5 とりあえず合流した日和
「邪魔すんぞー。」
「邪魔すんなら帰ってー。」
「あいよー。」
「って帰っちゃダメじゃん!?」
ミントの家のドアを開けて定番のセリフを言い、ミントママことジャンヌにそのまんまの意味で取られて追い返され、大人しく帰ろうとした龍二にすかさずミントの張り手が飛んだ。このギャグは大阪に住んでる人ならわかる。
「あれ? 誰もいないの?」
「ああ、バカ二人ならちょいと出かけてっからいないわよ。」
「バカ二人って何ぞい?」
「いや、気にしないで。」
これ以上事態をややこしくしないためにも、あの二人と龍二は接触させたらダメだとミントは思った。
「で? アルスはどこだ液体。」
((液体?))
一瞬、龍二の言ってることが何のことかわからなかった五人だが、先ほどのジャンヌの行動を推測してその意味を理解した。
「土の中よ。」
「ローズホイップ。」
龍二の質問にサラリと恐ろしい返答をしたジャンヌにミントがシュパァン! と薔薇鞭をお見舞いした。
「ごふ……あ、アンタの部屋でお寝んね中……。」
「最初っからそう言え。」
「ガク。」
息も絶え絶えで場所を教え、ミントが冷たく言い放つと同時に効果音を口に出しながらガクリとなった。
((……恐っ……。))
相変わらず自分の母親には情け容赦ないミントに、プリン達は少なからず恐怖を覚えた。
「……オレの部屋、二階にあるから。」
「ほぉ、そんじゃあちょいと邪魔するぞ。」
その場にズタボロになったジャンヌは放置し、龍二は二階へ続く階段を上がる。ミント達もそれに続いて上っていった。
「ここか。」
「うん。」
わかりやすく“ミント”と書かれたプレートが掲げられている扉の前に立つ一行。
「さ、てと。久しぶりの再会といきますか。」
【ガチャ】
そしてドアノブを捻り、扉を開けた。
「うぅぅぅ……いや、いや、いやぁぁ……来ないで……来ないで……液体……液体が……生首が上に浮いて……いやぁぁぁぁぁぁ……助けて、助けてリュウジさんリュウジさんリュウジさぁぁぁぁぁぁん……うぅぅぅぅぅ」
【パタン】
閉めた。
「「「「「…………。」」」」」
間。
「……ごめん、ちょっとオレ下行ってくる。」
「おう。」
怒りを抑えてるのがバレバレな声色で、ミントが一階へと戻っていった。プリン達は彼が何をしに戻ったのか大体見当ついているので、あえて聞かなかった。
「……しゃあねぇ。」
再び扉を開け、龍二が部屋に入る。綺麗に片付けられた部屋にあるベッドの上に、汗と涙を流しながらうなされているアルスがしきりに龍二の名前を呼んでいた。
「おいアルス。」
「うぅぅあぁぁぁぁぁぁ……。」
龍二が彼女の名前を呼ぶが、反応するどころかますますひどくなる一方。
「……何か、重症だなァこれ。」
「うむ……。」
ポトフとプリンが、アルスの苦しげな顔を見て心配そうに呟いた。
「…………。」
【ムギュ】
「って何してんのー!?」
が、そんな彼らに対して龍二はアルスの目を強引にこじ開けてココアから盛大なツッコミをもらった。
「いや、起きるかなーって。」
「いやいやいやいや確かに目は開いたけどってそれ早く戻しなさいよー!?」
「アルス目がやばいって!?」
ココアとフィフィに全力で止められた龍二は、渋々と瞼を元に戻した。
「ならば……。」
そしておもむろにアルスの腹の上に跨った。
(って、はいぃぃ!?)
(ちょ、えええええ!?)
(うォ!? なるほどこういう大胆なことをすれば……。)
(む?)
龍二のいきなりの行動に顔を赤くしたフィフィとココアと何やらメモるポトフと首を傾げるプリンだったが、本人は無視して、
「おらぁ!! 起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ!!!!」
【バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!!!】
「「「「「ストップストップストップストップストップストップストップストップストップストップストップううううううううううううう!!??」」」」」
ものっそい速さでアルスの頬に往復ビンタをかまし始めた龍二を五人は息ピッタリの速さで止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あと少しで……あと少しで!!」
「落ち着きなさいよってか目が何か血走ってるんですけどってかあと少しでって何が少しなのってか異様に恐いんですけどー!!??」
いろいろ変なリミッターが取れた龍二のヤヴァイ形相にココアが恐れつつも四連ツッコミをかました。
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ……。」
で、当然っちゃあ当然で、やられた本人は頬を真っ赤に腫らしながら目を回して気絶していた。
「……あ、やっべやべ。危うく表通り歩けなくなるとこだった。」
「んな軽く言うセリフじゃねぇぇぇぇ!!??」
うっかりとした龍二にココアが乙女らしかぬ盛大なツッコミをかました。
「……ならば、この手を使うしかない。」
((え、あれ奥の手じゃないの!?))
あの恐怖の連続ビンタが奥の手じゃないことを知った五人は、次に何やらかすのかかなり不安になり始めた。
「…………。」
アルスの枕元に移動した龍二はおもむろに、
「(ボソボソボソボソボソボソボソ)……。」
耳元でなんか囁いた。
「………なァ、何して」
んだ? とポトフが言いかけた
「ひゃあああああああああああああああああああ!!!!!!」
が、アルスの絶叫によって遮られた。
「ひぃぃぃかかか勘弁してください緑帽子の配管工だけは勘弁してくださいぃぃぃぃ!!!!」
((何故に緑帽子の配管工!?))
そして何故か理解不能なことを叫び始めて五人を混乱に陥れた。
「あ、おはよーアルス。」
「お願いですからせめて赤帽子に……ふぇ?」
さらに意味不明なことを口走ろうとしたが、龍二に軽く挨拶されてようやく収まった。
「……………。」
「よ。」
『久しぶりだなアルス。』
龍二を見て固まっているアルスを見て、軽く挨拶する龍二とエル。
「…………。」
「? アルス?」
いつまで経っても動こうとしないアルスに、龍二は怪訝な顔をして首を傾げた。
「……………………………ぅ。」
「?」
長い沈黙の末、ようやくアルスが小声で何か喋った。
「何だ?」
「………ぅぅ…。」
小さすぎるので、龍二は耳をアルスに近づけた。
「……ぅぅぅぅ……。」
「…………。」
「ふぅ、どうリュウジ? その人の容態」
「うあああああああああああああああ!!!!!」
「うおうっと。」
「「「!!??」」」
ちょうどミントが薔薇鞭片手に戻ってきた瞬間、アルスが泣き出して龍二にガバリンチョと抱きついてきた。
「って、えええええ!!?? 何泣き出しちゃってんのぉ!?」
「あ、ミントおかえり。」
泣かれるのが苦手なミントは、何てバッドタイミングで戻ってきてしまったのだろうとごく自然に挨拶したプリンをよそに後悔した。
「ああああああああああ!!! リュウジさああああああん!!!」
「あぁあぁはいはい泣かない泣かない。」
そんなミントを無視するかの、如く龍二の胸板に顔を埋めて泣き喚くアルスの頭を若干困った顔をしたまま龍二は優しくナデナデした。
「……抱きつかれても慌てないんだー……。」
「…………わりィ、ココアちゃん。何か見てたら俺も抱きつきたくなってk」
龍二の反応を見て信じられないという感じに見るココアは意味無く抱きつこうとしたポトフの足を思い切り踵で踏みつけて黙らせた。
「泣くなっつーの。大体何でんな泣いてんだよオメェはよ。」
若干うんざりしてきた龍二は、それでも撫でるのをやめずに泣いている理由を問う。
「だって! だって恐かったんですよぉ!? 何か緑色の水溜りから女の人が出てきて気絶して、さらに目が覚めたなーって思ったら目の前に水溜りから出てきた女性がいていきなり溶け出したからまた気絶して、また目が覚めたら今度はまた水溜りから生首だけ出して『ゲヘヘーメルヘーン』とか言いながらスイスイ動き出してまた気絶して気絶して気絶して気絶してうわあああああああああん!!!!」
「……もっかい下降りようか。」
「あい……。」
事細かに説明したアルスの話を聞いたミントは、薔薇鞭の先でボロボロの状態で拘束されているジャンヌにまた冷たく言い放ってズルズルと引きずりながら階下へと降りていった。
「グス……すいません、取り乱してしまいまして……。」
「い、いやー別にそんなこと気にしないでいいよー?」
「うむ、誰だって泣きたいことだってある。」
「そうそう。第一アレを初めて見た人は大体キミみたいな反応するからさ。」
「あ、足いてェ……つつつ。」
泣き止んだアルスの精神崩壊を避けるため、ミントは家から脱出(?)することを提案。そして現在地はミントの家の前。因みにジャンヌはミントによってちょっとヤヴァイ。
「あ、ありがとうございます……えっと……。」
「? ……あ、私ココア=パウダーだよー。」
「僕はプリン=アラモードだ。よろしく。」
「あ、ミント=ブライトです。」
「つつ……ポトフ=フラント。」
「荒木龍二。」
「ってアンタ紹介いらないでしょうが!」
初対面だったことに気が付いたミント達はそれぞれ自己紹介した。どさくさに紛れて龍二も参加したがフィフィにツッコまれた。
「………………あ、すいません。ボクはアルス・フィートです。よろしくお願いします。」
個性豊かな名前に若干気後れしたアルスだったが、慌てて自分も自己紹介した。
「? “ボク”? キミ、もしかして男?」
ミントが疑問をそのまま口にした。
「…………………ボク女です。」
「え゛。」
が、悲しそうなアルスの一言によってミントはギクリと。
「ちょっとミント何言ってんのよ。アルスにとってそれは禁句よ?」
「それに来る前にリュウジからアルスは男よりの女と紹介されたぞ?」
フィフィとプリンの非難により、ますますカチーンとなるミント。
「ご、ごご、ゴメン!! 何かオレ勘違いしちゃった!?」
「……いいんです。もう慣れてますから。」
「ホントごめんなさーーーーい!!!!」
悲しそうに今度は目を伏せるアルスにミントは土下座する勢いで謝った。
「はいはいアルスもそう怒るなっての。ミントとお前初対面なんだからそう思うのも無理ねぇだろ? ほら、ミントも頭上げれ。」
「……わかりました。」
「……はい。」
龍二に言われてまだ拗ねた感じはあるけれど落ち着いたアルスと満身創痍のミントだったが、とりあえず場の混乱は収まりました。
「いや、でもホントごめんね? うちのバカ親が。」
ミントが自分の親の代わりに、アルスに申し訳なさそうな顔をして謝った。
「あ……いえ、それでも助けてもらったことには変わりはない…………し。」
「…?」
が、アルスが何か言いかけたけど尻すぼみになっていった。
「…………え……と……あの人、ミントさんの…?」
「……うん、心の底から嫌なんだけど実はそうなんだ……。」
聞きにくそうに聞くアルスに、答えにくそうに答えるミント。
「……………あ、あの………何かあったら、ボクも力になりますから……頑張ってくださいね?」
「…………うん、ありがとう。何かすっごく嬉しいよ……。」
心の底から心配しているアルスに、ミントは何だか泣きそうになった。
今ここに、同じ苦しみを味わった者同士によるコンビが結成された。
「でもあのお袋さん、結構おもしろかったがな?」
「「いえ全然おもしろくないですから。」」
普通に言う龍二に普通に否定するアルスとミント。
「まぁあれはほっといていいとして、さてこれからどうするよ?」
ジャンヌはもはやあれ扱いされてしまっていたが、それには誰も反論はなかった。
「え〜っと……帰るまでまだ時間あるし、自由行動というのはどうでしょー?」
「よしそれでいこう。」
「正直何でもいいんでしょ?」
ココアの意見に賛同した龍二にミントが尤もなことを言った。
「んじゃあまた後で集合かけるとゆーわけで……解散!!」
「え!? ちょ、リュウジさんどこ行く気なんですか!?」
「さっきうまそうなメシ屋があったからそこ行くぞ。」
「待ってくださいお金あるんですか!?」
「ねぇ。」
「ただちに今すぐ止まってくださああああああい!!!!!」
どぴゅーんと走り去っていった龍二をアルスがツッコミながら追いかけていった。
「……お昼にあれだけ食べてまだ食べるんだ……。」
「それよりお金ないって言ってたけどどうすんのー?」
「む…………食い逃げ?」
「げ、足腫れてきた……。」
取り残されたミント達は、ただ龍二とアルスを見送るだけしかできなかった(一名何気に重傷)。
「メルヘン!!!」
……極力家の屋根の上からツルでグルグル巻きに縛られたまま吊るされている何かを視界に入れないように。
いやぁ、何だかこの後の展開どうしようかなぁと思い悩んでまーす。
……とりあえず、あのキャラは出したいと思うコロコロでした。あのキャラって何ぞい? とお思いの方は想像するだけに留めておいてくださいませ。