始まりのアラクネ姉さん
とぉきぃはぁっ! 西暦ぃ――以下略。ご都合的なVRゲームを舞台にしたお話です。ブックマークや評価ななど、気に入って頂けたのならお願いいたします。
さて、現在私――音無時雨ちゃんは友達に勧められたVRゲーム、ジャンルはMMORPG、タイトルは『Different』というゲームのチュートリアルを開始したところです。
先ずはお馴染みアバター選び。
この仮想体がゲーム内の私になるわけなんですが……いろいろあって迷うなこれ。
これまたこういったゲームではお馴染みのエルフ、ドワーフ、獣人――エトセトラ。
「細かいですねぇ。獣人って細分化されると何種類いるの?」
思わず独り言を零すぐらい多いです。
一応、事前にこのゲームの情報サイトなど見ましたが、そこに「キャラ作るだけで三日かかった!」なんて書いてありましたが……どうやら大袈裟に書かれていたわけではないようですね。
ちなみに今見てるのは人型――人類種のアバターです。
こういうって事は他にもまだあるんです。
それはちょっと前に実装された異形種アバター、人ならざる者ってやつですね。
まぁぁこちらもけっこうな品揃えですね!
「異形種と言ううだけあって……スライムとかありますね。これはスケルトン? 骨ですか。何というかこの二種はいずれ最強になる種族な気がしますね! 流行り的に!」
それはどうでもいいとして……迷うなぁ。
種族特性とかあるようで、それらは覚えられる範囲で覚えはしましたが、この量ですからね私の可愛い灰色の脳みそを以てしても限界があります。
ですが、初期段階ではどれでもお好きにってわけではないようです。
チュートリアルを始める前に仮想体との適合検査があるんですが、そこでの結果で選べるものと選べないものがあるようですね。基準は適合率のようです。
私は見事、プラス47%という結果を叩きだしたので選びたい放題、故に今困ってるんですがね。
ちなみにですが、一般的な数値は±10%前後。
これぐらいが一般ライセンスの取得基準ですね。
まぁアバターで仮想空間内をそれなりに過ごしていれば数値はあがります。勿論限界はありますが。
ですが、仮想世界――VR生活を楽しむのなら一般ライセンスで十分です。
私の様に上級ライセンスまでは必要ないです。
……いやいやいやこれも今はどうでもいいことです!
くそぉ、迷いすぎて思考が選ぶことを拒否してるのか? つい別な事考えてしまいます!
そんな風に我が呪いと言えるべき飽き性を戦っていると、ふと目に留まったある種族名。
「……ほう。これはこれは。いやはや……RPGではお馴染みではないですか? これ。そして、前々から思っていましたがこの手の種族って最強だと思うのですよ。スライムしかり、骨しかり。まぁ特定条件下でって話になりますが、それでも強いのでは? ふむ――これにしますか。せっかくのVRゲームです。人ならざる者になるのも一興でしょう!!」
と言うわけで散々悩んでいましたが、サクッと決定。
こういうのは悩みだすと終わりが見にくくなるものですからね。ピンときたものを選択するに限ります。
ではぽちっとな。
「フハハハハハッ!! なんだこれ! 超楽しい!!」
と童心に返って燥いでるのは私です。いやこれ楽しい!
現在、アバター選択を終えて実際にそのアバターを動かして動作確認してんるんですが、愉しい! 楽しい!
アスレチックのような練習空間内を文字通り縦横無尽に駆け回ってるんですが、なんですか? この機動力! そして俊敏性! 最高じゃん!!
因みに練習空間はチュートリアルだけあってシンプルな空間です。
キューブ状のブロックが重なってたり、大きめの円柱が在ったりして大きな積み木できた遊び場みたいな感じでしょうか。
色分けされたり線が入ってたりするので距離感や奥行きがしっかりわかる仕様です。
そんな世界を飛んだり跳ねたり、糸を出してみたりしてると、自分が小さくなっておもちゃ箱の中を冒険してるような気持になってきます。
童心に帰る。まさにこれ。小さい頃に遊んだアスレチック遊具を思い出しますね。
ここまでアクロバティックな事はできませんでしたがね。
「この圧倒的な安定感……。かなり無茶苦茶な動きをしても、ほとんど負荷を感じないとは。なんとなくですが、多足類の気持ちがわかる気がします。これだったら、脚増やすわ!」
さて、私が選んだ種族はなんなのか? 答えはアラクネです。
上半身は人の女性で下半身は大蜘蛛のアレです。
下半身が蜘蛛ってのはすごいですよ。瞬間的俊敏性など脅威です。
元々蜘蛛という生き物は特定条件下であれば、完成された生き物だと言えます。
これは蜘蛛だけではなく虫と呼ばれる生き物全般に言える事でしょうか。
特定条件下、いわゆる自身のテリトリー内では最も効率よく動けるわけです。
それが下半身になってるわけですから強いと思うんですがね。
ですが、悲しいことに半身異形種は不遇キャラと呼ばれてるようです。
ラミアとかマスコット扱いだとか……。ラミアって蛇でしょ? 強いと思うんですがね。
「まぁいいでしょうそれは。それよりもステータス確認しますか」
ステータスパネルを呼び出し内容を確認。
【】アラクネLv1
〈アビリティ〉
【魔力操作】【消音】【熱源探知】【振動探知】【各毒耐性軽減】
〈スキル〉
【かみつき】【捕食】【魔力糸】【蜘蛛の巣】【下顎】
〈魔法〉
――ふむ。あとは此処の能力値ですが、これは数値化されずに横棒グラフですか。
耐久値が物凄く低いようです……それを補うのがあの機動力なんでしょうね。
うーむ。いわゆる紙装甲だと思って行動した方がいいですねこれは。
あとは意外とSTRとMAGが高いです。
やはり、アラクネはアタリじゃないですかね! 個人的にですが!
ちょっと気になるのが【下顎】ってスキルなんですが……攻撃スキルですかね?
「わからない時は使ってみる! これでしょう。では、【下顎】!」
とスキル使用した瞬間、私の真下いわいる下半身――蜘蛛部分しかもその口から何かが勢いよく飛び出し近くにあった障害物にぶち当たります。
「は? ――っえ!?」
いきなり出来事で思考が止まりかけた瞬間にぐんとこれまた勢いよく今度は私自身がその障害物に引き寄せられます。で結果はかなりの速度と勢い以てしての顔面と胸部を強打。
「おおお顔がっ。体がっ! 胸がっ!」
と余りの痛さにのたうち回る私。
これ絶対おっぱいとか鼻が潰れてる!!
これアバターだからこの程度で済みましたが、実際でしたら弾けてますよね。
「いったい何ですか? 今のは。下の口……てなんかいやらしい言い方ですね。まぁいいでしょうそれは。
何か飛び出したようですが」
と我が下半身の謎ギミック確認すべく上半身を前かがみの様にして下のお口……いやこれアウトだろ! とにかくそこを確認。くそっ! 一度そう思うとそれにしか思えなくなるじゃんか!
「……思いのほかグロいですね。いやいやいや! 実際はここまでグロく――ってそうじゃない!! 違う! これは開口部! 蜘蛛の口です!! あーっもう!!」
キーっと言いつつ頭をかきむしってピンクな思考を追い出します。
「……よし! オーケー。であれは……これですかね?」
再度確認して下顎と思しきものを発見。
両手で掴んで引っ張ってみると、なんと伸びました。
「なんですか? 伸びる下顎? 先っぽはクワガタのような角? いや牙ですかこれ?」
とハサミのように左右から生えた部分をカシャカシャさせます。
感覚があるので、もしやと思いましたが動くぞこれ……。
「ん? そういえば小学校の理科で似たような……ヤゴの顎でしたか?」
トンボの幼体といえばいいんですかね。あれは。
でヤゴには特徴的な捕食器官があるのです。それは伸びる下顎。
瞬時に対象を掴んで引き寄せるけっこう強力なやつでしたね。
「いや、私蜘蛛なんですがね……まぁゲームですからね。ありなんでしょうか?」
なんにしても、これは強力な武器ですよ。なんせ自分でもわかんない速さで飛び出ます!
本来なら敵を掴んで引き寄せるんでしょうが、さっき掴んだのは動かせない物だったので、ああなってしまったようです。
しかし、これ使い方によっては……とりあえず、やってみましょう。
早速思いついた使い方を実践。
先ずはある程度離れた壁に向けて下顎を発射。
壁をしっかり掴んでぐんと力を入れれば、あっという間にシュッタと壁に沿うように横向きに着地。
下顎を壁から離してもそのまま。蜘蛛ですからね! なんらこのまま天井だって歩けますよ!
「これで瞬時の回避行動ができますね! 前方のみですが」
それから他のスキルも確認してみたが、おおよそ想定内の能力で使い勝手も良さそうです。
やはり、糸。【魔力糸】は強力ですね。なんたって蜘蛛と言えば糸ですから!
アビリティ【魔力操作】で糸はほぼ思いのまま。
粘着性や強靭性と伸縮性も自在で、さすが蜘蛛の糸! といったところでしょうか。
で、これまた思いついた、というか気が付いたのですが、先程の下顎急速回避ですが……糸を使えばそれ以上の回避行動が可能でした。
そもそも、蜘蛛ですから糸は腹部ですか? あの膨らんだ部分から出すものだと思ってましたが、どうやら違うようで六本の足先? 爪先? から出るのです。
ちなみに本体というか上半身は手の指先から出せます。
あと脚の名称は爪脚らしいです。すんごい鋭利です。
とりあえず、今できる確認はこのぐらいですね。
パネルを呼び出し、アバターの本決定を。
『使用するアバターの種族をアラクネで決定します。よろしいですか?』
と再確認通知の『はい』をぽちっと。
『種族を決定しました。続いてアバターエディットを開始します』
しかもこれまた細かいな……ふむ。
面倒ですね。
こういう時はあれですね。
「ベースを私の実体データを使用してください。色はランダムで」
『了解しました……読み込み完了しました。確認しますか?』
「お願いします」
目の前に現在の私の姿が表示されました。
濃い青髪に赤色の瞳。緋色とかいうとカッコよく聞こえますね!
パパ譲りのキリリっとしたオメメと相成って……結構迫力ありますね。
嫌いではないですが、よく威圧感があるから注意しなさい。と幼馴染の早妃ちゃんそして、姉の天都によく注意されています。
理由は『ボーっとして人を見ない事! あんたにその気がなくても相手は睨まれてるって思うから! わかったっ!?』とのこと。これは天都から言われましたねぇ。
さて、他、顔立ちなんかは、いつも見てる美少女な私の顔。
髪の長さは腰にかかるぐらいなので、実際と同じぐらいですかね。
前髪のM字具合も一緒ですね。
胸の大きさも同じ。感触も重さも同じ。感度は……若干こちらの方がいいようです!
背丈は……これは蜘蛛が下半身だけに結構目線の高さがが違いますね。
いつもよりやや高いですよ。
上半身はまんま、リアルの私の体ですが……流石、我が最強のEサイズ胸部装甲。
そろそろFにランクアップするんではないか、と危惧してるところですが、完璧に再現されています。
あと下半身の蜘蛛部分の外骨格も髪と同じ濃い青。うん。紺とか藍色とかそんな感じの濃い奴ですね。ほどんど黒に見えますが。
ふむ。色をランダムしたのでアレかと思いましたが思いのほかまともな感じです。
「これでお願いします」
『了解しました。では最後にゲーム内で使用する名前を決めてください』
「――シグ」
……変に凝るよりはこれでいいでしょう。
『登録完了しました。なお種族、アバターベース以外はゲーム内のアイテムを使えば変更可能です。これでアバターエディットを終了します。お疲れ様でした。そしてようこそシグ。私達はあなたを歓迎します』
それを最後に私の視界は白く染まり、ややあってそれが開けると森の中と思しき場所に。
――アラクネ生活の始まりです!