素も含んでると感じます。
だからRPG特有のご都合的な部分があるんでしょうねぇ。
ちょっとそれ気味になりましたが、結論を言いますと、私アラクネが非常にぴったんこに感じていることです。
ステルス行動に特化した感じですし、私基本勝てない戦いはしません。
こういった行動をするのにこの体――アバターは非常に有能です。
改めて自分の選択に間違いがなかったことに、頷いていると。
「どうかしたんですか?」と可愛らしいノアちゃんのお声が耳に届きます。
「いえね。改めてアラクネでよかったなと思ってましてねぇ」
「どうしたんだ? いきなり。あれだけ使いこなしておいて今更だろ」とちょっと呆れ気味の凛々しいお声はレイナちゃんです。
彼女の疑問に先ほどの考えをつらつらぁっと話しました。
「あーなるほどな。あんたのアサシンじみた戦い方ってそこから来てたんだな」
「おや、アサシンとは! なんかかっこいいですね!」
「でも、アサシンだとそのでかい図体邪魔じゃない? そういえば【擬人化】できんだろ? それ使えば?」
「あーありましたね【擬人化】」
「ん?」っと怪訝な顔になるレイナちゃん。
それを解消する為に聞かせましょう【擬人化】に対して興味がない事を。
一言で言えば『死にスキル』
いらないんですよねぇぶっちゃけ。
「なんでだ? 便利だろ? てかそもそもアタシたちは二足歩行だぞ? 足が八本もあったら普通混乱して動かせないと思うぞ? まぁ……あんたの機動力見てるとちょっと自信無くすが」
「ん? 足と思うから動かせないんですよ」
そう、皆さん半身異形、特に下半身が人じゃないタイプとか基本二本以上足がありますが……別に足と思う事はないんですよね。てかそれだと二本しか動かせない事になります。
「じゃ、どーすればいいんだ?」と頭を捻るレイナちゃん。
ノアちゃんも頭上に?マークが浮かんでるような表情です。
「いや。あるでしょ? 我々人間で二本以上動かして且つ、器用に操作できる部分」と言って手を広げて見せます。それから指をワキワキ、わしゃわしゃして見せる。
ピンときたといった顔になる二人。
「もうお分かりでしょうが。指を動かす感じにすればわりとどうにかなります。それに私小さい頃からピアノやってますので。指をわしゃわしゃさせるのは得意なんです」
「あー」とか「へー」とかいう声が上がりました。
「ご理解できて何よりです。まぁ簡単に言えば常識を一旦外す事ですかね。半身異形の時点で私たちの常識外ですので。あと【擬人化】に興味がないのは人の姿になる理由がないからです。今の私の能力やら強さってのはアラクネであるからこそ、本領を発揮できるんですよ。それに人の姿に戻りたいと思うなら、なら最初から人の姿の種族を選んでます。ですが人の姿の利便性ってのもわかってるんですよ? でも私はこの世界では必要ないですね。それに『この世界がそんなに優しい』とは思いません」
そう締めくくれば、二人とも納得顔になる。
ですよねぇ。
ここまで変なリアルを求めたゲームが、ただ単に【擬人化】できるとは思いませんもん。
きっと何かある……気にはなりますが。今はいいでしょう。
ささっと街を目指す事に集中しましょう。
それから、何度かMOBとの遭遇戦がありましたが、私考案の当て逃げ安全マージン戦法で苦も無く済ませ、私はついに森から抜け出し、カーディルの街に到着する事ができました。
次回から街中のアラクネ姉さん!
デートだ! 食べ歩きだ! そして……